ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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泥棒と探偵のこどもの日(ルパン三世/名探偵コナン)
毛利探偵事務所に一本の電話が入った。
こんな朝早く(といっても午前10時なのだが)に、どこの誰が何の用だと思いながら、欠伸をしつつ、いつものソファに腰掛けた。
そう言えば、どこかの誰かもこんな風にソファに座っては、酒を飲んでいたっけと思っていると、小五郎から「おい坊主、一昨日助けてもらったっていう、ケイン・ゲジダスから電話だ」と言われ、その名には深い関わりがあって、頭より先に体が動いた。
『おい坊主元気にしてっか?』
受話器を持った途端に懐かしい渋い声が身体中に響き渡って、ごくりと唾を飲み込んで何故、今、この男が電話を掛けて来たのだろうかと悩んでるより先に受話器の向こうから『ちょっくら出て来れそうならちょっくら顔貸せ』と言ってきたのである。
断る理由もないのですぐに行くと伝えたら、すぐに電話を切ろうとしたので、何処に向かえば良いのか尋ねる前に電話は切られてしまった。
「ちょっと出かけてくるね」
無邪気に小五郎に伝え、夕方には帰って来ると子供らしく伝え、ドアを開けてスケボーを持って階段を下りていると見たことのある革靴が目に入った。
「は!?」
勿論、今住ませてもらっている毛利探偵事務所の場所を言った事はない。
けれど相手には無意味なのか、道路と歩道を遮っている手すりに腰を掛けているボルサリーノを被った男がそこには居た。
「よう、久しぶりだな」
「何でこんな所まできたのパパ?」
「パパって呼ぶな」
そう、眼鏡の少年の前にはほぼ喪服と言っても言いぐらいに全身真っ黒なスーツを身に纏った――次元大介が居る。
次元の前には眼鏡の名探偵――江戸川コナンもとい工藤新一が存在している。
「っで、何で毛利探偵事務所の前に居るんだよ」
「ガキを迎えに行くのが大人の役目だろーがよ」
ま、乗れよ。お前をアジトに連れてって食ったりなんかしねぇしよ。何て子供にいう事なのだろうかと思いながらも、コナンはすぐ傍に止めてあったフィアットの助手席に乗り込む。
日本車とは違い、助手席が右側なので違和感を覚えつつも「これ、ルパンの車だよね?」と、子供らしく尋ねた。
「俺がルパンの車運転したらいけねぇってか」
そうじゃないけど……。よく貸してくれたよね。何て犯罪者と探偵が普通の会話を行う。
そして信号が黄色になった頃合に一旦愛車を停車する。普段仕事以外では交通ルールを守るのかと、探偵は思ったが、それと同時に犯罪者が交通ルールを守っている事に意外性と可笑しさに笑ってしまいそうだった。
「顔がニヤけてるぜ。ガキンチョ」
不意にルパンの声が聞こえた気がした。
いや、そんなはずはない。隣に居るのは一昨日助けてもらったと嘘を言った次元大介で、ルパン三世ではない。多分。
仮に今隣にいるのがルパン三世なら、何故次元大介に化ける必要があるのか。
「……ルパンの声真似でもしてるの?」
そう尋ねた頃に男の愛車が動き出した。どこに向かっているのだろう、それを聞いても返ってくる言葉は何となく想像できるのできるので聞く事もやめた。
都会から大分離れていくのを窓越しに見つめていれば、森の中を走り、小さな丘の上に建っている建物を見つめる。
アジトに連れ帰って食べるって訳じゃなかったのかよ。口中で呟くも男の愛車はその建物に向かっているようで、近付いてくれば男の愛車は段々スピードを遅めていく。
「着いたぜ。俺は車止めてくっから、先に入ってな。日本屋敷と違って靴は脱がなくて良いぜ」
先にコナンを降ろして窓を開けて言った次元は、取り合えず、中に入ったら一番手前の左側のドアを開けて中に入れと伝え、車を止めにコナンから離れていった。
それを聞いたコナンは呆れながらも言われた通り、玄関のドアを開け「お邪魔、します……」と遠慮気味に声を掛けながらギシリッ、と音を立て廊下を歩いた。
洋風に造られているこの建物はルパンのアジトなのだろうか、それとも次元が持っている物なのだろうか、恐らく前者だろうと思いながらも、一番手前にある白いドアを見つめた。
開けて良いのだろうか、開けて中に入れと言っていたので開けて良いのだろう。
