青葉 2013-10-19 22:21:19 |
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『理解不能な存在ということですね。』
理解不能という理解を青葉はした。
「そうですね。開くはずのない扉を開ける。矛盾しているでしょう。つまり理解は不能です。理解を得られない。私はそれだけのつまらない存在です。」
老紳士はそう言ったが、十分に面白い存在だと思った。
開かずの扉を開けて空間を作り出す。とんでもない特殊技能の持ち主だ。あるはずのない空間を存在させている。
そう考えていると、老紳士は言った。
「しかし、ここも、そろそろ終わります。無くなります。」
『何故ですか?』
せっかくの稀有な場所だ。
「その猫の存在感が薄れてしまいました。あなたを含めて、その猫を知っている数少ない人達が、その猫をほぼ忘れています。そうなると、その猫の精神は存在できなくなります。ここを作り出した存在が存在できなければ、ここも終わります。」
そう老紳士から言われ、青葉は反論したくなる。
『忘れていません。ただ思い出す回数が少なくなっただけです。』
老紳士は頷き、
「そうです。それが忘却ということです。」
二の句が告げることができない青葉に老紳士は言葉を重ねる。
「別に責めているのではありません。廃忘は自然の摂理ですから。その猫に限らず誰もが忘れ去られていくのです。それに、本来もっと早くこの部屋は消滅するはずでしたが、今日まで長らえました。存続させたのは他ならぬ、あなたですよ。」
青葉には覚えのないことだ。
『どういうことですか?』
「あなたが、その扉を守ってきた、ということです。忘れ去られてしまえば、この部屋は存続できませんが、もう一つ、この部屋の存続条件があるのです。」
青葉には扉を守ってきた覚えはないが、そこは何も言わず、
『それは?』
と、もう一つの存続条件を訊いた。
「開かずの扉をが、開かずの扉でなくなることです。つまり、現実で扉が開いてしまえば、その時点でこの部屋は消えてなくなります。が、あなたはこの扉を開けようとしなかった。稀有な例ですよ。本当に。」
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