ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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【土砂降りの雨 ルパン三世の場合】
「うわー、まだ降ってるよ」
「止まないね……」
そんな話を聞きながら俺は次元の居る教室に向かった。この雨の中帰る気は更々なく、相棒の次元もそうだろうと思い、若干重たい足を動かしていた。
どうせ傘がないんだ、帰ったら絶対に風邪を引くだろう。其れは目に見えていた。
「次元ちゃん居る?」
ガラガラとドアを開けると、そこには次元と話をしている女子生徒の姿があり、何だか楽しそうに会話をしているようにも見えた。
名前は確か――立花柚木(たちばなゆずき)。茶髪のセミロングで、お胸の方は不二子ちゃんよりも大分小さいが可愛らしい女の子。
「おう、ルパンじゃねぇか。なんだぁ? おめぇ傘でも忘れたか?」
「そーなの! お家まで遠いデショ? だから止むまで待ってるってわけ」
ごくろうな事で。じゃ、俺は帰るぜ。そう言って次元は立ち上がった。
いつも家ではぐうたらしてる癖に、帰る時はルンルンなんだから。そういうところが次元らしいったら、らしいけど。
鞄を持って俺の方に歩いてくる次元は俺の横を通り過ぎる瞬間に、「傘は忘れんなよ」と一言余計な事を言って、帰宅してしまった。
その場に女の子を残してまで。
次元ちゃん!? 彼女さん置いて行ってますよ? おーい。
「次元ちゃんどしたのよ……」
俺が途方に暮れていると柚木が「傘忘れたの? 珍しいね」と言って来るので「たまには濡れようと思ってな。水も滴るイイ男って言うだろ?」と言えば「風邪引くよ」と、間髪入れずに突っ込まれた。
「そうなんだなぁ。風邪引きたくねぇから、俺は残ってんだけどよ、柚木ちゃんは何で残ってんの? しかも次元と一緒に」
次元と一緒に居た事に黒い何かが襲った。嫉妬だろうか、言葉にすれば『嫉妬』であっているはずだ。
何故、次元と楽しそうに居たんだ。傘を持っていないなら入れて欲しいと強請っていたのだろう。それは良いとしよう。けれど、傘は持って来てある。登校の時に使わなかったのだろう、全く濡れてない傘が、机の横にかけられている。
「ルパンを待ってたから、私が」
「え? 何で?」
「一緒に帰りたかったから!」
背後にお花が見えるのは気のせいだ。俺様が勝手につけたお花畑だ。
「へー。そう」
たった一言返せば不満だったのか柚木は頬を膨らませて「何よー。嫌だっていうの? 折角相合傘しようと思ったのにぃー」と、言うので、女の子を大切にする俺様カッコイイ何て思った。
「ならしようじゃない。俺丁度傘ないんだよなー。柚木ちゃん入れて?」
「うん!」
互いにノリが良いと時々歯止めが利かなくなる。そういう時が柚木と居る時は多い。
**
学校から出てしまうと、無性に恥ずかしさを覚える。俺達以外皆相合傘などしていないから、余計にそう感じてしまう。
「ルパン、ごめんね。無理に一緒に帰らせたみたいで……」
身長的にも俺が傘を持つことになり、柚木が濡れないようにしていると、柚木が小さく呟いたので、少し驚いた。
それでも顔に出す事はせずに、ニコニコといつもの「お調子者」の笑顔を浮かべながら「なぁーに、傘が無かったのは事実だしよ、俺にとったらラッキーってモンよ」何て、何の励ましにもならない言葉を吐いた。
「うん、でも……ごめんね。忘れ物したから取りに行く、ルパン先に帰ってて」
何かを言う前に柚木は俺から離れて行った。傘から出て行ったのだ。
当然体中雨に濡れる羽目になるのに、太ももまでの長さのスカートを穿いた女の子は、走って傘の外に出て行った。
「柚木ちゃーん?」
声を叫ぶようにして出しても返事はなく、ただひたすらに真っ直ぐ走って行った。
そんな姿を見せられたら、追いかけないわけにはいかないデショ。だから追いかけた。
ビニール傘を持ちながら逃げていった女の子を追いかけて、すぐに見つけた。路地裏に隠れていた。
「そんなトコに忘れ物なんてするのか」
声をかけたら自分でも驚くほどに棘のある言い方だと思う。パチパチパチ、雨が跳ね返る音と共に、柚木は驚いた顔で見上げながら「先に帰ってって、言ったのに……」と、最早涙なのか雨なのか分からないが、目元を濡らしながら口を開く。
口が動くたびに、唇から放たれる白い息と荒い息が怯えてるようにも思えた。
気が付けば腕が勝手に動いていて、気が付けば傘を手放して羽織っていたブレザーを脱いで柚木の頭に被せていて、気が付けば柚木を抱きしめていた。
「んのバカ! 風邪引くだろ! 忘れ物なんてしてねー癖に!」
思わず怒鳴ってしまった。ありゃ、こりゃ、余計に怯えられたぜ! と思ったところでもう遅い。震えながら「ごめん」と謝る柚木を力いっぱい抱きしめた。女心なんて分かっちゃいない。
実際不二子の様に強欲で我侭なら何をすれば良いか何てすぐに分かる。だが、不二子と柚木は違う。どんな高級な物をプレゼントしたとしても、喜ぶかもしれないが、それと同時に思うのは申し訳なさだろう。不二子はそんなのお構いなしだ。
「風邪引くだろ、取り合えず暖めるとこ行こうぜ」
そう言ったものの、周りには住宅しかなく、あるとすれば学校と、公園だった。飲食店がちらほらとあるのだが、こんな姿で行く訳にもいかず、どうしたモンかと思っていると、大分先にあるホテルが見えた。
「ルパン」
「どしたの?」
「熱い」
もしかしてと思ったので、額に手を当てて熱を測るとかなりの熱があった。さすがに俺も風邪を引いたらやばいから傘を取って水を切って、柚木を歩かせる羽目になったのは悪いが、歩いてホテルに向かった。
「ルパン……ここって」
ラブホテル。カップルの男女が一夜を過ごすことで有名な。
「襲いやしねぇよ」
一言自分に言い聞かせるように放ち、チェックインをして、部屋に辿り付いて、靴を脱いで服のまま風呂場に直行した。
どうせ濡れてるのだし、柚木も裸を見られるよりよっぽどましだろう。
「ルパン、熱い!」
「ちょっと我慢しなさいって」
「そうじゃなくて、お湯が熱い! 温度下げて!」
どうやらお湯の温度が熱かったらしい。温度確認をすると46度。そりゃ熱出てても熱いデショうに。お湯の温度を下げて、頭からシャワーをぶっ掛けて、体が温まったところでその場でバスロープに着替えさえた。
「制服乾燥機にかけるからちょっとの間コレ着てて頂戴」
「うん……」
熱があるのに会話できるのが意外だ。そして俺の目の前で躊躇いもなく脱ぎ始めたモンだから驚いちゃったじゃないの。まぁ、襲ってないけど。
それから柚木をベッドで寝かせて俺も体を風呂で温めて、バスロープに着替えて(其れしかなかったんだ)柚木の様子を見ていた。
「ルパン……」
「なぁに」
「何でもない」
そう言ってそのまま目を瞑ったのを見た。
**
翌日、熱は下がっていたので柚木を家まで送り、また学校生活が始まった。
俺と次元、五右ェ門と不二子に柚木。この5人でバカ騒ぎをして、銭形に追い掛け回される。
それだけの日々に戻った。戻ってしまった。
俺はきっと、このことには気付きたくないのだ。
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