【其の男一匹の獸(けだもの)也〜最近の勇者一行は以下略 outside story〜】

【其の男一匹の獸(けだもの)也〜最近の勇者一行は以下略 outside story〜】

キョウシロウ  2014-08-14 21:53:29 
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正義の味方、英雄、ヒーロー…様々な呼び方があるが、勇者一行は魔王を討伐する為に旅する集団である。
その中に一人上記の呼び方に似付かわしくない男がいた。彼らとは一線を引くその男は、三白眼の鋭い目付きは見る人を威圧し、凶悪な笑い方は聞く者を不快にさせる、佇まいは美しいもどこか危なげで、近付く者を斬り捨てるような、刀剣類さながらの鋭利な近寄り難い雰囲気、身体からは常に血の匂いを漂わせる危険な香り、腰から得物である日本刀を携えた紺色の和服の一人の男。勇者一行の中の一人、吉岡狂四郎と言う名の男。
これは彼の視点から綴られる勇者一行のお話と、彼が極悪非道の守銭奴に至るまでの、過去の回想のお話である。

個人用の小説になります。稚拙な文章ではありますが暖かく見守って頂くと幸いです。勇者一行の皆様はご意見希望など御座いましたらご遠慮なく申し付けて下さいませ!←

ではこれにて開幕致します。

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  • No.1 by ダグ  2014-08-14 22:14:49 

1コメいただきっ!!← 応援してますよ!頑張ってください!

  • No.2 by キョウシロウ  2014-08-14 22:55:38 

《出会い》

薄暗い室内、木製の家屋の酒場内。
雰囲気は悪くないが、ゴロツキ達で店内は溢れかえっていた。賞金首のポスターが壁一面に貼られていて男達が群がりあーだこーだ言い合っている。
そこへ和服の男が扉を開けて中へと入って来る。口に咥える煙管から煙を吹かすその姿はまだ十代後半と言うには似付かわしくない貫禄を醸し出ていた。三白眼の鋭い目付きがポスターへと注がれ一言。
「小物ばかりか、しけてやがんな」
ゴロツキ達は彼の存在に気付きギョッとすると一斉に黙り込み後退る。
「吉岡狂四郎だ。賞金稼ぎの…一刀斬殺の人斬り。」
「死神が…今日の運勢は最悪だぜ。」
「ハイエナ野郎が…金の匂いを嗅ぎつけてやってきたかよ。」
「くわばらくわばら…触らぬ人斬りに祟りなし。」
そんな言葉をボソボソと小声で口から出るゴロツキ達を彼は無視してカウンター席に腰掛ける。
「オヤジ、スコッチだ。」
「あいよ、キョウさん」
グラスに注がれたウィスキーのスコッチと呼ばれる物を静かに口に運ぶ。
物静かになった店内、また扉が開き愉快げな騒がしい声。男女入り混じった集団が店へと入って来る。
「ああ、そういや、ここだったな。こいつらと行動するきっかけになった場所は。」
騒がしい集団に目を向けグラスを傾けて中身を空にする。
ここは昔、彼が勇者一行への一員になった思い出の場所。時は前へと遡る…。

  • No.3 by キョウシロウ  2014-08-14 23:56:29 

>ダグ
(/応援感謝です!生暖かく見守って下さi←)

