ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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やさしく(からくり卍ばーすと)
横たわる殺戮人形からくり――。殺すと決めたはずなのに、殺せなかったこの手でそっと頬を撫でる。
早く目を覚ましてほしい。そして、その優しい声で名前を呼んでほしい。そんな事を思っていると彼女は目を覚ます。
焦点が合わない、ぼんやりとどこかを見つめやっと目が合った。今俺はどんな顔をしているのだろうか。憎しみに染まっているのか? 優しさに染まっているのか? いや、それとも、それ以外の色に染まっているのか?
君が好きだと言った表情が作れているのだろうか、俺には分からない。けれど、もう君を殺したいなどとは思わない。
ゆっくりと君の髪を梳いて大きくなったね、なんて心の中で声をかける。勿論返事などされない。
「……蓮?」
君の唇が動く。君の目の前にいるのは君を殺そうとしていた男。不安だろうか、それとも憎らしいだろうか。俺は優しく君に声をかけれるだろうか。怯えることはない、と。
かなりの時が経ってしまっても持っていてくれたおもちゃの指輪。きっと「椿」の心の奥底には「凛」がいたんだ。
そう思うと、あの火の海の中、指輪を追いかけた行動に納得できる。ただの妄想に過ぎないけれど、だけれど、持っていてくれたことが何より嬉しかった。
「凛……。おはよう、それとも椿って呼んだほうが良い?」
「凛」
どうやら自分の名前は覚えているみたいだ。だいぶ疲れているだろう。これ以上あまり無理は出来そうにもないので、日を改めて訪れる事にしようと立ち上がる。すると服の袖を引っ張られ、「どこ、行くの……?」か弱い声で尋ねられる。
「仕事だよ。凛が目を覚ました事を知らせないといけないし」
「駄目……。やめて……」
「大丈夫、もう凛を殺そうなんて思ってない」
何に不安を抱いているのだろうか服を握るその手は全く離れない。まだ自分が殺されると思うのだろうか。頭を撫でて否定するのに溢れる涙。
「美紅様……」
あぁ、なるほど。
「大丈夫。美紅様を殺したりしないし、今美紅様も疲れて寝ているところ。だから凛もゆっくりお休み」
「ほんと……?」
「ほんと」
分かった。そう言って凛は手を離して安心したように瞳を閉じた。お休み。
俺はまだまだ優しくなんてなれないだろうけれど、君が怯えないように優しくするよ。だから、安心してお休み。
君が起きて大好きな美紅様と笑っていることを祈っているよ。だから、その為には色々な仕事をこなして来るから、俺がここに帰って来る事を祈って待ってて。
――行って来ます。
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