青葉 2013-10-19 22:21:19 |
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初穂は怒っているようだ。が、確かに初穂は間違ったことは言ってないと思う。僕は初穂が早野君を助けているところしか見たことがない。
「その通りだよ。解っている。」
早野君は素直に同意した。
しかし初穂は、
「話がこんな流れじゃなければ、言うつもりもなかったけど、あたしは早野君のことを助けたことが何度もあるわ。なのに、そんなふうに言われるなんて頭に来るんだけど!」
と語気をさらに強めた。今は、恐怖が怒りに勝っているのだろう。
「初穂ちゃんは僕を助けてくれたよ。忘れていない。」
早野君がそう言うと、早野君の発言内容と冷静な態度に初穂は少し頭が冷めたようで、
「そりゃあ、あの日、女の子達が早野君にそんなことをしていたのに、気づけなかったのは悪かったと思うわよ。でもね、あたしは当時学級委員で忙しかったから、休み時間もクラスの仕事をすることが多かったのよ。気付かないこともあるわ。」
と、トーンダウンした。そして、
「でも、それでも謝らなくちゃね。朝からずっとそんなことか続いていたのに、気付かなかったんだから。ごめんね。」
と、謝罪をした。
「初穂ちゃんは僕の保護者じゃないんだから、そんなこと謝らなくていいよ。僕は全く気にしてないから。」
初穂か謝罪したのに対して、そう、早野君は冷たくいい放った。初穂は不満そうに、
「じゃあ、何であたしに怒ってるのよ……」
と、呟いた。
早野君は、その呟きには反応しなかった。
「さて、話を進めないとね。二時間目が終わると、予想通りに女子達が急いで駆け寄ってきた。僕も急いで掛井君に声を掛けようとしたんだけど、僕の隣の席には、僕が席を立つことを阻止する役目の女子がいたからね。だから、席を立とうとしても無理だったんだ。結局、僕は集まってきた女子の答えにくい質問を受け続けて休み時間を終えた。掛井君の邪魔が入らない状況を女子達は楽しんでいたんだと思う。三時間目に入ると、掛井君の病状はいよいよ悪化したみたいだった。教科書を開かずにいたし、右手に鉛筆は握っていたけど、頭を垂れながら左手で、その頭を抱えていたからね。でも、その頃になると、僕にも問題が発生していた。いや、その前から少しづつ僕はその問題と向き合わされていたんたけど、三時間目か始まって15分もすると、僕は掛井君のことを気にしている状態ではなかったんだ。」
「何よ、問題って?」
初穂は、僕と違って黙って話を聴くことは出来ないらしい。
「僕はトイレに行きたかったんだよ。二時間目あたりからね。三時間目のその頃は、我慢するのが大変だったくらいに。」
早野君は無表情ながら、初穂に顔を向けて淡々と言った。初穂は、そんな早野君を見据えながら、
「そんなに差し迫ってたんなら、授業中だろうと先生に許可を貰ってトイレに行けば良かったじゃない。それとも、それも注目を浴びるのが嫌だったから言わなかったというの?」
と質問をした。
「そうだよ。それにトイレに行きたいというのは恥ずかしさも加わるからね。さらに先生から、何で休み時間の間にトイレを済ませなかったのか、と怒られるのは目に見えているよ。」
「差し迫ってるんだから行けば良いじゃない。それに、そんなことであの先生が怒るかしら。優しい物分かりの良い先生だったじゃない。」
初穂の言葉に早野君は首を振った。
「それは違うよ、初穂ちゃん。初穂ちゃんの様な活発な生徒には、優しく物分かりが良い先生かもしれないけど、僕の様な面白味のない生徒には先生の対応は変わるんだ。いくら先生といえど好き嫌いはあるんだよ。」
「早野君は、あの先生が嫌いだったんだね。良い先生だったのに。」
初穂はそう言って、早野君のことを否定的に笑った。
僕には早野君の言ってることが正しいと思えた。僕も先生から好かれていない生徒の一人だったから共感出来るのかもしれない。
「とにかく、僕は三時間目を何とかやり過ごした。トイレに行きたい衝動を乗り切ったんだ。でも、休み時間が来ても僕は席を立てなかった。女子達から逃れられなかった。懸命に頼んだけど女子達は、僕の自席から移動したいという一生懸命の頼みを、面白そうに阻止するだけだった。」
「正直にトイレに行きたい、と言え良いじゃない。それが恥ずかしかったの?」
初穂は馬鹿にしたような顔をする。
「そんなことを言ったら、女子達はさらに面白がって僕を開放しないよ。まあ、言おうが言うまいが同じだったんだけど。そして、四時間目が始まった。その四時間目が、掛井君が僕にマリモの瓶の水を掛けた時だよ。もう解るよね?掛井君が何故、僕に水を掛けなくちゃならなかったのかを。」
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