青葉 2013-10-19 22:21:19 |
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畠田先輩は伝票を手に取ると残していく僕に目もくれずにレジの方に歩いていった。その様は失礼で人を軽んじてる態度にみえたが、思ったよりずっと早く自由になったことでホッとした。
一人で飲むつもりはサラサラない。ほどなくして僕は席を立った。
座敷席を降りると、すぐにカウンターがある。そのカウンターの横を通り出口に向かう。
その時、
「あれ!掛井君?」
カウンターに一人で座っていた同じ年くらいの女性が通りすがる僕を呼び止めた。
反射的に止まり、誰かと思い振り向く。こんな所で、しかも女性に声を掛けられるなんて意外なことだ。
その女性は笑みを浮かべて僕の顔を見ている。
誰なのかは直ぐに分かった。
小学五年生の時に僕が転校して以来は会っていなかったし、年月も経って成長はしているが憶えている顔だ。
浅井初穂。
小学生五年生の時に同じクラスで、女子のリーダー的な存在だった。
畠田先輩から解放されて安穏とした心持ちになっていた僕の心が乱れた。
今日はなんて日だと思う。世界で一番苦手としている人に再会してしまった。せっかく畠田先輩から解放されたのに、一難去ってまた一難だ。
「掛井君でしょう?絶対そうだよ。」
初穂は、表情も体も固まってしまった僕に笑みを崩さずに軽口を叩く。
「あれ!あたし忘れられちゃった?嫌だな。このあたしを忘れるなんて犯罪だよ。」
忘れるはずがない。大嫌いな人間を人はそう簡単に忘れることはできない。
「忘れてないよ。浅井さんでしょう。」
僕は冷ややかに言ったつもりだったが初穂は全く気にしていない。
「ちゃんと憶えてたね。偉い偉い。」
上から目線でそんなことを言う初穂に僕は苛立った。初穂と話すことなど何もない。そう思い立ち去ろうとした。しかし、僕が動き出す前に初穂は行動を起こした。
初穂は立ち上がり、僕の腕を取った。
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