ハナミズキ 2014-08-09 16:30:42 |
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晴明神社での修業は、日の出とともに行う祝詞に始まり、境内の掃除や社内の掃除、食事の支度などが基本で、祈祷やお祓い等の手伝いもある。
十人一班に分かれており、その日のお祓いは夕月達の班が手伝いをする事になった。
やって来たのは若い女性で、一目見て生霊に取り付かれているのが分かった。
何かに怯えるような青白い顔色。
何日も寝ていないのか、足元はフラフラとしている。
付き添いで一緒に来た母親の肩に寄りかかりながら、拝殿に足を踏み入れ、指示された場所に座る。
宮司たちの祓詞が始まった。
(かけまくもかしこき)
掛けまくも畏き
(いざなぎのおおかみ)
伊邪那岐大神
(つくしのひむかのたちばなの)
筑紫の日向の橘の
(おどのあはぎはらに)
小戸の阿波岐原に
(みそぎはらえたまいしときに)
禊祓へ給ひし時に
(なりませる)
生り坐せる
(はらえどのおおかみたち)
祓戸の大神等
(もろもろのまがごと)
諸々の禍事
(つみけがれあらんをば)
罪穢れ有らむをば
(はらえたまい きよめたまえと)
祓へ給ひ清め給へと
(まをすことを)
白す事を
(きこしめせと)
聞こし食せと
(かしこみかしこみもまをす)
恐み恐みも白す
訳
お言葉に出すのも恐れ多いのですが、
イザナギさまが黄泉の国から戻られまして、
九州の日向の橘の水辺、阿波岐原で
お体を清められました時に
お生まれになったお祓いの神様達よ、
私達に災いや災難があります場合は、
神様のお力でお祓い頂き、
清らかな身心でいられますようにとのお願い事を
どうかお聞き入れ下さいと
恐れ多くも謹んでお願い申しあげます
と、始まり、その後に長い大祓詞を唱えるのだった。
唱え始めてから三分後、その女性の体が震えだし、声とも取れない様な唸り声を出し始める。
「うううぅぅぅぅ・・・・」
更に祓詞が続くと、女性は低い声で唸りだす。
「止めろ・・・貴様ら・・・うううぅぅぅ・・・」
既に形相まで変わってきていた。
そして女性の側に、宮司二人が近寄り、一人は棒に白い紙をつけたような物で頭の周りを一生懸命に払っている。
もう一人は、女性の横に行き、背中を摩りながら問いかける。
「お前の名前は何だ。何故この者に取り付いておる」
問いかけるが、何も答えてはくれない。
それどころか、宮司に対して罵詈雑言を投げかける。
取り付いているその女の性質が悪いのか、付近に居る悪霊や魑魅魍魎たちを呼び寄せてしまった。
こうなってしまっては、並の宮司では歯が立たない。
研修にやって来ていた夕月達に、他の宮司を数人呼んで来いと言う。
みんなは手分けをして呼びに行った。
新たに宮司が五人ほど集まるが、中には霊力など全くない者もいたため、この悪霊に立ち向かえるはずもなく、逆に取り込まれていく者も出始めた。
見るに見かねた夕月が、とうとう声を発する。
「白夜!行くわよ!」
「おぅ!」
夕月は九字を切り臨戦対戦に入り、白夜はその手に黒鋼を具現化する。
「臨兵闘者皆陣裂在前 臨める兵闘う者、皆陳列れて前に在り!急急如律悪霊退散!!」
「夕月に近寄るんじゃねぇえええぇぇぇぇぇ!!」
白夜の黒鋼に夕月の呪文を帯びた呪符が張り付き、女性の中に居る悪霊だけを切り裂く。
更に夕月が呪文を唱える。
「六根清浄、急急如律令!」
周りに漂っていた魑魅魍魎たちも綺麗に消え去り、辺りの空気は浄化する。
何もできずにおたおたとしていた宮司たちと研修生は、ドラマや映画でしか見た事が無いような光景に圧倒されていたのであった。
お祓いに来た女性親子も、この一瞬の出来事に驚きはしたが、なによりも、娘の様子が元に戻った喜びの方が強く、深々と頭を下げ、涙を流しながらお礼を言った。
悪霊払いが終わり、その場に居あわせた宮司と研修生たちに羨望の眼差しで見られ、次の日から、何故か逆に、夕月に教えを乞いに若い宮司たちがやって来る事になった。
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