  • No.4 by キョウシロウ  2014-08-15 02:41:37 


「オヤジ、このスコッチってので」
「分かりました、お客さん」
騒がしい酒場内にてカウンター席へと腰掛けて彼は初めて見る日本酒以外の物にふと興味を示し試しに注文し。
「っ…焼酎とも日本酒とも違う味だな…」
初めて飲んだウィスキーの感触に眉を顰めるも嫌いではなく徐々に口へと運ぶ回数が増え。
店の扉が開き男女混合のゴロツキばかりの酒場にしては異様なメンツの集団が入ってきた事に目を見張り横目で確認する。
その集団の戦闘を歩く男がこちらへと声をかけて来る。
「最近噂の凄腕の剣客、吉岡狂四郎ってあんただろ?」
甲冑とマントに身を包む冒険者だろうか、金髪碧眼の垂れ目で容姿端麗な見た目をした若者、笑顔が爽やかながら胡散臭い物を感じる。
これまでの経験からその人間の本質を読むのは得意分野だ。
カウンターに頬杖をつき青年に目を向け尋ねる。
「ああ、そうだが、仕事の依頼か?あんたは誰だ?」
待ってましたとばかりに青年は胸を張って咳払い後に
「聞いちゃう?それ聞いちゃう?こほん、俺はブレイヴ…勇者だ」
こいつが勇者か、魔王の出現に伴い国王が討伐を依頼した男。見た目は胡散臭いが滲み出る強さを感じ取り嘘ではないなと察する。勇者は魔王討伐の為に旅の仲間を集めているとは聞いた。
「でその勇者様が一介の賞金稼ぎに何の用だよ?」
何と無く予想は着くも尋ねる。
「お前の腕を見込んで頼みがある。俺の仲間(盾的な意味で)にならないか?」
爽やかな笑みで言いながらこちらに手を差し出して来る勇者。こいつは、なんだか食えない男だが、こっちも利用させて貰おう。勇者の名にはデカい価値がある。
「いいぜ。契約だ…お前らの力になってやるが仲間にはならない。嫌になったらいつでも抜けさせて貰う。それまでは利用させて貰う、ギブアンドテイクの仲だ。」
「了解。たっぷりこき使ってやるよ、侍野郎。」
握手する気はないのか握り拳を作る狂四郎に勇者も握り拳を作り彼のそれへとぶつけ、お互い口元にニヤッと笑みを浮かべ合う。


「あれからどれくらい経ったか…」
今もこいつらと居るのが不思議だ、今まで誰も信じず一人で生きて来た俺が仲間だって?笑えて来るな。人間は先ず疑ってかかり、不要になったら切り捨てるのが本来の俺だろうに。いや、まだ利用価値があるから居るんだ。今も愉快に後ろで笑い合う集団を傍目に内心でそう嘲笑する。

「キョウちゃん、何やってんの」
「こっちこっち」
「キョウシロウ様は一人黄昏気分なのでございましょう」
「ほらァ…行くぞォ…」
「一人すかしてんじゃねぇよ」
「行きますよ」

やれやれうるせえ奴らだ。今行くっつーの。店から出て次への冒険への地へと旅立つのだろう。
「オヤジ、また飲みに来る」
溶けた氷で薄まったスコッチを全て飲み干し、ポケットからゴールドの入った袋を取り出し、カウンターに代金を置き声のする方向へと向かう。扉の前で旅立つ仲間達の元へと。

  • No.5 by タリア  2014-08-15 07:44:43 

がんばってください!

  • No.6 by キョウシロウ  2014-08-15 15:29:26 

>タリア
(/応援ありがとうございます!)

