目的ない潜考

目的ない潜考

青葉  2013-10-19 22:21:19 
通報
忘れないうちに、短い話を。

コメントを投稿する

  • No.44 by 青葉  2014-12-13 21:29:44 

「あたし、そんなことしてないわ。」
初穂は絞り出す様な声を出した。だが、早野君は完全に初穂の主張を流す。それだけ早野君は自分の見立てに自信があるのだろう。
「二人の話を聞いて僕は納得したよ。思い返せば確かに初穂ちゃんは、先生がいた時だけ僕を助けてくれた。」
「………。」
「僕はね、初穂ちゃんに訊きたいんだ。何で初穂ちゃんは僕を嫌ったの?僕は何か嫌われるようなことをした?」
早野君が問うと、初穂は顔を上げて、
「したわよ。あたしは早野君を気に入ってたのに、早野君はあたしのこと何とも思ってなかったみたいじゃない。あたしが他の男子に声を掛ければ、はにかみながら皆喜ぶのに、早野君は素っ気なかったもの。早野君はあたしの純真な気持ちを踏みにじったのよ。」
そう、ふてぶてしさ感じる顔でそう言った。初穂は短い間に完全に開き直ったようだった。
早野君はあきれた顔になる。
「そんな理由で僕を嫌ったの?我が儘が過ぎるよ。」
「嫌ってないわよ。」
思わぬ答えだったのか、早野君は言葉が直ぐには出なかったが、少し思案した後、
「でも、女子達に僕を虐めさせたよね?」
と質問をした。
「そうよ。好きだったけど早野君を女の子達の嫌がらせの標的にさせたわ。」
初穂が自分の非を認めた瞬間だ。
「好きだったのに、そんなことをさせたの?」
と、僕が訊いた。
「早野君に人気があったのよ。女の子達で好きな男の子の教え合いをしたら、早野君の名前を出す子がたくさんいたわ。早野君は優しいし可愛いってね。」
「そうだと何で僕を虐めるように仕向けることになるの?」
「早野君のことを好きな子達が、早野君に嫌われるようによ。自分を虐める女の子なんか好きにならないでしょう。女の子達はあたしの思い通りに動いてくれたわ。」
初穂に悪びれる様子はない。
クラスの女子達は、初穂に悪く思われないように、好意を持っていた早野君に嫌がらせをすることを選んだ、ということだろう。早野君よりも初穂。当時の初穂の影響力を考えれば当然のことだと思う。
「じゃあ、何で先生がいる時しか早野君を助けなかったの?どんな時であろうと助けた方が、より早野君の心を引き寄せることが出来たんじゃないの。」
僕は自分の考えを初穂にぶつけた。
「あたしは早野君が嫌いと宣言して、それによって女の子達が早野君に嫌がらせを始めたわけでしょう。あたしの望みに沿ってるつもりの女の子達にそうそう注意できないわ。頻繁に注意すると反発されるかもしれないでしょう。単純な男の子達なら簡単だろうけど、多感な女の子の中心に立つのは思うより難しいのよ。」
初穂は何故か自慢気に言った。確かにそうなのかもしれないが、初穂は早野君に謝りに来た二人からは反感を買っている。初穂も上手く立ち回ったわけではなかったと思う。
「それで先生がいる時だけ注意することにしたの?」
僕は重ねて訊く。
「最初は先生がいるかいないかなんて、どうでも良かったわ。女の子達の反発がないようにしながら、早野君に好印象を持たせることだけを考えてた。でも、そのうちどうでも良くなっちゃったのよね。何がって、早野君のことよ。女の子達の嫌がらせに、されるがままで怒りもしなかったじゃない。挙げ句に、掛井の後ろに隠れて守ってもらうだけだったでしょう。男の子らしさが全くなくって見てて情けなくなったわ。幻滅しちゃったのよね。それからよ、先生のいる時だけ女の子達に注意するようになったのは。」
初穂は、早野君への興味がなくなり、早野君の気持ちを引き寄せるために作り上げた状況を、先生に良い印象を与えるという目的に変えたのだ。
ずいぶんと酷い話を早野君に聞かせるものだと思う。しかし、それは早野君の心を傷つけるだけではなく、初穂自身にも良くないことだ。初穂は早野君を怒らせるべきではないのだ。早野君はこの世の者ではない、いわば得体の知れない存在だ。怒らせると何をしてくるのか想像もつかない。最悪の事態だって想像するのは難しくない。初穂も、ついさっきまで早野君を恐れていた。開き直った様だが、度が過ぎる。いったい何を考えているのだろう。
「さあ、早野君も掛井も、そろそろいいでしょう?」
初穂が早野君と僕を交互に見る。そして、初穂は僕を再び呼び捨てにすることにしたようだ。
「何が、もういいの?」
早野君が訊く。
「もう、話すことはないでしょう?そろそろ出て行ってよ。」
それに対して早野君は何も言わなかった。僕も言葉が出ない。
「掛井は、自分のせいで早野君が自殺したと思っていたけど、それは間違いだと分かった。早野君はそれを掛井に伝えることができた。そして、何で急に女の子達に嫌がらせをされるようになったのか謎が解けた。もう、いいでしょう?出て行って。」
早野君は沈黙を続ける。
「早野君の魂胆は分かっているわ。早野君は、あたしに反省させて、あたしを掛井の無実の罪を晴らす助けにさせようとしたんでしょう?いいわよ、掛井を助けてあげても。」
