ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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謝罪(続き)
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『ごめん。好きな人が出来た。凄く可愛いくてさ。だから……別れよう』
学校の中だろうか、机とイスとロッカーと教卓、窓掃除道具入れ、恐らく教室だろう。
その教室に赤い日差しが入り込んで全体を赤く染めている。夕方4時、5時ぐらい。
黒髪で短髪の同じ歳なのだろうかと思わさせる幼さが残っているものの、実際の所は今年で卒業の3年生が学ランを羽織って申し訳なさそうに、小さく本当にかすれてしまうんじゃないかと思わせるほどの声で、別れを告げた。
当時付き合っていたので急な別れを告げられ、驚きと共に誰なのか分からない『凄く可愛い子』に嫉妬した。クラスの中でも人気だったので付き合えた時はとても嬉しかったし、時々見せる表情や仕草を独占したいと思っていたのだから仕方ない。
けれど、彼にとって、大事な人が出来たのだろう。だから、波風立てず、去る事にした方が良いんだ。きっとそれで彼が幸せを手に入れる事ができるんだ。
『羨ましいなぁ。――はそんな可愛い子と付き合えるなんて。絶対他の男子が文句言うかもね。ありがと、じゃぁね。楽しかったよ』
本当に彼の言葉を聞いたのはこれが最後だ。何も言わせず、私は教室を出て行った。頬に温かい、思い出を流しながら。
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懐かしい夢を見ていた気がする。いつの頃の夢だろうか――あぁ、そうか。中学生の頃の夢なのか。確か、告白されて、初めは凄く驚いたけれど、嫌いじゃなかったし、どっちかっていうと好きだったので、付き合って、どれぐらいの年月だっただろう。
あまり長くはなかったと思う。大体5ヶ月ぐらい……。5ヶ月経った時不意に好きな人が出来たと言われて、その場で別れたのだ。
彼が幸せになるなら、それで良かったんだと、今でも思う。
私がどうして選ばれたのか不思議で仕方なかった。ただの遊び半分なのか、それとも本気だったのか、でもその後に可愛い子が彼女になっているのだから、私の事は忘れてるだろう。
考える事より、時計を見ると午全2時半。そういえば今日は仕事が休みだったと思い出し、再び布団に包まる。
季節的には暑かったり涼しかったりするので、冷房を入れたくても入れれないに等しい。
大体冷房を入れた途端に豪雨だったりするから電気が落ちたりする可能性もあるので、結局冷房は消す事になるから最近は夏になるまで冷房なしで頑張ろうと思う。
そんな事をさよに言ったら「え? 普通に冷房ガンガンにしてた方が涼しいじゃん」と言われて、さよは暑がりだというのをそこで初めて知った事があった。
今日一日何をしよう。久しぶりの休日だから家でゴロゴロするのも良し、買い物に行くのも良し、連さんが居たら蓮さんとメールしながらテレビ見るも良し、そんな事を考えると眠れなくなったので、携帯を取り出してメールの確認をしてみた。
特に誰からも届いてないだろうと思っていたのだけれど、新着メールが一通あり、誰からかと思うと蓮さんからだった。
時刻的には昨日の午後九時になっていた。
『明日仕事休みになったから、メールやチャットしまくりやで!』
一文だけなのだけれど、どこか優しく感じられ、それに関西弁にも大分慣れてきたのだろうか違和感はなくなってきている。
近くに関西に住んでいる人でも居るのだろうか。それとも蓮さんが関西人なのだろうか。
微笑みながら窓の外を眺めると、今日は晴れな気がすると思った。
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蓮:紅さんも休みやったん? 偶然やな。俺も店長から『明日やっぱり休みでお願いするわ』って言われたから休みやってん。
紅:私はシフト制なので今日は休みでした。
蓮:ええよな、そういうミラクル的な! 俺そういうの好きやわ。
あの後二度寝を決め込んだものの、中々寝付けず、ホットミルクを飲んでベッドでゴロゴロしていたら、いつの間にか寝ていたらしく、気付けば午前10時になっていた。
メールなどのやり取りのことに関しては返信してないので、起きて朝食を食べてからメールを返信した。
『13時ぐらいからならチャットできます』
メールを返信してから、可笑しな事に気が付いた。
>メールやチャットしまくりやで!
良介がよく『ゲームしまくるわ!』や『やりまくった』と言っているので、何となく意味は理解できる。幼馴染みと言っても私と良介だとやっぱり良介の方が関西弁は上手だと言える。
同じ関西出身でも、関西弁を貫いてるのと、そうじゃないのとではやっぱり違うのだろう。
それでも、同じ関西出身だから分かる事なのだけれど、蓮さんの言い方には引っかかる。
まるで私の休みを知っていたかのような言い方……。
「そんな訳、ないよね」
一瞬でも連さんをストーカーと思った事を恥じる。そんな人ではない。きっと、そんな事をするような人ではないのだ、蓮さんは。
――ピンポーン。
家のインターホンが鳴った。誰か来たのだろうかと思い、一旦チャットに『少し落ちます』と書いて覗き穴から見ることもなく、無用心だと思うが、早く済ませたい思いもあって、ドアノブを回した。
「よう、折角の休み出かけようってさよが煩くってな」
肩を竦めて立っていたのは大上先輩だった。否、さよはシフトを見た時には休みだったのに、大上先輩は休みじゃなかったと思う。
「先輩ズル休みですか?」
「まぁ、一回ぐらい休んでも誰も気にしーひんやろ」
「えっ……」
普段大上先輩から関西弁を聞くことはないのだけれど、その先輩から、何の違和感もなく、関西弁が聞こえたので目を見開いていたら、顔に出ていたのか「良介と居たら関西弁ってうつるのか?」と尋ねられた。
そんな事はないと言い切れないので、「ずっと聞いてたら……多少はうつるかと……」としか答えられなかった。
少し、焦った。もし、大上先輩が蓮さんだったらどうしようと思った。そんな事はないって分かってる。
連さんは私が住んでいる街に住んでるわけではないのだから。
確か、生まれは関西で親の仕事の都合で関東に行って、大人になって戻ってきたと言っていたような気がする、と思い出していく。
だから『生まれ関西やのに、関西弁喋られへんかったらアカンから練習するわ』と大分前のチャットで書き込んでいた事を思い出した。
なので、大上先輩が蓮さんという事ではないのだ。きっと。
「今日は良いです。二人で行って楽しんで来てください」
「佳代のことだから彼氏でしょ~」
「な訳ないでしょ!」
頬が赤く染まるのを覚えつつ、反論したら余計に怪しまれて「佳代は彼氏さんと忙しいみたいなので、先輩と私は行きまーす! では!」と言って手を振って去って行った。
大上先輩はさよに呆れながらも「また職場でな」と軽く手を上げて去っていく姿を見つめていた。
2人が去っていったのを確認すれば、ドアを閉め、鍵を掛けてノートパソコンに向かう。
そして再び書き込みを再開しようとしたら丁度大上先輩とさよが去って行った時間帯に、チャットが更新されていた。
蓮:友人ならそっち優先してええねんで。
紅:ただいまです。いえ、大丈夫です!
本当に蓮さんはストーカーではないのだろうかと、思ってしまう時がどうしてもあるんです。
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