  • No.7 by キョウシロウ  2014-08-15 17:48:17 

《起源》

「そこの素敵なお兄さん、一泊どう?」
「お兄さんこっちこっち」
「いやーん、ワイルドな瞳のお兄さん」
「一度足を止めてこっち見て頂戴な」
ここは遊郭が連なる場所。俗に言う色街という所である。いつものようにフラッと仲間達のいる場所から離れて一人この街にやって来たのだ。キョウシロウは真っ直ぐ歩き道行く彼に話しかけて来る遊女を無視してズカズカ歩いて行く。
やがて目的の場所へと到着すると建物を見上げ一言呟く。
「変わっちゃいねえな…」
この色街でも一際大きな建物、人気高級店『泡沫の君』中へと足を運び大きな扉を開く。
「旦那様、いらっしゃいまし」
中に入ると畳張りの日本屋敷のような内装。壁際に並ぶように色鮮やかな格好をした遊女達が彼を出迎え一斉に頭を下げ艶やかな表情で出迎える。
「旦那様、お帰りなさいませ。いやいや、今さっき人気にナンバー1から3までの子の準備が出来ており…」
手揉みしながらスキンヘッドの腰の低い男が彼に駆け寄って来て説明を始めるが彼はそれを一蹴する。
「俺は女を買いに来たんじゃねえよ。ババアを出せ、この遊郭の支配人だ。」
「お客様…菊様に何のご用でしょうか?」
「借りを返しに来ただけだ。」
スキンヘッドは腰の刀に目をやり彼をたちの悪い客と勘違いしたようだ、手を叩き店の奥に向かって手を叩く。
「皆様、出番ですよー!」
奥からこれまた腰に刀を下げた目に傷のある男と赤い袴のちょんまげの男が顔を出す。
「へへ、久々の出番だ。」
「おう、人間斬らなきゃ腕が鈍っちまうもんな…」
彼は用心棒二人を一瞥するが気にもせずにスキンヘッドへと目を向ける。
「へへへ、お客様…大人しくお帰り頂いた方が賢明…」
「うるせえ、5秒数えるまでババアを出せ。」
「くく、バカなお客様だ…先生達、このバカをやっちちまって下さい!」
ニヤリと笑うスキンヘッドが用心棒二人に目を向ける。
「…ば、バカ言ってんじゃねえよ!バカはお前だ!」
「そいつの相手をするなら俺達は降りさせて貰うぜ!」
用心棒の二人は腰を抜かして後退りしている。スキンヘッドは彼らの態度に困惑し用心棒と狂四郎を交互に見る。
「へ?え?」
「そいつらの言う通り黙ってババア出した方がいいぜ。まだ死にたくねえだろうよ?」
用心棒二人に鋭い眼光を向ける。もっともただ見ただけではあるが。
「や、やってられるか!」
「吉岡狂四郎の相手なんかしたら命が幾らあっても足りねえよ!」
用心棒達は這うようにして店から飛び出して行ってしまう。
「狂四郎…だと?お前、まさか霞の…」
「やっと気付いたか、相変わらずハゲだな。」
「し、仕返しに来たのか!散々お前を…」
「ククッ…それもいいな。だが今日の目的はまずババアと会う事だ?あと一秒…」
逃げた男達を唖然と見た後にスキンヘッドはあからさまに怯えた表情をして身構える。口角を釣り上げる彼は刀の鍔に親指をかける。
「わ、分かった!案内するから殺さないで!」
「最初から素直にそうすりゃいいんだよ」
バタバタと慌てて回廊の脇にある階段を駆け登って行く男に着いて歩きゆっくり階段を登る。

