カナリア 2013-06-26 20:48:57 |
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あれから1時間、病人の所にこれ以上長居するのはまずいと感じ、俺は席を立った。
「じゃあ、俺そろそろ帰りますね。」
「あら、もっといても良いのよ?」
「いや、結構長居しちゃったんで。家のこともあるし・・・」
「そう・・・ごめんなさい、引き止めてしまって。」
「いえ・・・」
長居しすぎたというのもあるが、俺にはこれ以上彼女の悲しそうな笑顔を見ていられなかった。
なるべく、彼女の顔を見ないように、俺は扉の取っ手に手をかけた。瞬間、
「美雪、如月美雪・・・よ。」
「え?」
思わず振り返ると、彼女は優しく微笑み、
「私の名前。今日は楽しかったわ。また・・・来てくれる?」
信じられない、と俺は思った。
俺、あんな嫌な事言っちゃったのに、
”私は他の人にとってのあたりまえが・・・出来ないから”
彼女の言葉が蘇る。
あんなに悲しそうな顔をさせてしまったのに、また来て良いのか?
「私、あなたとまた会って、お話がしたいの。良いかしら・・・?」
こんな俺と、また会って話がしたい・・・?
他人に嘘の笑顔しかしたことがない俺に・・・?
きっと、彼女・・・美雪は俺がこんな奴なんて知ったら、会いたいなんて思いもしないだろう。
だから、今のうちに関係を切って、深入りしない方がお互いのため・・・
深入りする前に・・・・・
「俺で良かったら、いつでも話聞きますよ。」
どうして?
どうして俺は・・・こんな事を言ってしまったんだ・・・?
俺は、計算ミスなんてしてことがない。
頭で分かっていることは完璧にこなす。
なのに・・・
「本当?じゃあ、明日待ってるわね!」
美雪の笑顔を見ると・・・
心が、どこかへ行ってしまう
波にのみ込まれるような・・・
不思議な・・・感覚
俺にも・・・
こんな気持ちあるんだ・・・
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