【其の男一匹の獸(けだもの)也〜最近の勇者一行は以下略 outside story〜】

【其の男一匹の獸(けだもの)也〜最近の勇者一行は以下略 outside story〜】

キョウシロウ  2014-08-14 21:53:29 
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正義の味方、英雄、ヒーロー…様々な呼び方があるが、勇者一行は魔王を討伐する為に旅する集団である。
その中に一人上記の呼び方に似付かわしくない男がいた。彼らとは一線を引くその男は、三白眼の鋭い目付きは見る人を威圧し、凶悪な笑い方は聞く者を不快にさせる、佇まいは美しいもどこか危なげで、近付く者を斬り捨てるような、刀剣類さながらの鋭利な近寄り難い雰囲気、身体からは常に血の匂いを漂わせる危険な香り、腰から得物である日本刀を携えた紺色の和服の一人の男。勇者一行の中の一人、吉岡狂四郎と言う名の男。
これは彼の視点から綴られる勇者一行のお話と、彼が極悪非道の守銭奴に至るまでの、過去の回想のお話である。

個人用の小説になります。稚拙な文章ではありますが暖かく見守って頂くと幸いです。勇者一行の皆様はご意見希望など御座いましたらご遠慮なく申し付けて下さいませ!←

ではこれにて開幕致します。

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  • No.26 by キョウシロウ  2014-08-25 15:17:06 


どこだここは。目が覚めると見知らぬ天井が視界に広がる。周囲を見渡して状況を確認するもここは、いつものサユリと一緒に暮らす廃墟とは違うようだ。
「くっ…」
意識が覚醒すると忘れていたように体の痛覚が蘇る。そうだ、俺は父親と会って…。
「…っ。」
はっきりと思考が出来るように意識が目覚める。父親にもし会えたら、頼りに出来ると心のどこかで希望に思っていた。俺をボコボコにするだけじゃなく母さんの事も愚弄した…あんな最低な父親の事は忘れよう。涙を堪えて歯を食い縛る。それよりもサユリを早く迎えに行かなければならない。今も寂しく廃墟の薄暗い部屋で待っている筈だ。
「くっ…はっ…」
痛みを主張する体に鞭打ち、壁に寄り添いつつも立ち上がる。そして壁に体を預けながらドアに向かってゆっくり歩く。すると外側から誰か帰って来たのかドアが開き鷺沢狂四郎が姿を現す。
「起きたか、痛みに少しは耐性があるみたいだな。」
何やらご機嫌な様子。口元には笑みが浮かんでいる。
「あんたには関係ないだろ。帰る…あんたには迷惑かけない。」
現れた父親を睨み付けながらも、もう他人だと宣言してドアへと向けて歩き出すが、彼が口にした事に言葉を失う。
「帰るって、あのガキの事か?サユリって言ったか…」
こいつにはサユリの事は話していない、何故それを知ってるんだ。キョウは直ぐに声を張り上げる。
「サユリに何をしたー!」
おかしそうに笑いながら鷺沢は懐から板チョコを取り出して見せ付けてくる。
「俺は何もしちゃいねえよ。ただ、こいつに化けただけだ。分かんねえか?取引きだよ取引き、ここのルールで、人間らしく物々交換するのさ。あれは変わり者の変態だな、今頃どうなってるか。」
人身売買という奴だ。鷺沢の口振りから察するに、サユリを売ったのだ、板チョコ一枚と引き換えに。最初は信じられないと言った表情で口元をぱくぱくと開閉させていたが、激昂しながら拳を握り、殴りかかる。
「っ…さま…貴様ぁぁあああ!」
瞬間、どごんと鈍い音が響く。勿論キョウが男を殴った音ではない。刀の鞘で顔面を横殴りにされて床を転がる。
「…してやる…殺してやる…!」
床に転がり痛みよりも怒りがキョウを支配していた。子供ながら殺気の篭った尋常じゃない目付きで鷺沢を睥睨する。
「ククッ…そんな体で、まして弱いお前がどうやって俺を殺すって言うんだよ。だがその殺気は大したもんだ。流石は俺のガキ。俺に勝てる剣士は世界中探しても見当たらないと来た、お前に俺を殺せるか…ちょっとした、人生の暇潰しでもするとしよう。」
煙管を咥えて煙を吹かししゃがむ。鷺沢は床に倒れる息子をまるで玩具を見つけた子供のように、前髪を掴んで眺めた後に投げるようにして離す。と再びドアから外へと出て行った。そんな外道の後ろ姿を見送りながらも涙に零れる目元を俯かせて地面を何度も叩く。
「クソ……ちくしょう…クソがぁあああ!」
マモレナカッタ…オレハ、マタマモレナカッタ…オレハヨワイ…ヨワスギルカラ…。
その日一日中廃墟街で少年の嗚咽が鳴り響いた。


