青葉 2013-10-19 22:21:19 |
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『開けようとしなかったというより、棚があって開けようにも開きません。それだけです。』
「そうですか?まあ、とにかく、あなたは扉を開けなかった。それがこの部屋を長らえさせることになりました。」
青葉は話を変える。
『ここは彼女の記憶が作り出した世界ならば、何故ここには人がいないのですか?』
そこに疑問を感じていた。
「かつては来ていましたよ。でも、その猫のことをあなた方が忘れてしまい、最近は誰も来なくなりました。 あなたも前はよく来ていました。あなたの家族も。今はサッパリですが。 」
老紳士はそう答えた。
『来ていた?来なくなった?』
青葉はこの部屋に来たのは今回が初めてだ。
「実際に、あなたや、あなたの家族が来ていた訳ではありません。現実で、あなた方がその猫のことを思い出した時に、この部屋にあなた方が現れるのです。ここはそういう所なのですよ。」
首を動かして、再び彼女を見る。
彼女は棚の上で寝そべりながら交差させた両前足の上に頭を乗せて青葉を見ている。
懐かしさがこみ上げてきて、彼女に近づこうとする青葉。しかし、気持ちと裏腹に動きは緩慢だ。
「さあ、もういいでしょう。体に戻れなくなりますよ。一刻も早くお帰りなさい。」
老紳士は少し厳しい口調になった。
『体に戻れない?』
「あなたは身体ごとここに来てるつもりの様ですが、実際は心を身体から切り離しています。そうでなければ、ここに来ることは出来ません。とても危険なことをしているのです。早くしないと心が身体に戻れなくなりますよ。」
幽体離脱のようなものだろうか。そう考えていると、老紳士は早口で言う。
「そんなものと考えていいでしょう。さあさあ、早く身体に戻りなさい。その猫とこの部屋の消滅は私が見届けます。あなたは現実に帰るのです。」
急かせる老紳士の言葉に焦りを感じながらも最後の質問をする。
『金縛りにあうたびに、横になりながらあなたが通るのを感じていました。あなたは何をしにここに来ていたのですか?』
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