「菊様、善十郎です、失礼します。」
善十郎と自分の名前を言うスキンヘッドの男が最上階にある一室の扉をノックする。
「なんだい、入りなぁ。」
中から色っぽい女性の猫撫で声が聞こえて来る。
「それが…霞のガキが来てまして…」
言いにくそうに声を潜めて善十郎は口にする。
「…!霞の…また懐かしい名前だねぇ。恭が、そうか…ふふ…ふふふ…」
「早くしろ」
一瞬驚いた反応をするも中の女は笑いを堪えられないようだ。痺れを切らして狂四郎は扉を蹴るようにして中へと足を踏み入れる。
赤いカーテンの敷かれた床、カーテンが開き女が姿を現す。紫を基調とした、色鮮やかな蝶の図が散りばめられた和服。紅色の髪に化粧で塗られた白い肌、唇は厚みを帯びて色っぽさが滲み出る、歳は20代半ばだろうか。
女が口に咥える煙管を置き床を這うようにして、狂四郎の足元に寄り添い彼の足へと頬擦りする。
「9年振りになるのか、久し振りだねぇ。大きくなった、それにいい男に。アタシは昔からあんたに唾つけてたんだよ。ねぇ、恭…今度は昔とは逆でアタシを抱いてぇ?」
足元の女を見下ろし、触るなとばかりに冷たい目で見下ろす。
「黙れ、虫酸が走る。もう40近くだろ、ババア…昔話に花を咲かせに来たわけじゃねえよ。俺が働いた分の金を回収に来た。一日80G、365日掛ける3年分掛ける80Gの、計87600Gだ。耳揃えて払って貰おうか。」
懐から電卓を取り出して打ち込んだ額を菊へと見せるべく眼前に突き付ける。
「5歳から8歳まで、三年間休まずに働いてくれたものねぇ…でもご飯代は?それに遊女と色々楽しんでたのは覚えてなくてぇ?」
「クソ遊女の余り物で、食い物と呼べる代物と呼べなかったあれを飯だと?それに、あれは無理矢理、玩具にされてただけだ…望んでたんじゃねえ。俺が優しく言ってる内に出した方が身の為だぜ?」
電卓を見ながら唇に指を当て不敵に笑う菊、その唇から語られる忌々しい記憶が蘇り彼は唇を噛み締める。刀の柄へと手をかけ脅迫、人殺しの目で。
「分かったわよ、だからそんな怖い顔しないでぇ…ゾクゾクしちゃうからぁ。はい、これで文句ない?」
部屋の奥の宝箱、そこから取り出したゴールドが詰まった袋が大量に机上に積まれる。
「確認させて貰う……………確かにぴったりあるな。ぴったりだ、解せねえ…あんた…。」
「そうよ、大きく立派になったらあげようと思ってたのに…恭、あんた突然出てっちゃうんだもの。アタシの若い燕にしようとしてたのに…。」
「ならどうして」
「どうして定期的に給金渡さなかったですって?だってある程度のお金与えたらあんた、出てっちゃうと思ったのだもの…手放したくなかったんだもの…。」
もっともあげる前に出てっちゃったんだけど。と付け足す、その眼は懐かしげに愛おしげに彼を見つめている。
金を回収し大きな袋にいれ背負うようにして女の元から去る。
「恭、行かないでぇ…もう一度ここで…。」
扉を勢い良く閉める。拒否の記しだ。入り口ではスキンヘッドが壁へと背中を預けて両手を上げて降参のポーズをしている。
「ああ、そういや…」
しゅんっと風切音が響く。同時に男の腕が宙を舞う。
「腕がぁ!俺の腕がぁあああ!」
「片腕一本で勘弁してやる。3年分の仕返しにしては安いもんだろうが?」
鼻で笑って切断面から溢れ出る血を押さえながら叫ぶ男を後目に店から出る。
「ちっ…」
店の外観を眺めて舌打ちする。金の為とは言え来るんじゃなかったぜ。嫌な事思い出しちまった…。眉を寄せ目を細める、苛ついたのか壁に斬りかかると巨大な外壁が音を立てて崩れ落ちる。

  • No.8 by キョウシロウ  2014-08-15 22:52:50 


色街にある遊郭『泡沫の君』その地下二階にある客は知らない一帯の部屋、地下室は薄暗く蜘蛛の巣が張っている、鼠が部屋の中を走るのは日常茶飯事だ。とても人が住むには適さない環境の中、数人の子供達が床を削ってケンケンパーをして遊んでいた。
「ケンケンパー!」
「キョウくん早いー。」
「僕はケンケンパー得意だからな!」
「おい、キョウ。俺の方が得意だぞ!サユリにいいとこ見せようとしてんじゃねえよ!」
「べ、別にいいとこ見せようとしてないし。ケンジこそかっこつけてるんだよ!」
ここは、遊女が身籠って生んだ子供達を仕事中に隠して育てている部屋。大抵の遊女は子供をおろしているが、おろす事が出来ない遊女達もいるのだ。
「ケンちゃんも凄いよー!」
肩までの髪の毛をサイドテールにして結ぶ少女、向日葵のような明るい笑顔の少女の名前は小百合、年齢は六歳で子供達の中では年長者だ。
「当たり前だ!俺は何でも出来るからな!」
髪の毛をツンツンに立てて色黒の肌が特徴的な少年、ガキ大将のような男の子、名前はケンジ。年齢は五歳。
「僕は何でもは出来ないや。大人の世界は知らないからね」
本を抱えて少年の横で張り合う少年、年齢は五歳のキョウ。ケンジより少し背が低いも三白眼の目付きが鋭い少年。
現在この部屋には三人の少年少女が暮らしている。吉岡狂四郎と呼ばれる事になる少年、キョウは生まれてから五年間、この物置のような部屋で暮らしていた。丁度同い年の子供達が暮らしていたから寂しくはなかった。
朝方、遊女達が仕事を終え帰宅する時間。
「キョウ、帰るよ」
地下室の鍵を施錠して女の人の声が聞こえる。
「うん!サユリ、ケンジ、僕行くね。また明日!」
どうやらキョウの母親が仕事を終えて迎えに来たらしい。他の子供達に手を振って階段を駆けて行く。

