ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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『隊長のすべて俺にちょーだい』
俺の所属している隊長はどちらかというと、美形だと思う。髪が長いのが余計に良いのかも知れない。その姿を見てしまうと目を奪われる。金髪で碧眼、高身長そういったものがあるから目を惹くのかも知れない。ただ、その姿は何と言っても綺麗だと思っている。
「……今日の任務はここまでだ。各自油断せずに帰還しろ」
「了解!」
今日のミッション内容、モンスター討伐。数はそんなにないのでいつもより気楽に戦えるが、だからと言って気を抜くことは許されない。だからアジトに戻るまでは警戒を怠らない。
「隊長……! ちょっと良いですか?」
ピンクの髪をツインテールにした同じ隊の「アイナ」が隊長に声を掛ける。
「アイナか、どうした」
「この武器ミッション前に強化したんですが……前より使い方が複雑になってしまって……」
「見せてみろ」
これです。とアイナはショートブレードを隊長に見せる。確かに一昨日見たときより強化されて、多少複雑な事になっている。複雑なことが苦手なアイナにしてみれば軽くパニックを起こしても良かったはずだ。いや、既に起こしていたのだろうか。隊長とアイナだけその場に残り、他は先に帰還しろと言われたので帰還した。
**
「隊長~! さっきはありがとうございます! おかげで使い方が楽になりました!」
「そうか」
「はい! 今度隊長と討伐ミッション受けて良いですか?」
「あぁ」
アジトに戻るなり、アイナと隊長の声がする。甘いアイナの声は嫌いな人は嫌いだろうが俺は別に嫌いじゃない。寧ろ羨ましい。俺にはそんな甘ったるい声が出せないので、その点で女の子は良いなと思う。
隊長は口数は少ないものの、仲間思いのところがある。俺は経験した事がないが、さっきの様にアイナが武器の使い方が分からなかったら教えたり、必要としている材料があれば隊長自ら譲ってくれるらしい。そんな体験俺は全くした事がないから俺は隊長に嫌われているのだろうか。
そんな事を思っているある日だった。いつも通り、隊長とアイナと俺でミッションに向かう事があった。メンバーは前回より少ないが、採取ミッションなのでそんなに人数は要らないだろう。無事ミッション内容も終わって帰還しようとしていた頃――ギュッと隊長が自分の服の袖を掴んだのを見た。
普段ならそんな事しないのに珍しいと思っていると、顔に汗が浮かび上がっている。アイナは気づいていないようだが、汗の量は背中をも濡らしており、ひょっとしたら立っている事もままならないんじゃないかと思わせる。隊長の事だから何でもない様子を装っているように思える。ここで俺が隊長に大丈夫かと声を掛けても隊長はとぼける可能性の方が高い。
アイナの肩を軽く叩き、振り向いたところで「悪い、先に戻っててくれないか? どうしても隊長と話したい事があって……」と小声で伝えてみる。好奇心旺盛なアイナは『話ってなぁに?』『隊長と二人きりで?』『もしかして~』なんて聞いてくるだろう。その時の言い訳を考えていない。
「うん、良いよ。じゃ先に行ってるね」
何も疑う事なくアイナは手を振って帰還した。アイナの背中を見送りながら足を止めて、後ろを振り向く。勿論隊長がそこに居るわけだが、隊長が何をしたって顔で見てくるからどうしようと足が竦む。
別に悪い事をしている訳じゃないからそこまで怯えなくても良いといえば良いが、隊長に対して罪悪感が生まれる。
「隊長……あのっ」
「戻るぞ」
俺の言葉を無視して隊長は歩き出す。俺を通り過ぎるとやっぱり背中の汗の量は尋常じゃない。いつからだったんだろう、どんな状態なんだろう、何で言ってくれなかったんだろう、そんな事を思い、気が付けば隊長の腕を掴んでいた。
「隊長! 辛いなら休んでください! 俺……知ってますから、隊長が優しくて、誰よりも仕事をしてるって見てますから……! だから、具合が悪いなら、休んでください」
後半は最早涙声だと思う。自分でも泣いているのが分かる。心臓が煩い。怒られるかもしれない、嫌われるかもしれない、そんな事ないと言われるかもしれない、一体何が返ってくる? そんな俺を置いてけぼりに隊長は俺を抱きしめて耳元で「じゃぁ、少し休もうか」と囁いた。
いつも自分一人で仕事して、仲間が淹れたコーヒー飲んで、手伝うと言っても断ってて、睡眠もろくに取ってなくて、食べてるのかも怪しくて、そんな隊長が俺を抱きしめたという事は、期待しても良いんですか――? 隊長。
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