ゼロ 2012-08-12 16:50:55 |
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Heart Carrier
第一話 正義のヒーロー
「ぐるお~!」
「ゆ、夢だ…!こんなの現実な訳ないよ!これは悪い夢だ!」
少年は今、人型の大きな化け物に追われている!
この漆黒の甲冑のような化け物は一体何なのか?
何故自分が狙われているのか?
その理由はわからない。
彼はただ学校から家に帰る途中だっただけなのだ。
「ハァッ…ハァッ…!とにかくっ、とにかくあっちの方へ!」
彼は廃工場へ向かって走っている。
自分が狙いなら化け物はついてくるだろう。無関係の人に被害が及ぶ事を避けるための行動だ。
いざという時他人を気遣える良い少年なのだ。
しかし、そんな彼に対しても現実は非情である。
「うわあっ!」
全力疾走で逃げ回っていたが、足がもつれて転んでしまった。
体力的にもこれ以上走るのは厳しい。
化け物はすぐそこまで迫って来ている!万事休すか?
「来るな!イヤだ!誰かっ、助けてくれェ~!」
顔を背け目を瞑り叫ぶ。
彼はわずか十四歳、平凡な中学二年生。
また明日も学校へ行き、友人達と楽しく過ごしたい。
彼女も欲しいし、将来は幸せな家庭を持ちたい。
「俺はまだ死にたくないよォーッ!」
そんな彼のもとに現れる者がいた!
「ぐおうあ~!?」
彼は聞いたっ、化け物のうめき声を!
「ドーヤラまにあったヨーだネ」
彼は聞いたっ、変な発音の日本語を!
「え!?誰なんだ君は!?一体どこから!?」
そして彼は目にしたっ!
「『▽♪※☆▲♯\♪』、『★ψ£ё』
…マッ『せいぎのひーろー』にはやぼなことヲきかナイものだヨ」
よく聞き取れない言葉を発する美少女を!
「……というか何その格好!?髪型スゴッ!
外人の女の子はそんな女児向けヒーローアニメみたいなコスプレして外を出歩くなんて知らなかったッ!
しかもなんか全体的に泥とかで汚れてるし!」
女児向けヒーローアニメと喩えた彼だが、実のところ最近のそれに詳しいという事はない。
だが実際なかなか的確に少女の容姿を表現していると言えるだろう。
「シツレイなひとだなッ、キミは!ひーろーだと言っているダロウ!
あと、がいじんにオカシなへんけんをもつのはヤメタマエ、じだいハぐろーばるだヨ!」
そうこうしているうちに、少女の背後で化け物が再び動き出す。
「オヤオヤ、すこしおしゃベリをしすぎたヨーだ」
「しまったァー!なんか都合良く大人しくなってたもんだから油断していた!
俺の事はいいから、君だけでも逃げるんだッ!」
「さっきは『たすけてくれ』トカ『しにたくない』トカいってたのに、おんなのこがいると、かっこうイイことイウね?
でもセッカクだけど、ソレはむようなきづかいだ」
化け物に向かって走り出す少女。
彼女の両手から青白い光が迸る。それはまるでオーラの刃のようだった!
「きよめてヤル、そのケガレたスガタ!」
「何者なんだッ、君は一体!?
まさか…本当に正義のヒーロー!?」
しかし彼は心配だった。
実は先程、通報を受けた警官が駆けつけてくれたのだが、化け物には拳銃が効かなかった。
弾丸が命中の寸前で止まってしまったり、すり抜けてしまったり、不可思議な挙動で、とにかく通用しなかったのだ。
「気を付けてくれ!
そいつは攻撃がすり抜けたりすっ…!?」
だがそれも無用な心配だった。
少女の刃はなんのことなく化け物の右腕を、甲冑の上から切り落とした!
「なんでもかんでもキミタチの考え方バカリをあてはめてモノゴトを見ないことだね」
少女の動きは素早い!化け物を翻弄し、一方的に追い詰めていく。
あっという間に五体をバラバラに解体すると、化け物の胴体を縦に切り開いた。
「!?
あっ、あれは…あの化け物の中にいるのは…
俺のクラスの中田君じゃあないかッ!」
一体何がどうなっているのか、困惑する彼の視界にもうひとり見知った人物が現れる。
「…俺のクラスの素直になれない系女子、中谷さん!?」
「サァ、キミの力を貸してくれ、なかたにサン」
中谷さんが少女の左手を握る。すると少女の両腕のブレスレットが輝き出した。
一方、化け物は身体を急速に再生させ始めた。それに伴って中田君は苦しげに声を上げる。
「ああっ、中田君が!
お願い!はやく助けてあげて!」
「任せたまえ、チカラの充填はかんりょうだ
コノきもちがあれば彼を助けラレルよ」
とうとう化け物は再生して立ち上がった。
それに真っ向から対峙する少女。
「ん?なんだ、さっきと刃の色が違う…ピンク色?」
彼がそこに気付いた直後、両者はほぼ同時に攻撃を仕掛けた!
技を決めて勝負を制したのは…
「なんのカンガイもない、トーゼンの結果だけどね」
中田君のいる胴体を、少女の刃が貫いていた!
激しい光が溢れだし、化け物の身体が崩れて消滅していく。
そして最後に中田君が残された。外傷は無いようだが果たして無事なのだろうか!?
中谷さんが中田君に駆け寄る。
「中田君!?中田君!?」
「うぅ…あっ、中谷…お前…」
「良かったぁ、中田君…!」
中谷君は無事である!いや違う、中田君だった。
まったくややこしいなァこいつらめ!
とにかく助かって良かったぞ!めでたしめでたし!
「さて、アトは二人きりにしてあげよう
キミ、立てるカイ?」
少女は少年に手を差しのべる。
「ああ、なんとか大丈夫
状況は全然わかんないけど…助かったよ、ありがとう!」
「フッ…オレイはいいよ、成すベキ事をしたまでサ」
「うおぉ~!本物のヒーローってカッコいいな!後でサイン貰お~♪」
順応の早い少年である。
「フフフ、モット褒めてもいいけど、まずはあっちのホウへ行こう
なにせぼくらは邪魔者だからね」
一人称『ぼく』を使う少女。
見た目は十四歳くらい、口調に反して可愛いお姉さんな感じである。
ただ、顔つきはどことなく大人びているようにも見える。
「人があつまるマエニ、ここを離れよう
ヒーローはこういうトコロ、つらいものだね」
そそくさと移動を済ませた二人。
「あの~、訊いてもいいかな?中田君は一体どうし…」
「そんな事より、ぼくの話を先に聞きタマエ!」
彼の質問を強引に遮るぼくっ娘。
「フッフッフッ…親切なぼくはキミの疑問に答えてあげよう」
親切な人は強引な事はしないのではないだろうか?彼は心の中でそうツッコミを入れた。
「ぼくは『ξ♪@※』の『▽♪※☆▲♯\♪』…じゃあわからないか、言い換えよう。
『惑星…ニーテル』からやってきた戦士、いわゆる宇宙人だ!」
第一話 正義のヒーロー 終
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