溜め息混じりの言葉だったが、早野君は少し驚いた様だった。
「初穂ちゃん、本気で言っているの?」
「ええ。でもね、助けるかは、さっきも言ったけど、これからの掛井の態度次第よ。掛井はこれから、あたしに対してどんな振る舞いになるのかしら。凄く楽しみよ。下手な態度は取れないわよね。だって、掛井が無実なのを知ってるのはあたししかいないんだから。つまり助けられるのは、あたしだけよ。残念ね、早野君。あたしは反省なんかしないわ。理由がないもの。確かにあたしは、掛井が早野君を自殺に追い込んだと責めたけど、それは仕方ないことだわ。状況から皆がそう思ったことだし、当の掛井もそう思って反論もしなかったんだから。それに責めたのは、あたしだけじゃなかったわ。他の人も責めたのは、掛井も覚えているでしょう。それから、早野君が10階のベランダから落ちたのは早野君自身のせいであって、当然あたしが反省することではないわね。それに、早野君が女の子達から嫌がらせを受けたのも、あたしのせいではないわ。あたしがそうなるように仕向けたと早野君は言うけど、あたしは命令してないのよ。それで、あたしが悪いと言えるの?だいだい、男のくせに女の子に虐められるなんて情けないわ。早野君、本当にありがとう。あたしに掛井というオモチャを与えてくれて。早野君が大好きな掛井は、早野君が大嫌いなあたしに頭が上がらなくなったのよ。そして、早野君は、あたしのことが大嫌いでも、あたしに何も出来ないわね。掛井の無実の罪を晴らせるのはあたししかいないんだから。」
初穂は高笑いをする。そして、一度は自分が早野君を虐めるよう仕向けたと認めたが、今は否定する。開き直りの開き直りだ。
初穂はさらに言う。
「早野君は大きな判断ミスをしたわ。あたしが反省すると踏んだ。バカね。さあ早野君、早くお母さんの所に行きなさいよ。行ってお母さんにも今した話をするのね。もしかするとお母さんも、掛井の無実の罪を晴らす助けになるかもしれないわ。でも、お母さんだけでは、きっと世間は信じてくれないわよ。息子が幽霊になって真実を話に来ただなんて、誰が信じるの?結局、第三者のあたしが必要になるのよ。あたしは、掛井を責めた急先鋒だったからね。お母さんより、あたしが話した方が効果があるわ。勿論あたしは、早野君の幽霊が現れたなんてことは言わないで、上手く説明するけどね。」
初穂が開き直ったのは、自分が早野君にとって必要な人間と判断したからだと思う。僕の無実の罪を晴らす為に。
しかし、僕も一度は、早野君が初穂を僕の味方にしようとしているのではないかと考えたが、早野君の顔を見ると懐疑的になる。早野君の表情は冷めている。
そして、冷めた顔の早野君が言う。
「僕はお母さんに会いに行くけど、この姿をお母さんに見せることは出来ないんだ。この姿は恨みを持つ初穂ちゃんの前でしか人に見せられないんだよ。お母さんの前で出来ることは、お母さんの夢枕に立つことだけなんだ。」
早野君の声は寂しそうだったが、そんなことを感じ取ることなく初穂は笑いながら言う。
「ならば、尚更あたしが必要ね。お母さんは、夢に早野君が出てきたと思うだけだものね。本当にありがとう、早野君、掛井はあたしの思うがままよ。そして掛井は、あたしのご機嫌を取るようこれから頑張って!名誉を回復出来るかは、あたしに掛かってるんだからね。」
初穂の高笑いが再び響く。が、初穂の高笑いが終わる前に、もうひとつの笑い声が起きる。
早野君だ。
「本当の本当にバカだね、初穂ちゃんは。」
初穂の笑いが止まる。
「バカとは何よ!」
「お礼を言うのは僕の方だよ。一瞬、本当に初穂ちゃんが掛井君の力になろうとしたのではないかと思って、焦ってしまったよ。僕は初穂ちゃんに何の期待もしていない。初穂ちゃんが反省するなんてハナから思ってもいない。それに、なまじ初穂ちゃんが反省して、掛井君の無実の罪を晴らすつもりになっても、初穂ちゃんの力量じゃあ無理だね。掛井君の無実を世間に信じてもらうのは、非常に難しいことくらい僕には分かっているし、だからこそ初穂ちゃんには、そんな能力はないことも分かる。それからね、掛井君は初穂ちゃんに媚びてまで自分の無実の罪を晴らそうとはしない。掛井君の誇りは、初穂ちゃんなんかに汚されるような生易しいものじゃないんだよ。掛井君は、僕を自殺に追い込んだ罪を一生背負う覚悟を決めた人だ。覚悟を決めたことのある人は誇り高いんだ。僕はね、そんな掛井君の前に、何の勝算もなく現れたわけじゃない。僕は掛井君の無実の罪を晴らす切り札を持っているんだよ。ありがとう、初穂ちゃん。反省してくれなくて、本当にありがとう。お陰で僕は迷いなく切り札を切ることが出来る。僕が掛井君の苦悩を知りながら、ここまで切り札を出さなかったのは初穂ちゃんがいつか改心した時に、掛井君を助ける切り札が初穂ちゃんにとって辛いことになるかもしれないと心配したからなんだ。そのせいで掛井君の苦しい時間を長くしてしまったけどね。これまでの時間は、僕が初穂ちゃんを見限るのに掛かった時間なんだよ。」

