ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
通報 |
謝罪(続き)
**
蓮:そりゃ悪い事したな。
私:蓮さんは悪くないですよ!
蓮:えぇ話の途中を邪魔したんだろ? 俺。
私:そんな事ないですって!
蓮:でもアレやで。俺結構私さんの事狙ってたのになぁ……。こっちの話やからあんまり気にせんといてな。じゃ、今日はコレで。おつかれ。
――蓮さんが退室されました――
お疲れ様です、そう画面に打ち込んでノートパソコンの電源を切る。
どこか逃げていった様に思える書き込みをして、蓮さんは退室していった。
今日の良介とのことを話したのだけれど、蓮さんから冗談なのか本気なのか分からない事をいわれ、胸の中がすっきりしないが、明日も仕事があるため今日もベッドに横になって眠りについた。
**
蓮:そういや、そろそろハンネ変えたら? さすがに私さんって呼ぶのはどうかと思うし……。
私:そうですね、ハンネ変えてきます。
――私さんが退室されました――
――紅さんが入室されました――
紅:ハンネ変えてきました。
蓮:何か新鮮やな、ところでどう読んだらええの? くれない? べに?
紅:くれないでお願いします!
蓮:了解。
それから暫く蓮さんと話をしていると、何故だか会ってみないかという話になっていた。
同じ趣味と言ってもお互いお酒などを好んでいて、休日に少し飲んでいるという話になり、それなら一緒にご飯でも行ってみたいなと言う話になり、私が冗談で『会ってみます?』何て仕事帰りの電車の中で、そう言ってみた。
仕事の所為にするのは良くないのだが、仕事でお酒の匂いを嗅いだりするので多少酔っているのかも知れない。
すぐに我に返り『わわ、冗談です(笑)』と文字を打ったのだけれど、それより早く『それもええかもなぁ』と書かれていた。
送信した後その言葉に気が付いたので取り合えず『(笑)』と打って暫くすると、『冗談やったん? 俺結構嬉しかったで(笑)』と返ってきた。
紅:団体客がお酒を飲んでたのでその匂いで酔ってただけです。
蓮:仕事?
紅:そうです。
蓮:お疲れ。じゃ、今日はもうはよ帰ってはよ寝るんやで。
紅:分かりました! すみません、落ちますね。おやすみなさい。
蓮:おやすみ
――紅さんが退室されました――
**
それから三日、蓮さんからのメールはなく、少し落ち込んでいる自分に気が付いた。
蓮さんにだって蓮さんの時間がある。仕事や友人との時間もあるのに、その蓮さんを独り占めにしたいと思ってしまっていた自分がとても恥ずかしく感じる。
ネット上の関係だと分かっていても、ただの文字列だけのやり取りだとしても、蓮さんには嫌な思いなどしなかった。
変な事は聞いてこない、私が嫌だと思うことは必要以上に聞いてこないので、それが私は嬉しかったのだ。
実際でもそういう人なのだろう。多分、周りは良い人が多いのだと思う。
そんな人だから、誰にも譲りたくないという気持ちも存在する。
ネット上の関係、ただのメール友達。そうだと言い聞かせても募ってくる想いが強すぎて、その日の仕事は誰を相手にしたのかすら思い出せない。
それぐらい『蓮さん』という人に想いを寄せている事に、気が付いたのだ。
『別れよう』
ふと、頭の隅っこから蘇った。
そういえば、結構前にも同じような事を思い出したと思いつつ、彼の言葉に自分が何て言ったのかは全然分からなくて、結局、また考える事を放棄して夜の街を歩いていた。
**
蓮:いや、悪いな。ちょっと調子悪くて寝込んでたわ。
紅:大丈夫ですか?
蓮:ただの風邪だって言われたから何ともないで。メール返信できなくて悪かったなぁ。また後で返信返すな!
紅:いつでも大丈夫ですよ!
――嘘吐き。
適当に理由をつけてチャットを退室し、イスから立ち上がる。
こういう時携帯だと便利だと思う。小さいオシャレな雰囲気のカフェを後にして仕事場に着いた。
そして大体いつも会うのが良介なのである。
「佳代やん。今から出勤なんか?」
「うん。さよと入れ替わり」
更衣室で着替えて、髪を束ねていると控えめにドアがノックされた。
シフト制な為、今日シフトに入っていた大上先輩や良介、さよ、高槻君とその他大勢の誰かだろうかと思いながら、返事をすれば良介が中に入って来る。
そして出勤かと問われ、それに返答していると、メールが届いたのを鞄の中から知らせる。
出勤時間まで時間があったので鞄の中から携帯を取り出してパスワードを解除し、トップ画面を起動させる。
白いふきだしから『メールが一通届いてます』と黒文字で書かれていたので、ふきだしを押して、メール確認画面を開く。
差し出し人はさよと書かれており、内容は『疲れたー』と書かれたいたのだった。
「さよから疲れたって書かれてた」
嘘ではないことを口にしたはずなのに、良介は何かを疑うような表情をしつつ、「そないな事言うてどうせ彼氏やろ」と、顔を近づけてムッとした表情をしながら述べた。
「だから彼氏じゃないって……。彼氏居ないし……」
要らないと言えば嘘になるけれど、誰でも良いというわけではない。
出来ることならば蓮さんみたいな人に彼氏になって欲しい。
女なら誰でも同じ事を思う。優しくされたい、甘えたい、可愛いって言われたい。そんな夢のような事を思いつつも、絶対にないと思い、頭を振る。
「わっ、急に頭振らんでも……」
「あ、ごめん」
急に頭を振ったの所為で良介に驚かれてしまい、笑顔を向けて謝罪をして、携帯を鞄に仕舞って出勤時間が近付いてきたので「ごめん、もう行くね」と、良介に手を振って更衣室から出て行く。
**
分かっている、駄目な事だ。やってはいけない事なのだ。
それがどういう事なのか、もう分かりきっているのに、「お前が悪いねんで」と誰も居ない更衣室で呟きながら『ソレ』を手に取った。
だが、取った瞬間に分からないものが存在した。『暗証番号』だ。絶対に分からない。
聞く事も出来ない。だからどうするのか、ソレを元の場所に戻した。
「俺が居るのに何でお前はそう誰も居らんみたいに思ってんねん」
髪をくしゃくしゃに掻き乱しながら自分のした事に腹が立って、近くにあった白い壁を殴りつけた。
バイトなどもいるのでドンッと更衣室から音がしたら驚くだろう。
ドアの向こうから「大丈夫ですか!?」などと声が聞こえ返事をしなければ入ってくることが想像できるので「平気や。ふらついただけや」と、ドアの向こうに返答する。
女性用更衣室に男の俺が居るのか疑問そうにしつつも「そ、そうですか」と返ってきた。
足音が遠くなるのを聞いて、一息つきながら壁に凭れてそのままズルズルとしゃがみ込む。
――あぁ、クソ。最低やろ、俺。
トピック検索 |