青葉 2013-10-19 22:21:19 |
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「私は、その猫にこの場所を提供した者です。良かれと思ってやったことですが、結果は段々と自らの存在を忘れられる哀しみを感じさせることになってしまいました。だから、消滅することが近づいたその猫の寂しさを少しでも慰めようと来ていたのです。あなたの寝床の横が私の通り道です。」
彼女を思い出さなかったことに罪悪感が生まれた青葉に老紳士は言う。
「忘却は自然の摂理ですよ。余計なことをしたのは私がいけないのです。もう行きなさい。」
青葉は彼女に触れるのを仕方なく諦めて扉を開けることにした。
が、できなかった。
扉は大きな棚が邪魔していて開けることはできない。
心が身体が戻れなくなる。老紳士はそう言ったが、そうなるとどうなるのだろう。
最悪の考えが頭に浮かび恐怖を感じた。
入るときは開いたのに。
『棚が邪魔して出ることが出来ません。』
助けを求め老紳士に言葉を投げる。
「そんな現実的なことが気になるということは、覚醒が近づいている証拠です。早く、寝ているあなたの身体に戻らないと。」
そう言われても棚がある。どうしようもない。
「仕方ありません。今回だけは手伝ってあげしょう。あなたがこの部屋に来たのは、あなたに私の存在を気づかせてしまったという、私のミスでもあるのですから。でも今回だけです。もう二度とここに来ようとしてはいけません。」
そう老紳士が言い終わると、青葉は自分の意思とは関係なく扉に向かって勢いよく動き出した。そのまま開いてない扉をすり抜けて、一気に玄関を越えて青葉が寝ている部屋に吸い込まれるように移動し、寝ている自分の身体に衝突した。
ような気がした。
気がつくと元の部屋で青葉は布団に横になっていた。しかし、金縛りは解けていない。身体が動かない。
懸命に身体を動かそうとしていると、誰かが部屋に入ってくる気配があった。
「どうやら戻れたようですね。良かった。しかし、さっき言った通り、もう二度とあの部屋に行こうとは思わないで下さい。危険なことです。次は助けません。」
気配は、そう言って青葉の横を通り過ぎて行った。
気配がなくなると青葉の金縛りは解けた。
解けると直ぐに脱力感が襲い、直ぐにまた眠りに就いた。
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