「ママ、ケンジに駒でもケンパーでも負け無しだよ!駒は力の入れ具合とタイミングでね。ケンパーは円で囲われた所を記憶してね、頭で数えるんだ。」
「ふふ、キョウはパパと一緒で賢いわね。」
店の裏口から手を繋いで本来の家へ向け、親子仲良く帰る。
そんな親子水入らずの帰り道。事件は起こった。
「霞ぃ!なんだそのガキはぁ!」
男が帰り道を張っていたのだろう。物陰から飛び出して来た目の焦点の合っていない男、口端から涎を垂れ流す。
「や、山森さん⁉︎キョウ!先にうちに帰ってなさい」
背中に子供を隠して男と対峙する。どうやら店の常連客のようだ。
「でも、ママ。あの人なんか怒ってるよ。」
「いいから!」
戸惑いながらもキョウは母親の服の袖を掴む。
「霞ぃ…俺を裏切ったなあ!結婚しようと思ってたのに!子供がいるなんて聞いてないぞ!このガキ…お前がいなければ、そうだガキを殺して無かった事にしよう。名案だ、うひっ…ひゃはははは!」
「ダメ!キョウー!」
薬の常習者の男は腰の刀を抜き放つとキョウへと向けて振り下ろす。霞は咄嗟にキョウを抱き締めて盾へとなる。振り下ろされた刀は霞の肩から背中を切り裂く。
「あ…へ?霞ぃ…何やってんだよ?あ…あ…お、俺は知らないからな!」
刀を落として目の前の惨状に怖じけついたのか男は走り去って行く。キョウは男の姿を鋭い目付きでしっかりと網膜に焼き付ける。呆然と光景を眺めていたものの慌てて母親を抱き締める。
「マ…ママ?血が…血がいっぱい出てるよママ!僕知ってるんだ、お医者さんがいれば助かるんだよ、待ってね!お医者さん連れて来るから。」
顔を蒼白にさせながら口から血を吐く母親の体を手で押さえて、動転しながらも冷静に駆けて行こうとするキョウの手をがっしりと力強く掴む。
「キョウ…いいの。いい?これだけ聞いて。鷺沢狂四郎…それが貴方の父親の名前。世界を旅する剣客なの。どこにいるかは分からないけど…凄腕の剣客だから、探して頼りなさい。…吉岡香澄の子供って言えば…助けてくれると思うから…。貴方は頭がいい子だから。分かるわね?」
口から血を流しながら彼の肩をしっかり掴み笑顔で言う母親にキョウは動揺しながらもしっかりと母親の話をに耳を傾ける。母親は息子を力強く抱き締めて耳元で囁く、自分はもう長くない、最後の時まで少しでも長く、息子といる事を望む。
「分かった。分かったよママ。お医者さん呼んで来るから…」
「いいの、このまま、最後までこのままでいさせて。ごめんねキョウ。ママがちゃんとしていたら、貴方にしっかりとした…生活させてあげられたのに。いい?ママは貴方に何もしてあげられなかったけれど…強くなって、パパのように強く…」
「いいからお医者さんを…」
「愛してるわよ、キョウ…………」
変わらぬ笑顔で最後に愛の言葉を囁く母親。
「………………」
冷たくなって行く母の体を抱き締めながら俯き黙り込む息子。


