ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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タクシー(ルパン三世2nd 峰不二子という女)
狭い車内の中、窓を開けて煙草を吸っていると、目の前に見慣れた赤色のジャケットを着た男が現れた。
高さ的に腹ぐらいまでしか見えないのだが、目の前にいるのが知り合いだと分かれば、男側の後部座席のドアを開け、「3万な」と冗談を言った。
男は肩を竦めて苦笑いを浮かべているんだろうと予想はつくが、言葉は返ってこず、そのまま後部座席に腰を下ろしたのをバックミラー越しに確認する。
「ところで、今日は何か良い事あったのか?」
様子的に上機嫌なのが分かり、煙草の火を車内にある灰皿で消し、ふぅと息を吐いて『空車』を『貨車』に変更した。
「良い事ねぇ。そりゃぁ、いっぱいあるぜ? まずおめぇさんに会えた事だろ。次に俺様に会えねぇのがそんなに寂しかったのか知らねぇけどよ、盗んだモンはちゃんと返せよ」
その瞬間、肩に掛けていた赤ジャケットを肩から落とす。
「買ったんだつぅの」
そんな言い訳が通じる訳でもなく、目の前の男はケラケラと笑い「買ったはずのジャケットになーんで、俺様の煙草の匂いがついてんだろうなぁ? おめぇさん、さっき吸ってたの『ジタン』じゃなくて『セブンスター』だっただろうに」と顔を近づけてきた。
――ちけぇよ、そう言いたくても言えない。
「ところで何処行くんだ?」
気を取り直して尋ねると、暫し一呼吸置いて「アンタの家だ」と短く答える。
そういえば色々散らかったままだと思いだし、それと同時に昨夜起きた事を思い出して男には悟られたくないのだがまぁ無理だろう。
顔を逸らして微かに頬が赤いのを感じながらも、車を発進させる。
「何照れちゃって? 昨夜のこと思い出しちゃった? とーっても、可愛い声で啼いてたからねぇ。恥ずかしい?」
1発撃ってやりたかったのだが、後々修理が面倒なので舌を打ってその場を乗り切る。
――俺、何でこんな奴に惚れたのだろうか?
「うるせぇ!!」
一言怒鳴ってそっぽを向きながらも車は運転する。
昨夜のことなど思い出したくもない。あんな、自分じゃないような声を出し、身体中を熱で火照っていたあの夜の事など思い出そうとすればする程頬が赤くなる。
――ああ、もう思い出したくもねぇ! そう叫びたくなるが後ろに居るのはいくら恋人と言って良いのかどうなのか分からないが一応客だ。
客が居る前でそんな事を口にする訳もいかないのでグッと堪える。
「あーれま。可愛いねぇ……。おめぇさんがそんな表情するなんて誰も思わねぇよ?」
「うるせぇ、黙れ」
「ほんとはもーっとおねだりしたかった癖に『仕事あんだ』なんて、逃げちゃって」
「あーもう黙れ」
「そんな口が悪い奴がお仕置きが必要なのねぇ……」
そう奴の口から聞こえた途端、車が止まった。
幸い後ろに他の車はなく、この時間帯なのもあって俺が運転している車しか今の所いないのだが、いつ誰が通るかも分からない、隣はすぐ歩道がある公道で、コイツはリモコンを使って車を止めたというのだ。
俺も良く使う手だが、目の前で、この際後ろだがすぐ近くで行われると腹が立つ。
「おい。お前、何か仕込んだだろ」
どうせコイツの事だ、何か仕込んだに違いない。例えば遠隔操作が出来る小さなチップとか、運転だけが出来るように改造したとか……。
「俺様が止めたい時用に作ったチップをちょっと、車ちゃんのどこかに張ってるぜ」
ロクな事をしないな、コイツは。そんな事を思いながらもまた面倒なものを仕込んだなと溜息が出る。
どうしてコイツは俺の偽職業を知って、こうやってやって来て、ベラベラと2人きりになったら昨夜の事やチップのことなどを話すのだろうか。
俺自身、お前の物になったつもりはない。俺の性格上、なるような奴じゃないと知っているのにコイツ――ルパン三世(2nd)は俺とこういう関係を作っているのだろうか。
「後で取れ」
「取っちゃったら、折角俺様が一生懸命作った意味ねぇじゃないの」
「知らねぇよ。俺が取れつったら取れ」
「今夜の気分は命令系っと」
――何の事だ! 我慢出来ず、懐からワルサーを取り出してコイツに突きつける。
そろそろ我慢の限界ってモンだ。からかい過ぎたな、第一俺は今夜どころか、昨夜すらそんな気分じゃなかったのに、お前が無理矢理「抱かせろ抱かせろ」って煩いから、酒でも飲んで聞き流していたらそれを良い事に、酒に媚薬なんか仕込みやがって、俺が動けなくなったらそのままベッドに連れて行って、気が付いたらいつの間にか抱かれていやがって。思い出すだけで、自分に苛立ちを覚える。
「んな気分じゃねぇよ」
「あら? もっと過激なプレイが良いってか?」
もう勝手にしろ。そう口にすれば本当に勝手にするのだ、この男は。
ニシシ、なんて笑顔を浮かべ「今日はどんな風に抱いてあげちゃおう」何て後ろで言うもんだから俺の理性も段々、ぶっ飛んでいっていた。
**
「っ、おい……」
小さくベッドの上で声を掛ける。
それで気が付いてくれるのだから有り難い。
「どうしたの?」
「もう、無理だ」
ルパンはニヤッと笑みを浮かべて俺の体を貪った。
――本当、俺は何でこんながに股の猿顔と付き合っているのだろうか? ましてや自分が相手だなんて。
でもまぁ、他の誰かに喰われるより、お前に抱かれる方が俺は嬉しいがな。
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