ゼロ 2012-08-12 16:50:55 |
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Ancient Dragons
第一話 白のフェイタリス、不吉な眼を持つ女
「今回も世話になったな、またよろしく頼むゼヨ」
「いやいやこちらこそ、いつも助かってるよ」
とある港、いくつもの港町や島国を結ぶ交易船が出航しようとしているところだった。
「おーい!少し待ってくれんかー!」
そこへ一人の女性が駆け寄る。
彼女の髪は夜の闇に浮かぶ月のように白く、前髪には四筋の黒い髪が混じっている。
宝石のような紅い瞳は不穏な光を宿しながら眼差しはとても穏やかだ。
「お主がその船の船長か?」
「いかにも、ワシが交易船の船長だゼヨ!」
刀を背負った大柄な男が答えた。
「その船は何処へ向かうのじゃ?」
「次はモガの村に行くゼヨ
別の大陸にある素朴な漁村ゼヨ」
「ほう、別の大陸か…
儂は『白のフェイタリス』という者じゃが、そこまで乗せていってはくれぬか?」
「おう、旅は道連れ世は情け、乗ってくがいいゼヨ!
そのかわり、乗るからには仕事を割り当てさせてもらうゼヨ」
「ふむ、人の世の営みを体験するのもよいのう
どうぞ運賃分使っておくれ」
「?おかしな事を言う女だ、まあとにかく乗るゼヨ
潮風がワシを呼んでいるゼヨ!」
「あの~、大丈夫ですか?」
交易船のクルーがフェイタリスに話しかける。
彼女は船の縁から頭を突き出していた。
「よもや…船というものが…かくも揺れるとは…うぇっ…
お主らはよく…平気で…いられるわ…」
「そのうち慣れますよ」
「働けんですまぬな…
この分は後から…取り返すゆええぇ…」
交易船が海に出てしばらく経った日、食事の時間。
「フェイタリスさん、料理上手くなりましたよね」
「そう、そうかの?エヘ
やっぱり儂って器用じゃからのう、エヘヘ」
「初めは包丁を使った事もなかったのに
例のコックアイルーの教えのお陰ですかね~」
「うむ、船酔い同士で気があったものじゃ
儂はもう卒業してしまったがの」
「あれからよく働いてくれたゼヨ
明日にはモガの村に着くからお別れだな」
「そうか、もうすぐか…
船酔いしておった頃は自力で海を渡るべきだったと後悔したものじゃが、楽しい旅じゃった
せっかくじゃ、もう少しだけ手伝わせてもらうぞ」
「自力で海を?ハハハ
フェイタリスさんってホント変な事言う人だなぁ」
そんな和やかな時間を大きな揺れが襲った。
「この揺れはただ事ではないゼヨ!甲板に上がって様子を確かめるゼヨ!」
海を見ると、船の前方に碧色に光輝く大渦が発生していた。
「あの渦はまさかっ!」
「間違いないゼヨ!
大渦に閉じ込めた獲物を電撃で仕留める、海洋の支配者…海竜ラギアクルス!」
「ほ~う、そんな竜もおるのか」
「呑気にしてる場合じゃないですよ!
ラギアクルスは非常に攻撃的な性格で、船が沈められる事件も多いんです!」
「進路変更、面舵いっぱーい!
迎撃の準備もしておくゼヨ!」
ラギアクルスが海上へ顔を出す。
海の王者たる威厳を籠められた眼が、交易船を捉えた。
「くっ…来るなら来い、北辰納豆流皆伝のワシが相手になるゼヨ!」
船長が背中の刀に手をかける。
「まあ待て、そう事を荒立てんでもよかろう
のう、 海竜とやらよ?」
フェイタリスとラギアクルス、両者の瞳が視線を交わしあった。
王者は静かに、しかし毅然として海に佇む。
「あのラギアクルスがこんなに大人しいなんて…」
「しかし道を譲る気は無いようじゃの
支配者のプライドといったところか」
「フェイタリス、オヌシ何をしたゼヨ…?」
「はて?とくに何かしたつもりは無いがのう」
船はその場を迂回し、モガの村を目指した…一人の奇妙な女を乗せて。
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