翌日、母親の亡骸は何事もなかったように片付けられていた。キョウはただただ、母親がいた場所に立ち尽くす。
「………………」
背後からゆっくりと歩み寄る影、少年の背後から忍び寄り抱き締める。
「あんた、霞の子だってね。アタシはお菊。あんたのママの上司だよぉ。行く所ないんだろぉ?これまでみたいに、家で暮らして行きなさい。ケンジもサユリもいるあそこでね。」
キョウの耳元で囁く悪魔の誘い。
「………!」
耳を舐められビクッと体を震わせる。
「ただ飯を食わせる余裕はないから、働いてもらうけどねぇ…。」
翌日から、遊郭での下働き。雑用をする日々が彼を待っていた。

  • No.9 by キョウシロウ  2014-08-16 02:27:23 


遊郭の営業時間は朝の8時から夜の22時まで。遊女の数は100名近く、部屋数もこの色街の中でも随一を誇る。従業員である雑用の朝は早い。朝6時半に起きて50ある部屋数を一部屋一部屋の室内、特にベッドから浴室内にかけて念入りにチェックする開店作業。夜は22時から全部屋の閉めの清掃である閉店作業。夜0時に寝て朝6時半に起きるサイクルである。
営業中は行為が終わる度に手早く部屋を掃除し、昼休み中もコックが作った料理を遊女へと運ぶ作業。遊女が食べ残した余り物を昼休憩が終わる残り時間10分程で食べて再び仕事に戻らなくてはならない。人気店の為来客数が多く、彼らに休まる時間は営業時間終了から営業時間まで。

「ふぅ…今日の仕事も終わりだ。」
「へへ、遅かったなキョウ。俺なんて10分前には終わってたぜ。なぁサユリ?」
「ホラ吹いちゃダメだよ。僅差だったじゃない。」
親をなくした子供達は頼る人も住む場所もなく、ここで雑用として暮らしていた。
キョウがここで働き出してそろそろ3年になる。最初のうちは慣れない作業に困惑していたものの、3年も経てば作業を円滑に進めるよう、仕事をこなせるようになってきたのだ。
「ガキ共ー!ケンジ、キョウ。さっさと出てこい。」
地下一緒へと続く鍵が施錠され、ガンガン、ガンガンガンと扉が激しく叩かれる。
「げっ…善十郎の奴から呼び出した。行こうぜキョウ。」
「うん…。」
つい最近になってからだ、週に定期的に呼び出される二人の少年。
「いつも何してるの?」
店が終わった後に自分以外の二人の少年が呼び出されるのだ、疑問に思われるのも仕方ない。
「べ、別に大した事ねえよ!なぁキョウ?」
「うん、どこどこの掃除が甘かったとか、反省会だよ。」
少年達は咄嗟に嘘をつく。これから行く場所で行う行為、彼等はその内容を良く分かっていなかったも、何だか人には言ってはいけないような後ろめたさを感じていたのだ。

「遅いぞ、ガキ共。なんで遊女と支配人の遊びの為に俺が使われなきゃいけねえんだよ。」
階段の上で待っていたのは坊主頭の男、店先のボーイとして客の案内をする仕事だ。客の前では笑顔を浮かべているも雑用である彼らに、八つ当たりでほぼ毎日のように、暴力を振るってストレス解消をしていたのだ。最もつい最近になってからは支配人に叱られ暴力をするのは止めたのだが。
「ガキ共、行ってこい。ケンジは今日はアオイの所、キョウは何時ものように菊さんの所だ。ちゃんと行けよ、行かなかったら前みたいにボコボコにしてやるからよ。物好きな女共だぜ…こんなガキ共のどこがいいのか…ったくよ。」
ぶつぶつ言いながら善十郎は地下室を上がり去って行く。
「キョウは今日も支配人さんか…俺なんかまた違う人だよ。」
「うん、僕はお気に入りなんだって…部屋に行ったらお菓子も貰えるんだ。」
「あれな!たまにお前、持って帰って来てくれるもんな。」
「でも僕…あの遊びなんだか嫌だよ。変な気分になるし…なんだか疲れちゃうし。」
「だよなー」
階段を登り静まり返った店内を一緒に歩きながら彼等は会話をする。この遊びの意味を知るのは、まだ先の事である。
じゃあな、俺こっちだから。と目的の場所に向かうケンジを見送り、キョウは最上階の支配人のお菊の部屋へと向かう。

