匿名だったもの 2012-05-22 12:22:14 |
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「はいしゅーりょー」
「え?何が?」
彼の台詞はそう、いつも唐突だ。
ボサボサの寝癖のようにセットされた茶色がかった髪。本人はイケテると思っているんだろうけど、あたしからみたらそうでもない。顔は整っているだけに、勿体無いことこの上ない。
「終了ったら終了。お付き合い終了ってこと」
「え?でもまだ1時間しか経って……」
「飽きっぽいのオレ。それでもいいって言ったじゃん」
そうそう。飽きっぽいのよねぇ。コイツ。
相手の子……未来ちゃんだっけ?呆然としちゃってる。
そりゃ、放課後待ち伏せして、告白して、ファミレスのドリンクバーを入れて戻ってきたらフラレるって想像できないわよね。
彼はストローでジンジャーエールに浮かぶ氷をつつきながら、
「飽きたっつーか、面白くない」
とよくわからない事を言う。
面白い面白くないだけが恋愛って訳じゃないでしょうが。
「……ひどいよ」
未来ちゃんがうつむいたまま、小さな声で言った。
そう、酷いの。未来ちゃんはこの時点で気づいて良かった方よ。こんなのと付き合わない方がいいの。タンスの角に小指ぶつけたと思って諦めなさい。
「ひどいって何が」
氷の穴にストローを入れるゲームをしながら言う台詞なの?それ。
未来ちゃんは何も言わずに席を立つと、そのまま店をでていってしまった。
「あー、しまった」
彼が小声で呟いた。
「店の外まで我慢してりゃ、割り勘だったのに」
……コイツってやつは。
あたしは彼のことは誰よりも知っている。
彼の趣味嗜好は勿論、文房具から茶碗まで、何でも知っている。
彼と初めて出会った1年前から、ずっとずっと見ていたんだから。
それより過去は知らない。でも、今があればいいじゃない?
別に彼に彼女が居ても構わない。好きかと問われればyesだけど、Loveでは無いから。
きっとこれを母性というんじゃないかしら?ずっとずっと、こうしてあたしは彼を見守り続けていくのよ。きっと。
そんなことを考えながら、あたしは日々を過ごしていた。
ただ、急にその日は訪れた。
あたしはコイツの事は余り好きじゃない。
コイツと一緒に居て、良いことなんて無かった気がする。
「そーなんだよなー」
彼は、ちょっと不機嫌そうに言う。機嫌が悪くなると、すぐ物に八つ当たりするのよね。
思った通り、横にある椅子を蹴る。幸い、放課後の教室には他に誰も居ないから、咎められることもない。
というか、誰か居てもいちいち口を挟む人もいないだろうけど。
思い出したように、ヤスオが口を開いた。
「昨日の片貝、どうよ?」
「片貝?」
「片貝未来だよ、昨日一緒に帰ってたじゃん」
「あー……」
この、他人に関する関心のなさ、感心したくなるわ。まさか、フルネームを覚えてないとはね。
「あー……ってまさかお前」
「飽きた」
ヤスオが頭を抱える。
「やっぱりかー。勿体無い!勿体無いなお前!ほんっとお前と付き合うくらいなら、オレと付き合った方がマシなのに、なんで世の中こうなんだ!」
あたしはどっちもどっちだと思うけど。
「オレの方が気が利くし!あつけりゃ扇ぐし、アイス買うし、腹が減ったらパン買うし!」
それ、ただのパシりじゃない?
「パシり得意だもんな」
彼はあたしと似た感想を抱いたようだ。彼の方が実感こもってるけど。
むきーっと怒っているヤスオに彼が言った。
「これからちょっと行きたい所があるんだけど」
学校帰りの途中。あたしはフツフツと不安が沸いてくる。
この道筋はファーストフードもゲームセンターも雀荘もない。眼鏡店やらクリーニング店やらスーパーやら普通の町並み。
二人の会話も頭に入らない。何かが警鐘を鳴らしている。良くない予感しかしない。
しばらく歩いて、彼は元コンビニで、今は旅行代理店と半分ずつ分けているとあるテナントに入る。
あたしは覚悟した。
店に入ると、彼は店員らしき人に話しかけた。
「携帯、機種変したいんすけど」
真っ暗な中でもがいていたように思う。比喩ではなく、現実として。
どこを見ても闇。方向感覚もなく、足元はふわふわした感じで上下すらもわからない。
ただ、不快ではない。時折、遠くから話し声が聞こえてくる。その声はなんだかとても心地よい。
ゆっくりと世界がゆらゆら揺れて、まぶたが自然におりていく。
商船が入ってくると街はたちまち活気づいた。
港町の潮の香り。
(ちょっと生臭いな)
克之は港を一望できる丘の上でため息をついた。
右手をさしだせば、いつだって掴んでくれた
左手を伸ばせば、いつだって引き寄せてくれた
両手を広げると、いつだって温もりを感じることができた
それを拒んだのは自分
いつからかすれ違いで
恥ずかしくて近寄れなくなった
近寄らないと、もっと寄れなくなる
気付いた時にはもう遅い
踏み出すなら、今
まさか素足で蜘蛛の体液とマッスルドッキングする日がこようとは!
昨日は数年ぶりにあの方の夢を見たのです
びっくりした
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