黒猫ソフィア 2014-11-01 12:36:40 |
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「___..ということは、あれですかな?迷いの森に居た悪魔は十くらいの少女の姿だと」
村長は如何にも"村長"らしい立派な顎髭を撫でながら言った。
その目線の先に居るのは、真っ黒いローブに真っ黒い帽子を被った怪しげな男。
お前が悪魔なんじゃないか、と言いたくなるような風貌だ。
「はい。白いワンピースを着た少女でした」
男はニコリと笑った。
と言っても、目元は帽子に隠されて見えないから、本当の笑顔には見えなかった。
…悪魔を見て笑っていられるなんて普通じゃない。
「悪魔とは元々ラージ地方で生まれたもの……。その姿は大抵化け物の様で、可愛らしい少女の姿をした悪魔なんて聞いた事もない。
もし仮に少女が悪魔だとしても、ラージ地方から此処まで来るのは無理じゃ。極寒の地を抜けた後、灼熱の地を通り過ぎる事になる。早くても二週間は掛かる。
例え悪魔と言えど旅路の間に死 んでしまうだろう」
村長は客人との間に広げた地図に目線を落とした。
やはり北の大地ラージ地方から此処、ルイフィック地方まで来るのは馬車が無い限り無理だ。
ふぅむ、と低く唸ってから、村長は、目の前の客人と目を合わせる。
「__話に聞くと御客人、貴方は吟遊詩人であるらしいですな」
村長の言葉に男はすぐさま頷いた。
「はい。私しがない吟遊詩人でございます。それにしても、今何故それを?」
男のもっともな問いに、村長は顎髭を触った。
それからばつが悪そうに小さな声で言う。
「今ザガラは不安で満ちて居りましてな。此処から逃げ出そうと思っとる輩も居るんですわ。……どうですか、ここは一つ、貴方の詩で活気づけを」
男は口元を愛想よく歪ませる。
「ああ、そういう事ですか。悪魔を見掛けた吟遊詩人、なんて怪しい肩書きで村の皆様に詩を聴いて貰えるか少々不安ですが、村長の頼みと来たら喜んで詠わせて頂きます」
「おお有難い。御礼はお渡しします故」
肩の荷が一つ降りた村長は、深く安堵の溜め息を吐いた。
ネガティブな気持ちには詩がもってこいなのだ。
……と急に、村長の家のドアがノックされる。
「誰じゃ」
村長が問うと、ドアの向こうの人物が焦った様子で名乗る。
「アルダ·バクスターでございます!!助けて下さい!!息子が……!!」
村長の声かけで外に立っていた見張り番がドアを開けた。
声の主の女性が、真っ青な顔で息を切らして入ってくる。
「落ち着いて、簡潔に話しなさい」
落ち着き払った村長の声に、女性は深呼吸をした。
そして、目線をゆっくりと村長に合わせる。
「息子が……ライル·バクスターが……迷いの森に行ってしまいました……」
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