ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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Les deux pensée(ルパン三世1st 峰不二子という女)
最近ファーストの様子が可笑しい。
気まぐれで、無茶を平気でし、表情が良く変わる奴だと思っていたら、ごく最近の話なのだがファーストが俺の部屋にやって来た。
部屋自体にやってくる事は別に問題ではない。次の作戦だったり報告だったりするので、頻繁にあることなのだが、内容が絶対に可笑しい。
「俺今日から此処で寝るぜ!」
枕を担いで俺のベッドに腰掛けて、いつの間にか俺のベッドで寝てやがる。
自分の部屋に行けと言っても全く行こうとはせず、頑なにその場から動こうとはしないファーストにそろそろ本気で聞いてみても良いだろうと、今夜ファーストが寝る前に尋ねようと思う。
「みねふじまた明日な。おやすみ~」
呑気に片手をヒラヒラさせて俺の部屋に向かったファーストを追いかけて、俺も部屋に入る。
いつもお前の所為で俺はソファで寝てるのを分かってるのか、分かってないのか、堂々と俺のベッドに横になり、男子高校生がするように端末を弄っているのだった。
「おい、遊ぶなら部屋でやれよ」
「そんなの俺の自由でしょーが!」
いや、確かにそうだけれどよ。そう言ってやりたいのだが、今日こそは聞いてやろうと思っているんだ。
だからわりぃけど、今日はその主張は譲れねぇんだわ。
「……んだよ」
ファーストの近くまで行き、ずっと見下ろしていれば、その空気に耐えれなくなったのか、端末から顔を逸らして俺を見つめた。
「いい加減、俺をベッドで寝かせろよ!」
ドガッ、と音が出るくらいに、ファーストを蹴落としてみた。
何がしたいんだと言うような目で見られているが、気にすることなくベッドに腰掛け「俺の陣地だ!」というのを主張する。
「んだよ、そんなに怒らなくても良いデショ」
「ここは俺の部屋だ。おめぇの部屋じゃねーよ」
ふと、俺の傍に置かれてるファーストの端末が目に入り、手を伸ばして何かゲームでもしてただろうかと思い暗証番号など設定してなかったのか、指で触れたらトップ画面になった。
そのトップ画面に俺が映っているのだが。
「あ! おい、見んなって! 返しやがれ!」
床で寝転がっていたファーストが勢いよく立ち上がり、俺が握っている端末にめがけて腕を伸ばして奪い返そうとしているが、俺はその端末の電源を切り、自分のズボンのポケットに入れ、代わりに俺の端末をファーストに渡した。
機種は同じものだったので、見た目では判断できないだろう。
「これお前のだろ」
「おぅ。ご明察」
「俺様の返しやがれってんだ!」
やっぱりすぐに分かったか。溜息を零しながら端末を取り出して、電源をつける。
そして俺が映ってる画面をファーストに向けて「何で俺が映ってんだ?」と、尋ねるとファーストルパンは答えようともせず、ただ「返せ」を繰り返す。
「……あっそ」
そんだけ返してほしけりゃ、返してやらぁ。そういって端末をベッドの上に置いて立ち上がって、自室を後にした。
――あんなモンより、俺をみろよ。
そんな心中の呟きなどファーストルパンには聞こえない。
**
それから数日間、ファーストルパンは部屋に現れなかった。
アジト自体にはいるのだけど、自室に籠もっているのか風呂やトイレや食事以外で部屋から出てきた様子はない。
時々出てきては「飲みに行って来る」と言うだけであって、それ以外の会話はここ数日、全くしていなかった。
――早く会いてぇなぁ。
独り、誰も居ないアジトの中で思った事だった。
**
「いてぇな! もっと優しくしろって!」
「文句あんなら自分でやれ」
何をしたらこんなに怪我をするんだと思いながら、包帯を巻いていた。
いつだってそうだ。爆弾抱えた奴の傍に行って怪我をして帰ってくるような、無茶をする奴なんだ。
考え方が同じなのだから、俺もいつかそうなるのだろうかと思っていると、不意に「おめぇさんが、そうやって文句言いながら手当てしてくれんのが、俺の楽しみだって、つったら、どうするんだよ?」と問われた。
何をバカな事を言っているのだろうかとその時は思った。怪我しないのが一番良いに決まってるだろ、そう答えてやりたいのだが、求めている回答とは違う事は知っていたので「さぁな」と短く返事した。
俺にそんな事を聞かないでくれ。
あぁ、そんな事言ってた日もあったけ。そう思いながら目が覚めた。
そんな昔の夢など、果たして覚えているのかと思いつつも、夢で見たことで、覚えていなくてもこうやって夢という形で出てくるのかと、ぼんやり考えた。
