ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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【弱音】
今日はいつもより早く起きたから、ソファでくつろいでいる。
今は朝の六時でそろそろキドも起きてくる時間なんだけど、全く起きてくる気配がない。
いつもなら僕が起きるのが早いと「今日は猫が降るのか」なんて言うけど、今日はどれだけ待っても起きてこない。
そんな日もあるだろうと思って雑誌やゲームで時間を潰すが、何分経っても起きてこなくてさすがにイライラしはじめる。
5分10分ならまだしも、40分も起きてこないと空腹なのもあって悪くないキドにイライラする。
早く起きてくれないかと待っていると、ガチャリとドアが開いてやっとキドが起きてくる。
「あ、キドおはよー」
僕は欺きながら挨拶をすると、いつものジャージ姿のキドに頷かれるだけだった。
「…カノ、飯なら今から作るからちょっと待ってろ……」
明らかに辛そうにしているのは僕にだって理解した。
最初は暑さでかなっと思っていた汗は、なんだか少し違う感じがしてキドの様子を眺める。
「キド何か隠してない?」
不意に出た言葉に僕自身もついていけず、沈黙が訪れる。
沈黙を破ったのはキドだった。
「朝から少し体が重くてな。何、心配するな」
その言葉は僕が言えた事じゃないけど、嘘を吐いていた。
キドの額に手を当てても、熱はなくてただ汗が出ているだけだった。
「な、何するんだ!お前は!?」
「ぐっは!!」
キドは顔を赤くさせながら僕のわき腹を殴る。
いつもの事だけど今日のは痛くない気がする。
力が入っていないようなそんな感じ。
でもそれを言ったらきっとまた殴られるので、何も言わずわき腹をさする。
「痛いなぁ…」
いつもより痛くないけどあえて大げさに痛いと言っておく。
「フン、お前がいらん事をするから…だ………」
キドは僕にそう言いながら僕の方に倒れてくる。
脂汗も酷く、息づかいも荒くて良い状態とは言えなくて、僕はキドを担いでソファに横にさせる。
キドは相変わらず息づかいを荒くして、辛そうにしている。
「キド…?ねぇ、キド?」
話しかけてみてもキドは辛そうにしているだけで、僕はどうしたら良いのか分からず一人で焦っている。
「ねぇキド…」
僕はグルグルと色々な思考が巡り、どうしようかとキドを何度も不安で見て、キドの蒼白な顔色に恐怖になり、バイトが休みなセトの部屋のドアを激しくノックする。
「セト!起きて!キドが、キドがぁ!!!」
どれだけ叩いても起きる様子はなく、僕はその場に座り込む。
キドは今にも苦しそうにしていている。
「ん…っ、はぁ…」
お腹を押さえて苦しそうに息を荒くしている。
どうしたらいいのか全く分からず、僕はキド名前だけを呼びながらキドの元に行く。
「キド、ねぇキド?」
僕がキドの目の前に来た頃、キドがうっすら目を開ける。
「キド!!?」
「何だ、そんな顔をして」
強がっているのか、キドはいつもの表情を作って僕に言う。
「何だ、じゃないよ!そんな辛そうにして!!何かあったら僕どうしたら…!」
僕が焦っているとキドはフッと笑って「いつもの事だ」と言った。
何がいつもの事だ、こんなに辛そうに…いつもの事?
