ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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謝罪(続き)
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「調子どないや?」
店の閉店時間になって、お茶や遅めの夕食などを口にしている時間帯に、良介が話しかけてくた。
手に持っていた菓子パンをテーブルの上に置いて、「ちょっと疲れたかも」何て嘘をわざと言ってみれば隣に遠慮なく座ってきて、黒のソファが満員状態になりつつも、気にした様子はなく「何嘘言ってんねん。バレバレや」と関西弁で話してくる。
「あ、バレた」
「アホ。バレる以前に今日客自体が少なかったやろ。俺だって3組しかオーダー取ってへんで」
私と良介と大上先輩とさよが働いているのは、ごく普通の飲食店。
数人のウエイトレスに、数人のウエイター。給料は良い方で、法律には反していなく、国の許可は得てある。
お金がないという訳でもなく、ここで働いている大半は『格好良い制服、可愛い制服』に憧れた者が多い。私もその一人で、良介もその一人である。
ちなみに店の名前は『坂代理』という店の名前である。平仮名にすると「さかだいり」。私達の下の名前が一文字入っているなんてミラクルもあったりする。
「さよと大上先輩と交代だっけ? 大上先輩見た目も格好良いし、声も渋いから人気高そうだよね」
「俺かてええ声やと思うけどな」
何を張り合っているのよ、良介の場合はノリが良いだけ。と敢えてショックを受けるような言い方をすればショックは受けていないという訳ではないが、やっぱり関西の血が混じっているだけあって「そうそう、俺はノリが売りや。何でやねん!」とノリ突っ込みをしていた。
やっぱりそういうところは明るいなと小さい頃から思った。
「相変わらず変わらないね」
「何が……?」
「何でもない」
笑顔でそれだけを言って、テーブルに置いた菓子パンに手を伸ばし、再び口に運ぶ。
その菓子パンは開封してから時間が経った所為で、少しパサついていた。
「佳代って正直なところ付き合ってる奴おるん?」
唐突に尋ねられた質問に一瞬目が点になるも、すぐに我に返り首を大きく振って「いないない!! 第一私を好きになってくれる人がいるのかも怪しいし……」と段々声が小さくなって、俯いていくのが良く分かる。
そう、不器用であんまり目立つ事はなく、どちらかと言うと部屋の隅で本を読んでいる様な女に惚れる人などあまり居ない。
「結構近くに居ったりすんねんで? 例えば――」
良介が言い切る前にピロリンッと携帯が鳴って、メールなのはすぐに分かったので後で確認しようとしたら、良介は自分が何を言おうとしたのかを思い出したかのような表情をして、「先に携帯確認した方がえぇんとちゃうか?」と、私の茶色い鞄を指差した。
うん、と小さい声で返事をし携帯を取り出してメールを確認する。差出人は『蓮』さん。
内容は『良い忘れたけど、誕生日おめでとうな』と書かれていた。
私はそれに礼を述べて返信をした。
「そういえば何を言おうとしてたの?」
良介が何かを言いかけていたのを思い出し、首を傾げながら尋ねるけれど良介は「何でもあらへんよ」と、笑みを浮かべる。
何かを隠しているような雰囲気ではあるものの、無理に聞くのも良くないだろうとその時は何も聞かず、良介と他愛もない話で盛り上がっていた。
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