[PR]リアルタイムでチャットするなら老舗で安心チャットのチャベリ!
ニックネーム: 又は匿名を選択:

トリップ:

※任意 半角英数8-16文字 下げ
利用規約 掲示板マナー
※トリップに特定の文字列を入力することで、自分だけのIDが表示されます
※必ず利用規約を熟読し、同意した上でご投稿ください
※顔文字など、全角の漢字・ひらがな・カタカナ含まない文章は投稿できません。
※メールアドレスや電話番号などの個人情報や、メル友の募集、出会い目的の投稿はご遠慮ください

[お勧め]初心者さん向けトピック  [ヒント]友達の作り方  [募集]セイチャットを広めよう

他のトピックを探す:その他のテーマ







トピック検索


【 トピックの作成はこちらから 】

カテゴリ


トピック名


ニックネーム

(ニックネームはリストから選択もできます: )

トピック本文

トリップ:

※任意 半角英数8-16文字

※トリップに特定の文字列を入力することで、自分だけのIDが表示されます
※メールアドレスや電話番号などの個人情報や、メル友の募集、出会い目的の投稿はご遠慮ください
利用規約   掲示板マナー





管理人室


キーワードでトピックを探す
初心者 / 小学生 / 中学生 / 高校生 / 部活 / 音楽 / 恋愛 / 小説 / しりとり / 旧セイチャット・旧セイクラブ

「これらのキーワードで検索した結果に、自分が新しく作ったトピックを表示したい」というご要望がありましたら、管理人まで、自分のトピック名と表示させたいキーワード名をご連絡ください。

最近見たトピック