ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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【出会い】
くだらない、でも生きなきゃいけない。お金がない。それなのに、どうやって食べ物を手にしたら良いか何てすぐに分かった。だから盗みを働いた。食べ物がない、お金がないから盗めばいい。初めて盗みをした時、恐怖に襲われた。いつ捕まるのか、捕まったらどうなるのか俺は生きていけるのだろうか、そんな恐怖を俺を襲い続け、いつの間にか無くなっていた。生きるためにしている事なのに何が悪いんだという風に思い始め、盗みに対しての罪悪感はなくなっていた。
そんな時、出会った。
その時もいつも通り生きるために、盗みをするためだけに街に出た。誰から何を盗もうか、金目の物、それとも食料……。色々悩む中、一人、白い白衣を着た男が俺の前から歩いてきていた。白衣のポケットの中に四角い何かが入っている事に気がつき、俺はそれを財布だと思った。だから、前からやってきた男からポケットの中に入っていた四角い物を盗って何事もないかの様にすれ違った。いわゆるスリってやつだ。
路地裏に入って財布を確認しようとするといきなり「そんなモン、盗ったって何の役にも立たねぇぜ?」と声がした。勢いで振り返ると、目の前にはさっきスリをした男が居た。
何も言えず、ただ驚いて開いた口を閉ざし、どうすればいいのか何て分からず、脚が震え、今にも死にそうだと思った。俺は此処で捕まって殺されるのだろうか、そういう思考から抜け出せず、ただ、首を振って「いやだ……」と言い続けた。
「何が嫌かは知らねぇが、危ねぇから返せ」
手を出しながら男は近づいて来る。俺には手錠が見えていて、今から捕まって死刑になって、死んでしまう。怖い、という感情が再び訪れる。逃げたいけれど脚が震えていて動けない。でも動かないと殺されてしまう。
「あっ……。ご、ごめっ……ごめん、なさ、い……」
涙目で今にも泣きそうになって俺は謝罪した。とにかく謝らなければと思い、精一杯謝罪するが目の前の男は足を止めず、俺の方に歩いてくる。
「本当にっ、も、もう……しません、から……。だから、ころ、さないで……ください……」
ピタリッ、と俺の目の前で男は足を止めた。駄目だ、殺されると思って目を瞑った時、穿いていたボロボロのズボンのポケットに何かが入ったのが分かった。何が入っているのかは見ていないけれど、目を開ける勇気もなくてただ、震えていると「金、欲しいならやるからこんなモン、盗むんじゃねぇぞ」と手に持っていた四角い物を取り上げられた。男はそのまま踵を返して俺から離れていった。
【出会い、再び】
偶然は重なる何ていうが俺はつい最近まで嘘だと思っていた。だが、嘘ではないかも知れないと思うようになった。
あの男に見つかり、俺は殺されると思ったが俺は今でも生きている。生きる為に行っている盗みも今では少し怯えながらになってしまう。また、見つかってしまうのだろうか。そこに秘める、僅かな思い。もう一度会えないだろうか、そうしたらお金が手に入るかも知れない。
親は居るが、俺を子だと思った事はなく、家出をしても捜されもしないので現在も家出中の身だ。だから、帰る場所もないから公園や目立たないところで野宿をしている。ある時、とある廃墟で寝て起きたら夕方で、いつもの事なのでこのまま盗みに行こうとすると、見覚えのある男が誰かと話しをしているのが分かった。あっち側とか取引とか詳しくは聞けないが、何かしら聞こえてくる。そして爆弾という単語の後に俺が盗った時と同じ形をした四角い物があった。俺が盗ったのは、財布ではなく爆弾だったという事をその時知った。
何やら話が終り、男が俺の視線に気がついた。思わず隠れようとするが、良い隠れ場所が見つからず、結局はその場で立ち尽くす。男が俺に近づいて「お前、あん時のガキか。金か? ならやるよ」そう言って男はポケットから5万円を俺に差し出した。
「えっ……?」
少し期待していたが、そんな事が起こるとは思わず俺はどうしたら良いのか分からず、暫らく思考が追いつかないでいる。
そんな素振りに気にしてないのか、男は俺のズボンのポケットにお金を入れるが何かに気がついたようで、少し動きを止めた。そしてまたすぐ元通りに戻り「……お前、何処住んでんだ?」と問われる。どこ、と言われても俺には家がないので目を彷徨わせ小さい声で「その辺」と答えた。
「親はって、その様子じゃ心配もしてねぇな」
「…………」
「そう睨むなよ、殺したり何かしねぇから。……その服、埃だらけだなそれに靴も結構ボロい。今夜は冷えるそうだな、そんな格好だと風邪引くぞ」
「……これしか、ないから」
「見れば分かる。……金が欲しいって思わねぇか?」
男は尋ねた。こんな生活をしている俺に。そんなの欲しいに決まっている。
「欲しいに決まってる」
「じゃぁ、俺ん所で働け」
男はそう告げて俺の肩に手を回した。自分が着ている服が汚れるのも構わずに。それから「今の生活したかねぇなら、黙ってついて来い」と俺に囁いた。その時から俺は彼に惹かれたのかも知れない。
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