あれから何日が経ったのだろうか、最後に聞いた「飲みに行って来る」という声は、再びこのアジトで聞くことはなかった。
どうせどこかの女と飲んでるか寝てるかだろうと分かってはいても、床に散らばった服装を見てその考えが消えうせていく。
どこぞの女と寝てるだけ、それだけなのだが、自分の着ている服と同じ色の衣類が懐かしく、そして恋しく思った。
「らしくねぇ……」
小さく呟いてみても、意味が無かった。だから、そのまま寝てやろうと、帰ってくるまで寝て過ごして、酒でも煽って、仕事なんかいつだって良い、金はまだ残ってる、アイツが帰って来るまでは当分仕事しないと決めて、寝返りを打ったその時だった。
――ギィィ。
遠慮がちに玄関のドアが開けられた。帰ってきた、すぐにそう思った。
敵襲かもしれないなんて微塵も思わない。次第にコツコツと廊下を歩く音がする。あぁ、久しぶりだ、おめぇの足音を聞くのは。
声を掛けるべきなのか、それとも大分飲んでるだろうから寝かすべきだろうか、二択を迫られた。
声を掛けたら立ち止まるだろう、声を掛けなければ部屋に戻るだろう、だが、すぐに出ていくことも想像できる。どうすれば良い。そんな事を思っていると、向こうから「起きてるか?」と声が掛かった。
丁度、足音が止まって自室の前に居ることはすぐに分かる。
「あ、まぁ……。今、目が覚めた」
嘘ではない。嘘ではないのだけれど、どこかその瞬間重たい空気を感じた。
体を起して床に散らばった服を手に取り、もう何日も洗濯もしてないなと思いながらも同じ服を着る。
どうせ風呂にも入ってないんだ、洗濯してない服でも同じだ。
「わりぃな。実はよ……」
一旦区切られた言葉に嫌な予感がする。出て行くとか、もう来ないとか、女と組むとか、そういった事が頭から離れない。着替えの速さは至って普通だろう。女じゃないし、それに気にしてもしょうがない、だからシャツを着て、スラックスを穿いて終る。
ジャケットを羽織ったって、ネクタイなど締めたって何の格好付けにもならない。
「好きな奴が出来ちまったんだ」
グサリ、腹にナイフを刺されるような痛みが胸に走った。抉られているような、そんな感覚になりながらも、平常を保つ為にドア越しだというのに、口角を上げて「へー、良かったじゃねーの。一生大事にしてやりな。峰不二子みたいに裏切りタイプかどうかは知らねぇけどよ」なんて余裕たっぷりみたいな、返答をした。
一体どこの誰だって? コイツを奪おうとしてやがんのは?
発端は自分の所為だと分かっている。あの日、無理矢理端末の中を見てやろうなんて思わず、理由も聞かずに好きにさせていれば、コイツが飲みに行く事も、好きな奴ができたという報告もなかったんだ。今更後悔しても遅いのだが。
好きにさせていれば良かったじゃないか、俺の部屋を使おうが、そんなのは別にどうでも良かったじゃないか。俺がコイツの部屋を借りてベッドで寝ていたって良かったのによ、そんな遅い後悔をしながらファーストにどんな表情でこれから接したら良いんだ。
俺は絶対、お前に悪態をつくだろう。それぐらい俺は黒い奴なんだ。
「珍しいよな。お前からそう言うこと言うなんて。大体は女がお前に惚れたとかが多かったのによ。俺にじゃなくて、お前の『相棒』の次元大介にでも言ってやった方が良かったんじゃねーのか? 俺とお前は『只』の、ビジネスパートナーだしよ」
只のビジネスパートナー、相棒でもなければ、友人でも、恋人でも愛人でもない。ただのパートナー。どこどこの宝石がどこどこに運ばれるらしい、そういった情報を交換するだけの、関係だ。
俺には相棒と呼べる奴がいない。コイツの相棒が次元大介という名だったので、多分、俺の相棒も次元大介になるんだろう。だが、相棒という線まではいっていない。
「ちげぇよ」
「何が違うって?」
俺とお前は只のビジネスパートナーじゃねーよ。ドアに凭れる音と共に、ファーストの声がした。
何言ってんだよ、ただのパートナーだろ。それで良いだろ、そういう事にしておいてくれよ。 俺が、俺が気付いてしまったことに、気が付きたくなくて、目を背けていた事に、もう一度向き合えってのか? 無理だ。嫌だ。きっと俺はお前を独占するようになる。お前という「ルパン三世」を俺だけの物にしたくなる。
俺とは違って、陽気で、考える事もバカらしくて、でもそこが似てて、似すぎていて、そんなお前に俺は、惚れちまったんだ。
お前が居なくなった数日間、ずっとお前のことしか考えていなかった。今頃お前はどうしているのか、お前はどこの誰と寝てるのか、はたまた仕事してるのか、そんな事ばかり思っては、考えたくなくて寝る事にした。
ただ睡魔などすぐにやってこないから睡眠薬に頼ったりした。寝ていればいつか帰ってくる。その間に寂しい想いなんてせずに済む、そう思っていた。