いつもこんなに辛そうにする事なんて、キドにはないはず…。
僕は考えるより口が先に開いた。
「いつもの事って何が?」
僕の問いにキドは頬を染めて小さく「生理痛だ」と言った。
僕は何も言えず、その場に立ち尽くして欺くのも忘れている。
「お前欺けてないぞ」
僕はどんな表情をしていたのだろうか、すぐに欺いていつもの様に笑う。
「いやーキドも大変だねー!」
口から出てくる言葉は嘘ばっかり。
本当は違うことを言いたかったはずなのに、僕は何でこんな時でも嘘しかつけないんだろう。
「カノ、嘘を吐くな」
キドはいつもとは違って僕の頬を引っ張って、僕の能力が解かれる。
「今のお前は欺いても意味がない」
キドは僕の頬を離してフッと笑い、キッチンに立って朝食を作り始めた。
「動いて大丈夫なの?」
僕はキドに尋ねながら後ろについて行って、様子を伺っていたけど「邪魔だ」とキドに言われ、虚しくソファに戻る。
「キド、大丈夫なの?」
僕は不安になりながらキドに尋ねた。
キドは「大丈夫だ」と言っていつもの朝食をスムーズに作っていて、良い匂いが次第に部屋中に広がっていく。
「先に二人で食べるか?」
キドが振り返りながら僕に尋ねてきて一瞬ドキリとするけど、すぐに我に返り「そうだね。誰も起きてこないし」と笑いながら言うと、後少しで出来るようで暫く待っているとキドが声をかけてきた。
ソファで待っているとキドが朝食を作り終えて、テーブルに運んでくる。
「今日は材料がなかったから、これぐらいしか作れなかった」
キドはお箸とお皿を持っていて、お皿には野菜炒めが入っていて、お皿とお箸をテーブルに置いて、またキッキチンに戻ってお茶碗とお椀を持ってくる。
「今日のお味噌汁は豆腐なんだね~」
いつもお味噌汁の具は色とりどりで、今日は豆腐。
「悪いな、これぐらいしか作れなくて…」
申し訳なさそうに言うキドに対して僕は、ニコニコと笑顔で言う。
「大丈夫だよ!材料もなかったんし、ね?」
「だが…」
「良いって!それより早く食べよう!!」
どうしてだろう。
僕は違うことを言いたかったはずなのに、【嘘】しか言えなかった。
僕とキドは二人で朝食を食べて、二人で野菜炒めを完食して僕がお皿を洗っている時だった。
「…っ、痛い…!」
水を使っているからキドが何か言ったのは聞こえたけど、具体的には聞こえなかったのでいったん水を止めて、後ろに振り返り「どうしたの?」と尋ねると、キドはお腹を抱えてソファの上で苦しそうに横になっている。
「キド!?」
僕はキドに駆け寄って体をゆする。
キドは脂汗をかきながら「大丈夫だ」と言うけど、やっぱり僕は不安でキドの体を余計に揺する。
「カノ…揺するな頭に響く…」
頭を押さえながらキドが苦しそうに言って、顔を歪める。
「あ!ゴメン…」
揺するのを止めてどうしたら良いのか分からなくて、暫くあたふたしてるとキドが温かいお茶が飲みたいと言ったので、キッチンに急いでお茶を探すけど温かいお茶は無くて、冷蔵庫を開けてコップにお茶を入れて電子レンジでお茶を温める。
チンッ、と音がしてコップを電子レンジから取り出しキドに渡す。
「電子レンジで温めたよ」
「あぁ、ありがとう」
キドは起きあがってお茶をゆっくり飲んで、半分ぐらい飲んでコップをテーブルに置いて、ソファに横になる。
「キド大丈夫?」
僕はキドの近くに腰を下ろして、キドに尋ねる。
「大丈夫だ」
キドは横になりながらそう言うけど、僕には大丈夫には見えず、僕はキドに自分のパーカーをキドにかけて小さく呟いた。
「辛いなら、弱音ぐらい吐いたら良いのに……」
キドには聞こえないように言ったつもりだけど、キドには聞こえていたようで顔を真っ赤にさせている。
「う、うるさい!俺が弱音を吐いてどうするんだ!!」
ただの強がりに、僕は唇に吸い込まれるようにキスをしてしまった。
殴られると思っているとキドは、意外そうに僕を見つめて「俺が今にも死にそうな目でみるな」と言われ、僕の表情がキドが言う通りの表情をしていると理解する。
「僕そんな顔してた?」
ニコニコしながら尋ねるとキドはクールに笑い「あぁ、不安に詰まったな」と言って僕の頭を撫でる。
暫く頭を撫でられていて暫く経って、落ち着いて僕がキドの頭を撫でる。
「こんな時は僕がキドの頭を撫でる番でしょ?」
キドは生理痛で弱っていて僕を殴ってこない。
僕はキドを撫でながら「たまには弱音を吐いても良いんだよ」と言ってキドの体調が良くなるまで、傍にいた。
【弱音】END
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