目的ない潜考

目的ない潜考

青葉  2013-10-19 22:21:19 
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忘れないうちに、短い話を。

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  • No.37 by 青葉  2014-11-13 01:07:48 

早野君は、優しさと言った。さっきも、マリモの瓶の水をかけた僕に感謝していると言っていたが、人にそんなものをかけることが、そんなに良いことなのだろうか。
「優しさ?」
初穂も同じ気持ちだったのだろう。怪訝な面持ちで、そう言った。
「さあ、もう話を進めていこう。僕は長くここにいられないんだ。僕は話終えれば、必ず思いを遂げて消滅してしまう。その前に、お母さんの所にもいかなければならないからね。」
早野君は淡々と言ったが、僕の心は乱れた。
やはり、母親に会いたいんだ。
そう思うと何とも哀しくなった。
「僕が話したいのは、掛井くんが僕に瓶の水をかけた日のことだよ。」
と、早野君は喋り始めた。
「あの日、掛井君は朝からとても具合が悪そうだった。僕は後から登校して教室に入ったけど、その時には既に掛井は自分の席でグッタリとしていた。僕は直ぐに声を掛けた。掛井君は、何だか体が気だるくて。と答えた。僕が、帰った方が良いと言うと、掛井君は、今日はお母さんに用事があって午前中は家に誰もいない。どうしても辛ければ保健室に行くから大丈夫だよ。と、既に充分に辛そうな表情で返答した。その時、担任の先生が入ってきて、朝の会を始めると号令を掛けたので、僕は掛井君のそばを離れて自席に着いたんだ。そして、一時間目が始まったけど、僕は気になって斜め後ろの席の掛井君の様子を何度も伺ったんだ。掛井君は教書を開いてはいたけど、ノートは取ることができずに、ずっと虚ろな目をしていた。僕は、何で先生は気づかないんだろうと疑問に思った。一時間目が終わり、僕が掛井君に。また声を掛けるために席を立とうとしたんだ。でもその時、僕の席の周りに何人かの女子が集まって来た。」
早野君が言葉を切ると、空かさず初穂が口を出す。
「女の子達が?何をしに来たの?」
当時クラスの女子のリーダー的な存在だった初穂にとってはことさら気になることの様だ。だから、
「簡単に言うと僕を困らせに来たんだよ。」
と、早野君が答えると直ぐに反応する。
「困らせるって、女の子達は何をしてきたの?」
「たわいもないことと言われれば、その通りかもしれないことだけど、僕に色々な質問を投げ掛けてきたんだ。最初は、この中で一番誰が可愛いと思うか?だったかな。僕が答えに困って、明確に答えないでいると、何でちゃんと答えないのか問い詰めてきた。僕は完全に黙ってしまった。何で?と問われてもどう答えればいいのか分からなかったから。すると今度は、なんで僕がそんなにハッキリしない性格なのかを聞いてきた。よってたかって言われたんだ。いつも嫌がらせはされていたけど、あの日はそういったパターンだったんだね。」
早野君が初穂に顔を向けて言うと、少し気後れしたように初穂は二度頷いた。
「僕は結局その休み時間の間、掛井君に声を掛けることが出来なかった。休み時間が終わって先生が教室に戻って来るまでの間、女子達は僕を解放しなかったからね。掛井君は僕の斜め後ろの席にいるのに歯がゆかったよ。そして、二時間目も僕は掛井君の事が気になりチラチラと後ろを見ていたんだ。掛井君はやはり教科書を広げていたけど辛そうな表情をしていた。先生は、僕が後ろをよく見ていることに気付いて、注意をしてきた。そこに気付いて、何で掛井君の体調不良に気付かないのか不満に思ったけど、どうしようもなかった。」
「そんなに心配なら、掛井の様子がおかしいと先生に言えば良かったじゃない。」
初穂が再び口を出した。
「その通りだよ、初穂ちゃん。でもね、僕には言えなかったんだ。きっと初穂ちゃんの様に快活な人には解らないだろうな。授業中に手を挙げて先生に何かを言うことの難しさなんて。それから、皆の注目を浴びる恐怖なんて。でも、掛井君が辛そうにしているのに、そんなこと程度が出来ない僕の弱さは罪があるんだと思うよ。」
早野君は済まなそうな目をして、僕をチラリと見た。
「友達がそんな状態になってるのに、そんなことも出来なかったの?信じらんない!」
初穂は咎める口調になる。初穂の心境も複雑なのだろう。早野君への恐怖の気持ちと、持ち前の強気さがせめぎ合いをしているようだ。
「その気持ち解るよ。あの時の僕が逆の立場でも、きっと何も言えないでいたと思う。」
僕はそんなことを言っていてた。早野君を擁護したかったのではなく本当思ったことを口に出した。
早野君は少し笑って頷いたが、掛井君ならそんなことないよ、というような表情をしていた。
「変なの、お互いに、友達の為になる行動を何も取らないと言ってるのに、解り合ってるなんて。」
初穂は僕たちを馬鹿にするように言った。
「さあ、続けて。」
僕が早野君を促した。
「うん。そうだね。続けるよ。二時間目が終わり、今度こそ僕は掛井君に声を掛けようとしたんだ。でも、直ぐに女子達がまた駆け寄ってきて僕を囲んだ。そして、僕は席を立ちかけていたんだけど座らせられてしまった。前の休み時間と状況は同じ。女子達は僕にどうでもいい質問をしてきた。少し違うのは、一時間目が終わった後の休み時間の時より、女子達はみんな楽しそうだった。きっと女子達は気付いたんだ。」
そう言うと早野君の目が冷ややかになった。それに気付かず初穂は、
「何によ?」
と強い語調で訊いた。
「掛井君の状態にだよ。いつもの掛井君ならば、僕が女子に虐められていたら何かしら助ける行動をとる。例えば、女子に囲まれて僕が困るような質問をされていたら、掛井君か割って入ってくるよ。でも、掛井君は何もしなかった。女子達もおかしいと思って僕に話し掛けながら掛井君のことも見ていたんだ。そして、掛井君の具合が悪いことに気付いた。女子達は、掛井君の邪魔なく僕に好きなことが出来ると考えたんだと思う。」
「女の子達は、そこまで考えたのかしら。」
早野君の言葉に対して初穂は否定的な意見だった。
「考えたと思うよ。僕の周りに集まったのは、初穂ちゃんの取り巻き達だけだったからね。」
「なにそれ!あたしは関係ないじゃない。あたしはそこにいなかったわよ!」
矛先が自分に向いたことに腹を立てた初穂が語気を強めた。
「そんなことは解っているよ。当事者は僕なんだから。でもね、関係ないことはないよ。僕は女子達から虐めを受けていたけど、でも僕に何もしない女子も結構いたんだよ。僕に嫌がらせをしていたのは初穂ちゃんが仲良くしていた女子ばかりだった。」
初穂とは対照的に早野君は冷静にそう答えた。
「あたしは早野君を虐めたことなんてないわ!」

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