目的ない潜考

目的ない潜考

青葉  2013-10-19 22:21:19 
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忘れないうちに、短い話を。

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  • No.23 by 青葉   2013-12-23 20:25:02 

居酒屋を後にして通りに出ると、直ぐにタクシーを捕まえることが出来た。初穂の後について僕も乗り込む。
初穂は自分の家の場所を運転手に伝えた。
早野君の僕への恨みは深いのだと思う。この世になくても僕に憤慨をぶつけてくる。初穂を巻き込んでまでも。
初穂の思いも深いのだろう。小学生の頃の思いをまだ持ち続けるほどに。そこまで早野君のことを好きだったのだから、初穂にとっても早野君が亡くなったことに後悔があるだろう。悪いのは当然ながら僕だが、初穂は自分が何とかすれば助けるとこが出来たのではないかと思ったのではないだろうか。何せ初穂は当時、女子のリーダーだったのだから。そんな思いがあるからこそ、簡単に通り過ぎていく小学生の頃の恋を忘れられず、病的にまでなったのかもしれない。
早野君は亡者であるのに、この存在感はもはや「幽霊」と呼んでいい。初穂にとりついた「幽霊」だ。もちろん初穂が頭の中で作り出したものだが、僕は「幽霊」をそういったものだと捉えている。形はどうあれ「幽霊」とは人が頭の中で造りしものだと考えている。
僕は初穂が生み出した「幽霊」によばれたのだ。もう早野君は言葉を発する事が出来ないが、初穂を介して呼び掛けをしているのだ。
何年経とうがお前を赦さない。
早野君はそう言っているのかもしれない。
もちろん僕は赦されるとは思っていないが初穂はあまりに不憫だ。初穂に落ち度はない。
僕は初穂を救い出す義務がある。早野君のへの罪は僕が一人で背負っていくことだ。
初穂には、現実の世界で健全に生きてほしいと思う。初穂が「幽霊」と出会ってしまったのは僕の責任なのだから、そう切に思う。
初穂のために僕はどう行動すればいいだろうか?
初穂の家に行っても僕は早野君を感じることはできない。早野君は初穂の頭の中だけに存在している。 僕が早野君に初穂を解放するよう説得することはできるはずもない。だいたい心の病とはそういったものではないだろう。どうすれば初穂を現実世界に引き戻せるだろうか。
この難しい試練も、早野君が僕に与えた罰なのだろうか。
僕がそんなことを考えている間も初穂は早野君との幸せな時間を僕に話してくる。
初穂が非現実世界の住人である可能性が益々高まる。それと比例するように僕の罪悪感も上昇する。
初穂はどうすれば目を醒ますだろうか。その答えが出ないままタクシーは、まだ新しく女性が好みそうなアパートの前で止まる。
僕はタクシー代を払おうとしたが、
「今日はタクシーで帰ろう決めてたんだから、あたしが払うよ。」
そう初穂は言って僕に払わせることを嫌がった。
初穂が支払いを済ませ、タクシーは去っていく。
「家はね、二階なの。」
初穂はそう言って階段を上り僕を先導する。
僕は階段を上りながら思う。今日のところは様子をみよう。初穂がどれほど病的なのか程度を測ろう。もしも深刻な程に初穂が病的ならば、僕の力ではどうすることもできない。その時は初穂の家族に連絡して状況を知らせ、後は家族に任せる。それくらいしか僕には出来ない。
そう思ったが直ぐに新たな問題に気づく。
初穂は早野君と逢わせるために家に僕を招待したのだ。初穂には存在するが、僕には存在しない早野君と対面した時、僕はどうすればいいのだろう。
階段を上がる時間は短い。
階段を上り切ると、初穂は階段前すぐの扉の前に立った。表札には初穂の名字である「浅井」とある。
ドアを開ける初穂。
僕は促され、混乱しながら初穂の家の入口をくぐった。
「たただいま!翔太、いるんでしょう?」
初穂は明るい声を出す。
返ってくる声はない。
はずだった。
「お帰り、待ってた。」
が、そう声が聞こえた。
玄関の正面には扉があり、その扉は少し開いていて、中から灯りがもれていた。声はその扉の向こうから聞こえたが、隙間はあまりなく中を伺うことはできない。
「!?」
予想外の展開だ。
いったい声の主は何者だろう。翔太と呼ばれて返事をしたが早野君のわけがない。ならば、僕の知らない「翔太」という名前の男が中にいるのだろうか。
「今日はね独りで帰ってきたんじゃないんだ。翔太が会いたがっていた掛井君を連れてきたよ。」
初穂は靴を脱ぎながら大きめの声で言う。口調は楽しそうだ。初穂が言った内容から僕の知らない「翔太」ではないことが分かる。そして僕は早野君以外「翔太」という知り合いはいない。
ある考えが僕の頭を駆け抜ける。
非現実世界にいるのは僕の方ではないか?病んでいるのは僕の方で、早野君が自分のせいで命を絶ったという、本来なかった架空の世界を造りだし自分を苦しめている。僕は自虐的な世界の中で生きているのではないだろうか。
そんなふうに感じたが、それは一瞬のことだった。
馬鹿馬鹿しい考えだと思う。
「本当!掛井君が!今そっちに行く。」
弾んだ声が扉の向こうから聞こえ、僕と初穂がいる玄関に向かってくる気配を感じる。
声の主が男か女かを問われれば男だと答えるが、何か違和感があった。この違和感はなんだろう。
ほとんど開いていなかった扉が動く。
否応なしに僕は注目する。
扉を開けたのは早野君のだった。
だがそれは、あまりにも僕の知っている早野君だった。
あの頃のままの早野君。小学生のままの笑顔の早野君。
僕の背筋が凍る。
何が起きているのかは分からない。
だが僕の罪はやはり重いのだと思った。
そうでなければ、こんなことは起こらない。
僕は目眩を感じると、意識が遠のいていく。
罪の深さを感じながら、違和感があったのは、男の声ではあったが変声期前の高い声だったからだと思った。

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