ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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「バカな兄貴を「ぁっ」と言わせたい」
ずっと仲が良かった。小さい頃は一緒に帰ったり、どこかに遊びに行ったりもしていた。だけど、中学に上がるにつれて、俺は自分が異常なんだと思い知った。周りは誰々君が気になるとか、○○さんが気になるとかそういった話ばかりしているを耳にした事があった。最初はあぁ、そうなのか程度だったけれど、お前は誰か気になる奴居るのか? という質問に対して兄貴、と答えるとその場が凍りついた事があった。その時、俺が問題発言をした事はすぐに理解できた。だから、あぁ、恋愛としてか。からかったりする方かと思った。恋愛なら居ない。と咄嗟に嘘を吐いたら周りもなんだそうか、と納得していたのを今でも覚えている。
小さい頃に兄弟が出来た。義理の兄。当時は慣れない事だけれどすんなり受け入れる事が出来た。俺が能天気なのもあったのか、それともただ兄が出来たという事しかなかったんだろう。義理の兄だとか義理の兄弟とかそんな複雑な感情はなかったんだろう。だからすぐに話しかけに行った。名前が何て言うのかとか、好きな食べ物なんだとか、テレビ見るのだとか、兄は困ったようにけれど一つずつ答えてくれた。年齢は一つしか変わらない。兄が優しいのもあり、俺と兄はすぐに仲良くなった。だから中学の問題発言まではずっと隣には兄が居るのが当たり前になっていた。
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「……おう」
中学を卒業して家からは大分距離があるが、あえて偏差値の低い高校に入学した。親はもっと賢いところに行ったら良いのに、と言っていたのだけれど俺はここが良いと決めた。入学式を終えて新しい着慣れていない制服で帰宅をすると上半身裸で首にタオルを巻き、肩まである金髪の髪を濡らした兄に短い言葉で出迎えられた。どうやら風呂に入っていたらしい。俺だから良いものの、もしドアの隙間から誰かに見られたらどうするんだと思いつつ、靴を脱いで部屋に戻る。部屋で制服を脱いで部屋着に着替えてリビングに向かうと、服を着た兄がソファに寝転がっていた。確か今日の入学式は新一年生しか居なかったので兄は休みだったんだろう。時間的にも朝なので何処かに出かける事もないだろうか。
「お前、本当にあそこで良かったのかよ」
冷蔵庫にジュースを取りに行くと兄に話し掛けられた。高校の選択に後悔はしていないので、頷いてペットボトルの蓋を開ける。ミルクティーの味を口の中で広げて、キャップを閉め、冷蔵庫に戻す。
「後悔とかはしてないよ」
後悔はしていない。寧ろ入れたから感激している。成績が悪い訳じゃなく、その逆なのだから採点していた時にワザと偏差値の低い高校に入った事などバレているだろう。それでも、俺が行きたい高校だから偏差値の高い高校にしておけば良かったなんて思ってない。
「そうか」
兄は短く返事して何も話さなくなった。何かをしている訳でもないので寝ているのだろう。壁に掛けてあるカレンダーを見ると、今日は夕方からバイトがあるらしい。兄のバイト先を聞いた事があり、俺も何度か行った事があるファミレスだ。兄は自分から喋りかけるタイプじゃないが、接客はするらしい。メインは厨房で、フロアの人が足りない時に手伝ったり、フロアメインで働いたりするらしい。兄がそのファミレスで働き出してからは行ってないので、そういうのは見たことがない。
部屋で本を読んでいると隣の部屋が開く音がした。時計を見てみると、12時30分。部屋でもう一度寝るのだろうかと思いながらページを捲る。兄の端末の音が聞こえ、兄の声が聞こえる。驚いたような少し嬉しそうな声が聞こえて『分かりました。ありがとうございます』というフレーズだけ、耳に入った。口調からしてバイト先だろうかと思うが、それだけを聞きに行くのはどうかと思ったので何か口実がないだろうかと探していると、ドアがノックされる。兄なのは百も承知なので本を閉じ、ドアを開けると兄が「今日バイトオフになったからどっか行くか?」と尋ねてくる。
「良い、けど……」
何処かと言われても何処に行くのだろうと思いつつも、家に居てくれないというのもあって少し不満を覚えた。家に居れば良いのになんて言ったら家に居てくれるだろうけれど、折角誘ってくれたのだから予定もないのに断りたくない。
「けど、何だよ」
「何でもない。何処行くんだろうなぁってぐらいで」
焦って適当に言葉を並べる。思っている事なので嘘ではないが、何となく言い訳をしている気分になる。俺の言葉に兄は悩み「じゃぁ、まず何か食いに行くか」とお互い何も食べてないので提案をした。
「お前は何食いたい?」
「何でも良いよ。任せる」
兄は困ったようにして後でな、と言って俺の部屋の前から自室に戻った。ドアを閉めて着替える。どんな服が良いだろうか、あんまり気合を入れすぎるのも良くないし、かと言ってジャージなんてのも良くない。ほどよい感じのコーディネートなんて分からないが、淡いYシャツに黒のパーカー、グレーのスラックスにした。タイミングよくドアがノックされ、財布と端末をポケットに入れてドアを開ける。
兄の服装も俺と似ていて白Yシャツに黒のベストのボタンを開け、赤色のスラックスを身に纏っていた。兄が先に玄関に向かったので後に続いて玄関で靴を履く。ドアを開けて待っていてくれた兄に小さく礼を言って、カードーキーで鍵を閉めた。
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