ぬし 2013-04-26 15:25:26 |
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――…あ、う…ッぁあああああああ!
(身体が重い、言う事を聞かない。底の無い暗闇から逃げ出すように必死の思いで瞼を起こすと視界に広がったのは白い天井。僅かに首を動かすと走る激痛に眉の形を歪めるもベッドを覆っている白いカーテンが涙で滲んで見えた。此処は病院なのだろうか。それにしても気味が悪いと思う程に音が無かった。他の患者の話し声もシーツの擦れる音も開いた窓から吹き込む風の音も何もかも無い。試しに声を発してみる、呻きのような声が出ただろうがそれは己の耳に拾われることなく無音の世界に沈んでいった。耳が聞えない、目覚めてから漸く実感したのだ。そして次々と脳裏を過ぎっていく地獄絵図のような光景、目を潰されるのではないかと思う程の光と身体を焼く爆風、己を押し潰すように倒れてきたコンクリートの壁。そして最後に耳にしたのは、誰かの悲痛な叫び。思い出したくないと思うのにその意思に反して次々と浮かんでは心を掻き乱す。全身から噴出す汗と身体の震えが止まらない。いやだ、こわい、助けてほしい。過呼吸にも近い荒い呼吸で地獄に落ちた悪党が蜘蛛の糸に縋るように激しく痛む腕を持ち上げ手探りでナースコールのボタンを押した。)
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