目的ない潜考

目的ない潜考

青葉  2013-10-19 22:21:19 
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忘れないうちに、短い話を。

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  • No.21 by 青葉   2013-12-09 22:40:55 

「何て顔してるのよ、掛井君。そこまで驚くこと?」
僕の顔を見て初穂が可笑しそうにしている。
「早野彰太……。早野君。」
そう呟きながら、僕は少し酔った頭で考える。初穂の狙いを考える。
何で初穂はそんなことを言うのだろう?
酔いのせいでまともな思考ではないのだろうか。 しかし、それほど酔っているようにはみえない。
では、僕をからかっている?
でも、それはあまりにも悪趣味なからかい方だ。
でも、あえてそんなからかい方をしているのだとしたら?
初穂はあの頃と変わりなく、早野君を追い込んだ僕を恨んでいて僕を責めているのならば、こんなやり方も厭わないのかもしれない。
僕が早野君の話題を喜ばないのは解っているだろう。早野君の名前を聞くだけで僕の心は苦しめられるのだから。
しかし、まるで早野君が生きているかのように話をして、それでどうするのだろう。その後にどう展開させていくのだろう?どう僕の心の傷を衝くのだろう。それは疑問だ。が、初穂はやはり僕への恨みは消えていないと考えられる。そうでなければ、こんな話をしてこないはずだ。もう何年も経っている小学生の頃の恋をそこまでの思い入れをもって過ごせるのか懐疑心もあるが、初穂は早野君のことがそれだけ好きだったということだろう。そう受け止めるしかない。早野君は、もうこの世にはいないのだから。どこを探してもいないのだから。それでも初穂が早野君の話を出すということは、どういった形であれ早野君の存在を感じているということなのだ。
ならば初穂は僕のせいで長い期間苦しんでいることになる。僕は初穂にとことん付き合うことにした。逃げるのは許されないことだ。
しかし僕には迷いがある。僕はどんなスタンスでいればいいのだろう。このまま早野君が生きているように話をすればいいのか、それとも早野君はもうこの世にはいないと言って動揺しながら心の傷をえぐられた自分をさらけ出せばいいのか。
どちらが初穂にとって喜ぶ姿なのか判らない。
「ねえ、掛井君は小学生の時に転校して以来、彰太とは逢ってないんでしょう?」
判らないまま初穂が言葉を発した。
「うん、会いたくても会えなかったから。」
僕は考えてそう答えた。
「ふーん、じゃあ彰太の言う通りだね。」
初穂はグラスを傾ける。その表情は僕の欲しい情報を何ら物語っていない。
「何がその通りなの?」
「彰太は、掛井君とは小学生以来会っていないって言ってた。そこがその通りなのよ。でね、彰太はさ、掛井君にまた会いたいとよく言ってるの。やっぱり妬けるな。」
苦笑いを浮かべる初穂。
「早野君が僕に会いたがっている?」
初穂の苦笑いは自然に感じた。
「そうだよ。彰太はよく掛井君の話をするの。そして、掛井君に逢いたいと言ってるんだよ。逢ってお礼を言いたいんだって。そういえば謝りたいこともあると言ってる。ねえ、いったい二人の間に何があったの?お礼やら謝りたいやら、何かあったんでしょう。すごく興味があるのに彰太は教えてくれないの。そのうち解るからと笑って言うだけなのよね。」
二人の間に何があったかなんて初穂はよく知っているはずだ。そして、僕が早野君からお礼の言葉や謝罪の言葉を貰うことは有り得ないことも確実に解っている。
初穂は僕に何をさせたいのだろうか。僕は何を言えばいいのだろう。
「ねえねえ、彰太には内緒にするから教えてよ。何があったの?」
初穂はあの時のことを話せと言っているのだろうか?しかし初穂は知っている。ならば初穂が知りたいのは、あの時何故あんな行動を僕がとったのか理由を教えろということだろうか。或いは、あの時早野君を傷つけた僕の心情はどうだったかということだろうか。
だが、何故あんな行動をしたのか心情はどうだったのか、僕にも答えることが出来ない。

僕にはあの時の記憶がない。

あの日の僕はとても体調が悪かった。そして早退をした。重い風邪で、そのあと5日間も学校を休んだ。問題の僕の行動は、あの日の早退をする前におこした。
僕の記憶にはないから後から人から聞いて知った。
体調が悪い中での行動だったから記憶に残らなかったのか、忘れたい事だったから記憶から消したのか判断はつかない。
とにかく後から僕は自分の行動を知らされて愕然とした。何故そんなことをしたのか自分のことなのに全く理解できないかった。だが紛れもない事実なのだ。
当時、早野君の席は窓際の後ろから三番目で、僕はその斜め後ろだった。座席の配置はそうだった。
そして僕が早野君にしたこと。それは、僕は授業中に突然立ち上がり歩き出し、教室の後ろにあった台に置かれていた観賞用のマリモが育成されていた瓶を手に取ると、自席を通りすぎ早野君の所に行き、瓶の中の水とマリモを早野君にぶちまけた。
マリモの瓶はけっこう大きかったので早野君は胸の辺りからズボンまでが水浸しになった。そんな早野君を置き去りにして僕は無言で教室を出た。担任の先生は僕をすぐには追わなかった。何が起きたのか解らずに鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたという。いや、先生だけでなくクラス全員が同様の表情をしていたらしい。
僕は保健室に着くとベッドに倒れこんだ。保健の先生は、突然に僕が保健室に入ってきてベッドに倒れこんだので驚いた様だが、呼んでも僕が答えないので、直ぐに検温をして僕が高熱を出していることを調べ、遅れながらも僕を追ってきた担任の先生に、僕の現状を伝えて、僕が歩ける状態ではなかったので母を呼び出した。そして、僕は車で迎えにきた母に連れられて早退をした。
そして早野君は命を自ら絶った。
それだけのことで、人は命を絶つ選択をするだろうかと思うかもしれないが、早野君にとって僕は唯一の味方だった。そのただ一人の味方から、そんな仕打ちをされたのだ。
早野君はクラスの女子から何故かイジメにあっていた。本当に何故かとしか言いようがない。早野君は同性の僕から見ても、とても整った顔立ちのいわゆる美少年で、性格は大人しく嫌われるような存在ではなかった。早野君がクラスの女子に嫌われ始めたのは秋ごろからで、それまでは女子からは寧ろ人気があったと思う。あのクラスは男子より女子の方が力があった。だから男子は早野君をかばうことをしなかった。かばえば次の標的は自分だという恐怖があったのだろう。イジメに参加することはなかったが傍観していた。それは仕方がないことだったのかもしれない。女子のリーダーだった初穂さえイジメを抑えられなかったのだから。それでも初穂は早野君が困っていると、イジメている女子達を、
「やめなよ、早野君が嫌がってるじゃん。」
と、たしなめてはいた。初穂が注意すると女子達はその場を去ったが、初穂が見ていないところでは早野君を苦しめた。
早野君は女子達に何かされそうになると僕の所に来ることがよくあった。僕はそんな早野君を他の男子のように自分がイジメにあう可能性を考えて煙たがったりはしなかった。別に僕が正義感を強く持っていて早野君を守ろうとしていたわけではない。僕はクラスの女子達とは既に良い関係ではなかった。女子のリーダー格だった初穂と前々から関係が良くなかったのだからそれも当然だ。

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