二日後、倒れているキョウの目の前に何かの鳥の、焼き鳥が地面へと投げ落とされる。キョウは睨み付けながらも焼き鳥を一心不乱に貪り食う。
「食ったな、んじゃ先ずは左手で片手で素振り五千回、右手で素振り五千回だ。」
投げ落とされるのは、今度は食料ではなく一際分厚く重い木刀だ。
「何言って…」
否定しようとした所で腹部を突くようにどごんと殴られる。
「ぐっ…」
苦痛に表情を歪めるが、構わずにまたもや殴られる。
「痛がるな。表情に出すな。声に出すな。敵に悟られるな。実力では劣っていようが、心だけは屈するな。今のお前には、勝機はそこしかないんだからな。」
散々にいたぶられる、遊びのようにキョウの体を殴り蹴りを繰り返す。体中は痛みにより動かずに地べたに這いつくばって、鷺沢のにやけたツラを睨み付ける。
「絶対、殺…やる…いつか…かならず…」
「おーおー、やってみろ。無理だろうがな。」

翌日から、スパルタとも言える訓練が始まった。小さな体に見合わない大きく重い木刀で素振りを強要させられる。
言われた回数をこなせずに木刀を落とすと執拗なまでに殴り蹴るの暴行を受ける。痛がる限り意識を失う事も許されずに水をぶっかけられて、暴力に襲われる。
「使えないガキだな。俺はちゃんと出来る数を言ってるんだぜ?腕が上がらなくなるのは、お前の頭が意識的にストップをかけてるからだ。人間は自分の力の3割程度しか使ってねえ…リミッターを外せ。限界を超えろ。」
理不尽な言葉が注がれる。もう殴られるのは嫌だ。でも腕が重いし…痛いのは嫌だ…。素振りに暴力は暫くの日々まで続いた。最初は片方五千回ずつだった物がやがてその倍近くは軽くこなせるくらいに成長する。
毎朝起床後、素振りが片方三万回ずつまで出来るようになると、新しい訓練が追加される。鷺沢がどこからか持って来た剣術指南の本や戦略戦術書の数々を読まされる読書の時間だ。読めない漢字や意味が分からない物がある等苦労したが鷺沢は思いの外優しくキョウに教えてくれた。読書の時間は好きだった、痛くもないし辛くもない、彼の安らぎの時間だった。寝る前に本を読み、朝の素振りの時間に前日の夜の本の内容を復習のように問題を出される。正解出来なければまた過剰な暴力を受ける。この頃から暴力も殴る蹴るだけでなく、水の入った桶の中へと顔面を突っ込まさせられる。火で熱せられた鉄を体中に押し付けられる。刃物で体を傷つけられる。特殊なアイテムなのか電撃を体に浴びせられる等、暴力も拷問と呼べる物に多種多様になって行った。苦しんだり痛がる素振りを見せると殴る蹴るを受けるのは変わらなかったが。

