ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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「The blood which is thicker than red tears and red blood」
【プロローグ】
ぐっちゃぐちゃの関係。訳が分からない。今、どうなっているのか俺はどこにいるのかさえ、把握できていない。ここはきっと通常の世界じゃない。――それだけは理解できた。
爆発音に爆風。空に舞う真っ黒の煙、体の外側から焼かれていく感覚、どれをとっても身に覚えのある感覚であぁ、もうこの運命からは逃げれないなと悟った。俺の全身の神経がコイツからは、この犯罪者からはどう足掻こうと逃げることは出来ない。
ジャラジャラと金属のアクセサリーを鳴らし、白衣を肩からだらしなく下げ、不気味に嗤う国際的犯罪者には敵わない。勿論、知力も握力も、伸長も、学力すら敵わない。
目の前のビルが倒れていく。その様を見ることしか出来ない。見ながら、あぁ、また死んだんだ。なんて思いながらも一般人の非難を怠らない。それでも爆発は止むことなく、ずっと何時間もそれこそ永遠に煩くなり続けるのかと思わせた。
「……るっせ」
小さく聞こえた声に、同時に響く銃声。きっと『また』撃たれた。味方の侵食。踏み荒らされる死体。この犯罪者は自分の味方すら裏切り、死体を玩具の様に扱い、尚且つ死体が更にぐちゃぐちゃになっていくのを楽しんでいる、凶悪犯。
【犯罪者と警察官】
国際的犯罪者と共犯中のテロリスト。ほぼ無名だったテロリストの名を挙げたのは、この凶悪犯だ。名を六土 里杜ろくど りとと言う。天才科学者で主に、爆弾の製作を行っている。
自分で作った小型爆弾を売るのと、作戦、各員の健康状態を監視しているらしい。情報課曰くなのであまり期待できる情報なのか怪しい。
金髪に肩に届くぐらいまで伸ばされた髪、両耳には赤いピアス、指には何個も指輪をつけ、腰には自作の爆弾をぶら下げている。たまに口からチェーンが覗いている時があるが、大体は自作の飴を舐めている時だと思われる。
「今回の事件もコイツか……。絶えないな」
資料室から聞こえる小さなため息。後輩が発したもので、特に注意する事ではないので何も言わずただ聞き流す。
「そう言えば連夜れんやさんって、里杜と戦った事ありましたよね?」
「あぁ。任務で出向いた先に居ただけだ」
俺の所属している課は主に里杜主犯で行われている犯罪に出向く。というかそれしか任務がない。全く事件がないときはないで暇だが、あるときはあるで忙しいのだ。課の名前は長くて忘れたがいずれどこかで言う事でもあるだろう。
「やっぱ強かったですか?」
「……ある程度はな」
互角に戦えば負けるだろう。右側にある刀をそっと撫で、ぼんやりと画面の中を見つめる。
敵いはしない。何度も言い聞かせ、負けを認めた。そういう時に限ってコイツは、攻撃の手を止めて撤退する。理由なんて分からない。こじれた関係なのだから聞くこともない。
「それで、何か情報は掴めたのか?」
「それが、全く……。次の行動や、場所、時間など全く分からないです」
落ち込む姿はいつも通りか、心中で呟きながらモニターの中を見つめる。これまで行われてきた犯罪の数々。少しくらいはパターンがあるはずだ。それさえ掴めれば場所の特定ぐらいは出来るだろう。一体、何が目的だ。一つのマップに廃墟が映る。次の爆破現場だろうか、今までの行動を分析すれば、何か手がかりになるかもしれない。
「ここの廃墟。今までの行動を分析して調べておけ」
「はい!」
正しく敬礼した後輩は、資料室で一人、里杜の分析をパソコン相手に始めた。
**
真っ暗の部屋の明かりを点け、壁に凭れる。前までならこういう状態のとき、支えてくれる手があった。今は当の昔になくなっている。久々に疲れた、ような気がした。右目に激痛が走る。思い出してはいけない、何もなかったようにしろというように。過去の記憶を蘇らせてはいけない。もし、蘇ってしまえば、俺はここに居られなくなる。
「……もう、昔の話だろ」
誰も居ない、元々二人部屋だった部屋でそっと呟く。クローゼットの中に仕舞ってあるのは代えの隊服。サイズが合わないのが面白い。何故置いているのかと後輩達に良く聞かれるが、大して気にしていないし、気にする必要性もないと思っている。この身になってから、サイズが合っていた隊服も大分大きく感じる。きっと気のせいだと思っている。
あの日、あの事件の時――。何かが終わった。
『バカ、逃げろ!』
『うるさい』
『意地張ってる場合か! 良いから行け!』
『嫌だ』
『ったく、どうなっても知らねぇぞ』
『お互いな』
息を殺して泣く声。何度も謝罪する言葉。必ず仕留めるという言葉。それだけが聞こえて後は何も覚えていない。そこに居た筈の人物が急に居なくなって、気がついたらこうなっていた。
右目の痛みを耐えるように右の布を掴み、蹲りながら小さく息を漏らす。ないはずの義眼から何か流れ出る感覚を覚えながら。
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