この遊びを行う度に、毎回部屋に入る前は緊張する。コンコンと部屋の扉をノックする。
「入っておいでぇ」
「お邪魔します。」
「今日は板チョコだよ。」
「チョコだ。」
「ほら、こっち。ベッドまで上がっておいで。今日の遊びわね、一番気持ちいい事よぉ…。」

「疲れた…。僕、やっぱり嫌だな。」
「ああ、眠る時間も減るしな。」
時刻は深夜2時、朝6時半に起きる彼らにとっては睡眠不足になるのは目に見えてる。地下二階に降りる扉の前でばったりとケンジとキョウは会って不満を漏らす。
兎も角、さっさと部屋で寝ようぜ。とケンジが促し地下二階の彼等の部屋と呼ぶ物置へと階段を降りて行く。
「お疲れ様、二人とも」
眠たそうな目を擦りながら布団の上でアヒル座りをして少女は待っていた。
「サユリ、まだ起きてたのかよ?」
「寝てていいって毎回言ってるのに。」
彼等の帰りを待っていた少女に向け、二人が諭すように言う。
「そんなわけにはいかないよ。だって二人ともお仕事してるじゃない。私もお仕事はないけど、一緒に苦労を分かち合いたいんだ。って、迷惑かな?」
未だに瞼は薄目で閉じたり開いたりしてるが、笑顔を浮かべたままである。

それから何日か経った日の営業中、ケンジは部屋の掃除を終え入口付近の曲がり角に通りかかり不審な会話を聞く。
「これはこれは、旦那様はもしや商人のアラン様では?」
「おー、ワシの事を良くお知りで。で若い子はいるか?」
入口にいるのはボーイの善十郎と客、醜く肥えた身体のいかにも裕福そうな中年だ。
「ええ、おられますよ。下は12から上は40まで選り取り見取りでございます」
相変わらずの作り笑顔で手揉みしながら善十郎は話す。
「12からか…困ったな。ワシの好みは10歳以下でな…違う店に…」
「いえいえ!アラン様、いるにはいるのですがまだ、9つでして。遊女見習いなものですが。」
「ほうほう、いたか!生娘だな?良いぞ、通常料金の倍払おう。その娘の名前は何という?」
「サユリと申しますお客様。」
その瞬間ケンジは走り出していた。

「キョウ、大変だ!」
「うわ、どうしたのケンジ?今は25の間の掃除の最中じゃ…」
キョウが掃除する部屋の扉を開き、飛び込んで来るケンジの明らかに慌てた様子に首を傾げ尋ねる。
「サユリが…商人のオヤジに狙われてる!」
「へ…なんだって?」
キョウは部屋で行われる行為を良く理解していなかった。だがケンジは色々な遊女の相手をしてきたからこそ、色々な話を聞いているのだ。この行為の事についても。
「サユリがオヤジにチューされたり、パンツ見られたり、胸触られたりするかもしれないって事だよ!」
ケンジは明らかに憤慨していた。
「なぁ、どうすればいいキョウ?時間がない、お前の作戦を聞きたい。」
物覚えが早かったキョウ。仕事の効率化などをケンジとサユリに伝えていたりやら、作戦参謀のような役割であるからこそ、ケンジは彼に頼ったのだ。
「一番確実なのは…サユリを逃がす事だけど…」
「だよな!」
扉を開けて一歩外へと出て、走り出そうとするケンジの腕を掴む。
「なんだよ!急がなくちゃ…」
「に、逃がした後は…どうするのさ?ここには戻って来れない。住む場所も、なくなっちゃうし、食べ物だって…食べられない、生きて行くにはまだ、大人の力が必要で…」
ケンジの腕を掴みながら、眉を寄せて言い辛そうにたどたどしく、先の事を見据えた事を言うキョウに、叱るように思いの丈をぶちまける。
「好きな女の子を助けるのに、後先考えてられるかよ‼︎」
「ケンジ…」
二人が言い合ってるさなか、廊下の先に善十郎に連れられて歩くサユリの姿。服はいつもの薄汚れた物ではなく、遊女が着てるのと同じ和服を身に纏っていた。彼女はこの後何をするのか良く分かっていないであろう、憧れの綺麗な和服を着れて逆に喜んでいるに違いない。