「ただのビジネスパートナーに抱かれる訳ねーだろ。分かれってんだ」
ドアの前で、コイツは何を言ったのか。一瞬理解するのに時間がかかった。
「それってよ……」
かろうじて出た言葉も、聞こえているのかどうか分からないが、小さく出てきた言葉に「お前さんが好きなんだって事だつーの! 分かれこのバカ!」と怒鳴られた。と同時にドアをダンッと激しく殴られたが、俺自身じゃないので痛くも痒くもない。
「開けるぜ」
「嫌だ」
「開けさせろ」
「嫌だ」
「開け――」
「ぜってー嫌だ!」
ファーストがドアに凭れていたらドアを開ける事は出来ない。だからと言ってドアから離れろということにもならなかったが。
今すぐにでも抱きしめたい。嫌だ嫌だと言いながらも俺にワルサーを向ける事はなく、銭形から奪ってきた手錠をはめても、手袋を外すみたいにスルリと外す事もなく、口では嫌だと言いながらも、必死に俺に応えようとするその様を、もう一度みたいと思った。
抱きしめたい、キスしたい、抱きたい、今まで我慢してた欲求が激しく俺の体内を襲った。
啼かしたい。ぐっちゃぐちゃにしたい。本当、俺はどこまでも黒い奴だ。
「キスさせろ」
「は!?」
ドアを押さえる力が一瞬弱くなった。だからその一瞬を逃さなかった。ドアノブを回して、ドアを開けた。当然ファーストはドアから離れる。気が緩んでいたからだろうバランスを崩したファーストの腰に手を当て、そのまま引き寄せた。
「は、離せ!」
「嫌だ。ぜってー離さねーよ」
離せ離せと俺の体を引き剥がそうとするが、その分、俺はファーストを強く抱きしめる。背中に腕を回し、コイツの体温を確かめるように俺の体に引き寄せて、逃げれないようにがっちりホールドさせて、ジタンの匂いを嗅ぐ。
飲みに行った割りに、ジタンの匂いしかしない。女がつけている香水の匂いすらしない。
「お前、本当に飲みに行ってたのか? この数日間」
そう尋ねると、ピタリと動きを止めて「初めは女と飲んだ。一緒に寝た。けど、お前さんのことが忘れられねぇし、アジトに帰るなんて出来やしねぇし。お前さんが来ねぇ所っつったら、とっつあんの所しか思いつかなくて。で、とっつあんの所で暫く落ち着こうと思ってたら、いつの間にか、とっつあんに恋愛相談なんかしちゃって……。もう訳分からねぇよ」と、俺の胸に顔を埋めながら答えた。
バカだな、俺もコイツも。しかも銭形の所って、お前、死刑になるかも知れなかったんだぜ、何恋愛相談なんかしちゃってんだ。本当にバカだな。多分、俺もコイツの立場なら同じ事をしていただろう。
それで、死刑が近付いてきたら脱獄したのか? 本当、バカだよ。お前。
「……バカだな。俺達」
小さく呟いて何となく、コイツが俺のベッドを使っていたことが、分かった気がする。きっとお前、寂しかったんだな。俺と同じでよ。
同じアジトに居ても、俺は暫く仕事するために新聞やラジオや本などを読んでいた。
話しかけられてもう夕方だった、朝だった、夜だった、そういう事が多々あった。俺の部屋で寝ると言い出した日から、俺はリビングで酒を飲みながらテレビを流しながら、本を読み、情報を頭に入れていた。
きっとそれが寂しかったんだろう。仕事の為だと分かっていて、邪魔をしないようにしたかったんだろう。だから俺のベッドで寝ると言った、俺の匂いが染み付いているベッドに。
そう考えると、俺のベッドで端末を弄っていても可笑しくはない。
「悪かったな。気付いてやれなくてよ」
俺もお前が居なくなってから気が付いた。お前が居ないと寂しい事に。もう手遅れなのかも知れないと分かっていても、謝るのが遅いと思っていても、俺はお前に対して酷い事をしたと思っている。このルパン様が人様に謝るなんて滅多にないことだぜ。
お前の端末の中に俺が居ることには驚いたが、よく考えてみれば俺の端末にも、お前がいたんだわ。だからおあいこだ。
「俺もお前さんが、好きだぜ」
耳元でそう囁いてやるとファーストは顔を赤く染め上げ、顔を隠すように俺の胸に埋めた。
「顔見せろよ、キスできねぇじゃねぇか」
「無理矢理するんだろうが」
「ごもっとも」
体を少し離して、唇に触れた。そのまま舌をねじ込ませてかき回していると、喉の奥から喘ぎ声が聞こえ、ファーストの手から力が抜けていく。
甘い、そんなコイツの声が俺を支配して、水音を立てていた。
「一回だけ、なら良いだろ?」
俺の問いにファーストは腕を首に回して「一回以上の間違いだろ」と囁いた。
あぁ。一回じゃ終る訳ねぇだろうが。覚悟しておけよ。
それからは互いに互いを求め合っていた。
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