青葉 2013-10-19 22:21:19 |
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「久しぶりなんだから、一緒に飲もう。見たところ独りみたいだし。」
初穂は、強引に自分が座っていた隣のカウンターの空席に僕を座らせた。
「もう帰るところなんだよ。」
初穂の勢いに負けて座席についてしまったが一緒に飲む気はなかった。僕が立ち上がろうとすると、
「掛井君って凄い!」
と何故かビックリしたような顔をした。
「……何が凄いの?」
戸惑う僕。
「あたしが飲みの誘いをすると男はみんな喜ぶのに、迷惑そうなんだもん。カッコイイぞ!掛井君!」
僕のことを凄いと言いながら、初穂は自分が魅力的な女であることを自慢している。小学生の時から初穂が嫌いだったが、年月が経った今でも好きにはなれそうにない。
「用があるんだよ。ゴメン。」
そう言って僕は立ち上がる。
「嘘つきだね。さっき、そこで二人で飲んでたでしょう?」
初穂は僕と畠田先輩がいた座敷席の方を指差す。
僕は頷く。
「一人で飲んでるとね、他にすることがなくて会話が聞こえるんだよ。掛井君と一緒にいた人は急用で去っていった。そうでしょう?つまり、掛井君は暇なんだよ。」
僕達がいた座敷は初穂の座っているカウンター席とは直ぐ近くだ。暖簾で座敷席は隠れているが、意識すれば声は確かに聞こえるだろう。
「帰るよ。」
僕に時間があることは初穂にバレているようだが、それならそれでいい。初穂にどう思われようと時間を共有するつもりはない。
「まあ、そう言わないで座って。あたしも長くここにいるつもりはないから。少しだけ。ねっ。」
初穂はしつこい。そして僕の腕を急に強く引っ張って再び座らせようとする。
思いもよらない行動に僕はよろけながら座席に納まる。
「誘いをかければ男が喜ぶなら誰が呼び出せばいいじゃないか。だいたいモテるのに、こんな所で独りでいるなんて何か変だよ。」
僕は少し怒りをあらわにした。
「解るよ、掛井君。あたしのこと嫌いなんでしょう。あの頃ずいぶん掛井君を攻撃したもんね。でも何で攻撃したんだろう。忘れちゃった。」
僕の心がかき乱される。
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