二回ノックをしてからドアノブを回し「し、失礼します」と、犯罪者の部屋に入るのにかしこまる必要があるのかと思うが、俯いて一歩踏み出せば「よぉ」なんて、先ほど聞いた声を耳にする。
「じ、次元大介!?」
あからさまに驚きを隠せないでいるコナンに、次元がバーボンが入ったグラスを揺らしながら「おう。次元大介だぜ」と声をかけた。
「な、何で……俺さっき、お前に連れて来られて……」
車を止めに行ったはずの次元がもう戻って来ているのか、裏口を使えば早く此処まで来れるだろうけれど、コナンはこのアジトに隠し扉があるのか、裏口があるのかどうかすら分からない。
ならば、先ほど此処まで連れて来た次元大介は誰なのか。
その答えは上から聞こえてくる声が答えを表した。
「いやぁ。まさか全然気付かねぇとはねぇ」
「ルパっおじ……ルパンさん!?」
一瞬「ルパンおじさん」と言いかけたのを言い直しては、未だに驚きが隠せないのか、目を見開いて固まっている。
コナンの後ろに現れたルパンは次元の変装を解いており、真っ黒なスーツという普段とは全く逆の衣装を身に着けて、ヌフフと笑みを浮かべていた。
「おじさんで良いって前にも言ったろ」
「な、何の真似だ!」
「何のマネって、折角の子供の日だぜ? 子供のおめぇさんを祝ってやろうとかと思ってこのルパンアジトにお呼びしたのによ……」
分かりやすいのかそう演じているだけなのか、はたまた両方なのか次元にも分からないが、ルパンは体育座りで壁に向かってきのこを生やしながら、壁に向かって会話していた。
同じ人物が2人居たらどんな反応をするのだろうかと思い、思った事はすぐに行動するので、ニシシと笑いながら次元に止めておけと言われつつも関係なしに、ケイン・ゲジダスと名乗って毛利探偵事務所に電話を掛け、此処まで連れて来た。
それだけなのに、どうしてここまで言われるのだろうと本当に白い壁に向かってブツブツと呟いていた。
「おいルパンよ。だから止めておけって言っただろ。どうせこうなるのがオチだったんだからよぉ」
「うるせーやい!」
変装を解いた上に次元の変装用の帽子を被っていたので、その帽子を次元に向けて投げつけ、あからさまに拗ねた。
「僕何のために呼ばれたの?」
きっと今ルパンに尋ねても意味がないだろうと次元に尋ね、面白そうな顔した次元に「ほらよ」と投げつけられたのを反射的に受け取った。
小さな小包だと思いながらも、「開けて良いの?」と首を傾げると了承の声を聞き、小包にくるまれている紙を剥がしていけば黒い箱が姿を現す。
何が入っているのだろうかとゆっくりと中を開ければささ餅が二つ、ちょこんと入っていた。
きっとどこかの和菓子屋で買ったものだろう。どこのかは知らないが、店の名前が箱の蓋に書かれていた。
「コレを渡す為にルパンは次元に化けて、僕を此処まで連れて来たの?」
ねぇ。と鋭い視線を向けながらルパンに尋ねた。未だに体育座りをしてこちらを向いているルパンはフンッと顔を逸らした。
バカだとコナンは思った。本当にバカだと。
「何してんだよ。アンタら、こんなバカみてーな事……」
自分達はただ、犯罪者と探偵。それしかないと思っていた。その関係でありつづけるのだと、そう思っていたからこそ、今こうして何かを渡されると、胸の内が熱くなる。
何、やってんだ。本当。
自分の正体を知っているというのに、それはコナンにしてみれば弱みを握られたのと同じことなのだ。だけれど、こうして犯罪者でも探偵と言う立場でもない時、どうすれば良いのか分からない。
「バカだと思うならおめぇさん、蓋の裏、見ねぇ方が良いかもな」
次元の声で蓋の裏を見る。
確かに白い文字が書かれていた。フランス語でこう書かれていた。
Je prie pour votre vrai bonheur.
Et j'attends pour le jour où je peux vous affronter dans un vrai sens.
「本当、バカだよ。おめーら」
自分の帰りを待ってくれている人が居るのだと、そこで実感し、温かい何かが、頬を伝った。
あなたの本当の幸せを願っています。
そして、私は本当の意味であなたと対決できる時を待っています。
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