ハナミズキの別荘

ハナミズキの別荘

ハナミズキ  2014-08-09 16:30:42 
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ハナミズキ

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  • No.4 by ハナミズキ  2014-09-05 18:54:24 

◆ 魔女と王子 ◆旅路編



サラ達の3人旅が始まってから2年が過ぎていった頃、途中立ち寄った街の宿屋で事件が起きた。
何者にも屈せず、いつも毅然とし、思慮深く清楚なサラが、まさかあのような事になるとは誰も想像さえしていなかった。

「今日はこの町で1泊だな」

「二日ぶりの宿ですね。雨も降りそうですし、僕としては嬉しいです」

「クリスは雨が降らなくても嬉しいんじゃなくって?」クスクスと笑う。

食堂付きの宿屋を見つけると、3人分の部屋を取り、それぞれが自分の荷物を運び込んだ。
夕食までにはまだ少し時間があったので、旅の汚れを落とすためにお風呂につかる。
お風呂から上がった後に、サラはイアンとクリスの洗濯物を持ってきて、お風呂の残り湯で洗濯をはじめた。

「洗濯なら僕がやりますから、サラ様そんな事をなさるのはやめてください!」

クリスが半分泣きながら訴えるも、これは初めから持ち回りでやると決めた事なのでと、頑として譲らなかった。
そして何がそんなに楽しいのか鼻歌を歌いだしたのだ。
その様子を見つめる二人は、いつもの事ながら少し困惑している。

あの伝説の魔女に洗濯をさせてるなんて、知らない人が聞いたら腰を抜かすことだろう。
イアンと二人暮らしの時は、魔法でチャチャっと綺麗にしていたので、そんなことは考えもしなかったが、さすがに洗濯桶を前に置き、ゴシゴシ洗うその姿は本当にあの伝説の魔女なのだろうかと疑うばかりの一般庶民に徹していた。

洗い終わった衣類は風呂場に干し、そよ風を吹かせる魔法で乾燥を促している。
この分だと夜までには乾くだろう。

サラが洗濯をしている間に、イアンとクリスは食料と薬草の買い出しに行き、必要なものを最低限買って来るのだった。
たまに余計な物を買ってくる事もあるが、大きな金額ではない限り大目に見てもらっていた。


明日の準備もできたころ、3人は夕食を食べに食堂に下りて行った。
結構広めの食堂には大勢の人で埋め尽くされている。
泊り客もいるが、ほとんどはこの店の常連客といったところだろうか。
すでに出来上がっている者たちも大勢うかがえる。

「この店の一押しと郷土料理を適当に頼む」

「僕グランチオールがいいです」

「じゃあ私は、ミネストカポネを」

料理を頼み終わると周りを見渡し、男性客が多いことに気が付いた。

「男ばっかりだな・・・食べ終わったらすぐ出るぞ」

「イアンったら、そんなに警戒しなくてもいいじゃない」

サラは、イアンが何をそんなに警戒しているのか本当に分からなかった。
クリスはチラッとイアンの方を見るとすぐさま視線を外し

『サラ様・・・鈍感です・・・』心の中で呟きながら、イアンに心底同情をした。

注文をした料理が次々へとやってきたが、その中に何故かお酒が混じっていた。

「これは?」

「それは我が国の特産物で、葡萄酒という物です。
 甘くて美味しいですよ」

イアンが一口飲んでみると、言われた通り甘くて美味しかった。
お酒というよりジュースのような感じだ。
クリスも葡萄酒を初めて飲んで、こんな美味しい飲み物がこの世にあったのかというような顔をしている。
しかし、サラだけは口をつけようとはしなかった。
どうもサラはお酒が苦手なようだ。

いたずら心が湧いたイアンは、どうにかしてサラに葡萄酒を飲ませようと試行錯誤をしているが、一向に首を縦に振らない。
なら気分だけでもと言い、ぶどうのジュースを一緒に飲もうと言い出す。
ジュースならとサラも承諾をし、注文をするが、注文をする際にこっそりとウエイトレスに耳打ちをした。

「葡萄酒をコップに1杯頼む」

何も知らないサラは、出された葡萄酒をジュースと思い込み飲んだ。

「甘くて美味しいわね。うふふふ」

『『うふふふ?』』

サラの様子が少し変だ。
たった1杯の葡萄酒で酔ったというのか、顔がほんのりピンク色になっている。
それに何か良い匂いがサラの方から漂っても来ている。
何とも言い難い甘い果実の香りだ。

サラが動くたびにその匂いは空を舞う。
匂いに吸い寄せられるかのように、周りの男たちが匂いのする方角にいるサラに視線を落とす。

「ヒュ~♪いい女だな」
「あんな女と一発やりたいもんだ」

などの下品な言葉も出始めた。
それ見た事かとイアンは早々にその場からサラを連れて立ち去ろうとした時

「イアン~・・・こっち見てぇ~」

イアンの顔を両手で挟むように置くと、クイッと自分の方に振り向かせる。
その時、雨模様だった空から突然の雷鳴が鳴り響いた。

「いやああああ!」

雷が大っ嫌いなサラはイアンに抱き付いて涙目になっている。

「いや!イアン!助けて・・・」

うるんだ瞳で上目づかいに、イアンの胸元で震えていたサラがイアンの顔を見上げていた。
ほんのりピンク色の頬、うるんだ瞳、普通の男ならたまらなく美味しいシチュエーションだ。
イアンといえどもそれは変わりがない。
だが、ここは宿屋の食堂だ。
大勢の視線がある中、平常心を保たなければ後々面倒なことになるのは重々承知していた。

イアンにしがみ付き離れないサラを、イアンはお姫様抱っこをしながら部屋まで連れ帰った。

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