歯車 2013-09-14 14:20:29 |
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男は…突如やってきた…。
上空…高度30000フィート…。
不安定なヘリからの投下…。
風を切るように膝を抱えて数回転すると、真っ直ぐにこちらに向かってくる。
中間点でパラシュートを開き速度を徐々に落としていく…。
と、その時であった。
「うっ…!!。」
男を木の枝の先が掠めたのだ。
低下したと言ってもそれなりの速度の中、パラシュートを切り離した。
この木々の生い茂るジャングルの中では無駄な距離は稼げない。
膝を胸に付け、両手を使ってブレーキを掛けた。
湿った地面を滑り、漸く止まると瞬時に前を向いた。
そして、男は立ち上がる。
「っ…っ…。」
無言のまま男はイラついた手付きで重い降下服と重しの砂を投げ捨てた。
降下を見届けたのか、胸の通信機が鳴った。
「…こちらジャック…。」
「何をHALO降下は上手くいったようだな。」
「バックパックを木に持って行かれてしまった。」
「では、まずはバックパックを回収して貰おう。」
「解った。」
通信機を入れたまま、男は酸素マスクのメットを脱いで投げ捨てた。
「これで全部だな。」
そう言うとフルトンの気球を膨らませ、
先ほど降下したヘリを真上に見ると、カプセルに先ほど捨てた服と重しを入れた。
「少佐、言われた通りバルーンで全て飛ばしたぞ。」
「うむ。先程回収した。
もう一度言っておくが、今回のミッションは単独潜入ミッションだ。
君の薬莢、武器、汗、排泄物に至るまで存在してはならない。
全て適切な処置を施すんだ。」
「解ってる。…支援は完全に期待出来ない??。」
「あぁ。そう思ってくれて構わない。
君を適正速度で降下させるのがやっとだった。
このステルスガンシップでもこの高度がやっとだ。
領空で発見され迎撃されれば一溜まりもないだろう。」
「そうか…。解った。」
「心配するな。通信回線を介してでのサポートはしてやる。
一先ず、失ったバックパックを速やかに回収してくれ。」
「解った。…ところで少佐。」
「なんだ??。」
「今回のミッションではあんたは何て呼べばいい。」
「ふむ…。そうだな…。私はハリーだ。ハリーと呼んでくれ。」
「了解。回収次第センドする。」
男は通信を切ると、来た道を引き返し始めた。
決して芳しいとは言えない状況に苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
男はまだ、自らの運命を知らない。
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