過剰な訓練も一年が経過する。いつの間にか10歳になっていた。
「やったな、ガキ。初の実戦だ。」
廃墟街をうろつくさなか、鷺沢はこんな事を言う。こいつはいつだって突然だ。黙って頷く。
「あいつだ。」
指差された先にいる男は、異常な殺気を放っていた。まるで獣さながらの雰囲気。それもその筈、キョウには知る由もないが、その男は高額賞金首で世間を騒がす悪党だった。首狩りジョニー、元王国騎士の凄腕の剣士で人間の首を狩る事に性的興奮を覚える異常者。
ここ特区は人間が住む環境ではないので、世間からならず者達が逃げ込む場所としても、絶好の隠れ家なのだ。
「っ…」
キョウは一瞬で理解する、指差された先の男と自分を比べて無表情ながら体が身震いをする。絶対的な力の差、今の俺では勝てない…と。
「おー、感じたか。今のお前には勝てない、当然だ。」
そんなキョウの様子を横目に見て口元を歪める鷺沢、ちょっと待ってろとの言葉と共に鷺沢はジョニーの元へと向かう。
「よう、首狩りジョニー。」
「なんだて…鷺沢狂四郎!?なんでこんな所に…クソ、見逃してくれねえか。へへへ…」
どうやら鷺沢は有名人のようだ。彼の姿を見てへりくだるように後ずさるジョニーに煙管を揺らしながら笑って答える鷺沢。
「おう、構わねえよ。逃がしてやる…ただ条件が一つ。あそこにいるガキを殺せ。」
指差されて会話の内容を聞き、キョウはギョッとするも表情には出さない。腰には今日住処から出て来る時に何故か渡された一本の日本刀がある。鷺沢に襲いかかりはしなかった、今の自分では不意をつこうが鷺沢に一太刀入れるイメージすら湧かなかったからだ。そういう事か…出来なければ死ぬ…。今日から訓練もグレードアップする、本格的に訓練開始なのだ。
「あんたのガキか?本当に殺っちまっても構わねえんだろうな。」
「ああ、構わねえよ。死んだらそこまでの奴だったって事だ。」
「約束は守れよ。」
「勿論だ。っとその前に…」
キョウの元へと向かおうとするジョニーの片足の膝を、刀を振るって鞘で砕く。
「ぐわぁ!てめ、何しやがる!逃がしてくれるって…」
「うるせえ、黙れ。お前が簡単に殺しちゃ、狩りの練習にならねえだろ。これで五分五分、いや…まだお前の方が強いか。もうお前には手は出さねえよ。」
「っ…忘れるなよ、さっきの言葉。…坊主、悪いな…恨むならてめぇのクソ親父を恨むんだな。」
背中越しに鷺沢を見た後にジョニーは片足を引きずりながらキョウに向かって舌舐めずりして言葉をかける。
「おーい、ガキ。ぼーっと突っ立ってんな、殺らなきゃ殺られんぞー。」
足が竦むキョウに呑気に間延びした声で呼び掛ける鷺沢。
「ちっ…」
クソ…冗談じゃねえ。近寄って来る男から逃げるようにバックステップする。片足しか動かない男だ。半日もすりゃいずれ疲れて倒す機会もあるだろう。
「何逃げてんだ。条件追加だ、ガキ。一時間以内にそいつを殺せなきゃ。俺がお前を殺す。」
そう言って懐から懐中時計を取り出す鷺沢。ふざけろ…こんな化け物相手に一時間の時間制限だと?だが、鷺沢は容赦のない男だ。この言葉に嘘はないだろう。キョウは腰の刀を抜き両手で正眼の構えでじりじりと男と距離を詰めて行く。
「「……!」」
キンキンキィンッ!間合いに入った途端剣撃が繰り返される。男は片足ながらも片手に力を入れて剣を振るう。キョウも負けじと刀を振るうも二回剣を交えてその圧倒的な実力差は明らかだと証明される。
キョウは腕を斬られ血飛沫が舞う。表情には痛みを感じさせないが剣で斬り負けた事は理解する。首を狙って放たれたそれを咄嗟に躱して刀で防ぎ切っ先を腕が掠めたのだ。それから間合いを詰めては退き、円を描くように移動しては隙を伺いと色々手を尽くすも打開策は浮かばない。元々圧倒的な実力差があるのだ。例え片足が使えずとも大人と子供、力の差は歴然だった。
「あと1分だぞー?」
鷺沢の呑気な声が響く。他人事だと思ってこの野郎。生殺与奪は目の前の男と鷺沢にあるのだ。
「ククッ…」
ジョニーにも余裕の表情が浮かぶ。後一分、何もせずともガキは鷺沢に殺され自分は逃がして貰える、余裕が生まれるのも無理はない。
「あと45秒…」
鷺沢がカウントを始める。何かしてくるならもう時間がない、ガキは突っ込んで来るだけだと高を括る。
「……!」
キョウが動く。ジョニーに向かって突っ込むように下段の構えで走って距離を近付けて行く。
「馬鹿め!」
男は歓喜の声を上げる。思った通り捨て身の特攻だ。これだからガキは分かり易い。が男の考えとは裏腹にキョウはただ突っ込んで来るだけではなかった。
「邪剣…竜尾返し…。」
下段に構えた刀を斜め上に向け斬り上げるようにして発生させた砂埃で敵に目潰しをする技。
「このガキ!小癪な真似を!」
男は目の前にいるであろうキョウへと向け剣を横薙ぎに振るうが、空を掠める。
「どこ行きやがったガキ!」
「暗殺剣…虎ノ眼…。」
咄嗟に普通の構えとは違う、下段に右手に刀を持ち、超低空に伏せて、獲物を狩る前の虎のような体勢。片足を軸に回転して男の両足を切断。
「ぐぁああああ!」
瞬間男は絶叫する。キョウはそこから飛び上がり右腕を思い切り振るう。スパスパッと音がして男の両腕と一緒に首を切断しシャワーのように血飛沫を体中に浴びる。
「残り30秒…ぎりぎりだったなおい。」
呑気にあぐらをかいて座り酒を飲む鷺沢。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
キョウに答える余裕はない。体中血塗れで手に持つ刀を地面へと落とす。息は乱れて男の亡骸を見下ろす。
「ごほっ、げえー…」
その場に膝をついて口を押さえながらも嘔吐をする。初めての人殺し。追い詰められていたとは言え、こうも酷く人を殺したのだ。
「おう、ガキ。童貞卒業おめでとう。これでお前も人斬りの仲間入りだ。ちょっと遅いくらいだがな、俺は五歳で卒業してる。」
キョウの傍へと寄り嬉しそうに珍しく過去を語る鷺沢。
「はぁ…ふぅ…ごほっ…げほっ…。」
そんな父親を背中越しに睨み付ける。口元を押さえながら食べた物をこれ以上無駄にしないように再び口の中に飲み込む。
「いずれ慣れる。何も考えずに殺せるようになったら一人前だ。」
そんな様子のキョウを見下ろして手に持つ酒を頭からかけてやる。人斬りになった祝い、元服の証だろう。

それからは日課の素振りに読書。技の練習をさせられ上手く出来ないと拷問。時たま廃墟街を連れられ、人斬りの死合いの日々が続く。

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