青葉 2013-10-19 22:21:19 |
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彼女は棚の上に寝そべりながらも頭だけ起こして青葉の見ていたが、やがて大きな欠伸をすると、前足に頭を置いて、完全に臥せてしまった。
彼女の定位置は幾つかあったが、この棚の上は特にお気に入りで、よくここにいた。
彼女は真っ白な猫。
13年の間一緒に暮らした。
「この部屋は、その猫の記憶が作り出したのですよ。」
確かに彼女がこの世を去った時、このリビングはこんな状態だったように思う。
『彼女が作り出した……のですか?』
青葉は老紳士の方を向いた。
「そうです。」
老紳士は頷いた。
『なんのためにですか?』
青葉は疑問をぶつけた。
「それは、そのメスの猫がここにいたかったからです。精神が肉体を離れてもここにいたいと思った。だからですよ。それ以外に何があるというのです?」
そうなのか。肉体は滅んでも精神は残り、こんなふうに自分の場所を作るものなのか。
そう思った。
「そうでもありません。そう多くあることではないのですよ。」
質問していない青葉に、そう老紳士は答えた。
『そうなのですか?』
「偶然ここには使われていない扉があり、そして、偶然にその猫の願いを私が感じ取った。偶然が重なってのことです。」
よく解らない説明だ。
「その猫の望みを感じ取っても、状況がそぐわなければ私も何も出来ませんでした。しかし、ここには偶然にも使われていない扉があった。だから私は猫にこの空間を提供したのです。」
ここの創生には老紳士が深く関わっているようだ。
『この部屋を作ったのは、あなたですか?』
「言ったでしょう。ここは猫の記憶が作ったのです。記憶と願いが作ったのです。この部屋にいたいという願いが。私は、ただ扉を開けて空間を提供したただけです。」
開かずの扉を開くことができるとは、ただ者ではない。
『いったい、あなたは何者ですか?』
そう、青葉が質問すると、
「さあ、何と答えればいいでしょう。あなたが納得できるような答えは、きっとありません。」
と答える。
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