「サユリ…」
どうする?ケンジの話だとサユリが…どうすれば一番良い?キョウは逡巡していていた。
「ケン…!」
呼び止める前にケンジは駆け出して善十郎とサユリの前へと立ちはだかる。

「おい、善十郎。サユリは行かせない。サユリ、逃げろ!」
「あん?おいおい、何言ってやがんだケンジ?サユリはこれから…」
腕を広げて、行く手を阻むケンジを見下ろし善十郎はあからさまに不愉快な表情を浮かべる。
「へ?え…?」
サユリは何が何だか分からないといった表情で二人を交互に見やる。
「キョウー!」
「………⁉︎」
ケンジは叫んだ、逡巡しているキョウに向かって。すると身体が勝手に動く。いつの間にか走り出していた。サユリの手を掴み腕を引き走り抜ける。
「このガキ!待てや!」
善十郎がキョウに蹴りを喰らわすべく足を振るう。
「行かせねえよ」
ケンジが善十郎の蹴り足に体ごとしがみつく。そして、サユリは任せた、また後で。と目でキョウを見て親指を立てる。背中越しに確認したキョウは走りながらも頷いてみせる。何が起こっているのやら、事態を飲み込めないでいる、いつものように通路に並ぶ遊女達の奇異な視線を受けながら、後ろから聞こえて来る善十郎の怒鳴り声を耳にしながらもサユリを連れて店の入口から外へと飛び出す。

  • No.10 by キョウシロウ  2014-08-16 14:00:36 


「サユリはここにいて。僕はケンジを迎えに行くから。」
「うん…私の為に二人に迷惑かけちゃったみたいだね。」
遊郭から抜け出して三時間、キョウとサユリの二人は街外れの林の中に潜んでいた。サユリには事の発端と事情の説明を終えた所である。
「うん、待ってるから早く二人で帰って来てね。」
「なるべく早く戻るよ。」
一緒にケンジを迎えに行くと言って来たサユリを、また捕まったらここまでした意味がなくなると言い聞かせたのである。折角ミッションが成功したのに水の泡になってしまうのは避けたかった。後はケンジと合流してここまで帰ってくれば、完全にミッション達成だ。これから先の事は後で考えればいい。

暫く歩いて遊郭『泡沫の君』へと戻って来たキョウ。ここは店の裏口だ。正直作戦も何もない行き当たりバッタリの救出作戦だった為に、落ち合う場所も何も決めていない。ケンジがどこにいるのかも分からないのだ。中の様子を伺う場所を探すべく、裏口から外周を回って見る事にしよう。
「ケンジ…上手く脱出出来てるといいな。」
そんな事を呟きながら店の側面へと歩き出す。壁から中を覗くと遊女達が話し合っていた。
「キョウとサユリが逃げたらしいわよ」
「へえ…そりゃ逃げたくもなるわよね。住ませて貰ってるとは言えタダ働き同然で働かされて、ご飯も余り物だし。」
「お金もないのにどうするのかしら、あの子たち。」
お金ってなんだろう?彼はお金の事は知らなかった。働く代わりに住む場所を提供して貰うのだと認識していたのだ。そんな事より…。
「仲良し三人組のもう一人、ケンジはどうしたの?彼も逃げ出したのかしら?」
「それがね、サユリを逃がすために善十郎の足止めしてたらしく、外へと連れてかれたらしいわよ。ユキさんが見たんだって。何でもサユリちゃんを指名したお客さんが凄い金持ちだったらしく…怒った善十郎が用心棒達使って、ケンジをボコボコにしたらしいのよ。」
「えー!あんな小さい子に酷い事するわね。まさか外に連れ出してどこかに捨てに行ったとか?」
そこまで聞いた後にキョウは走り出していた、目的地なそれとなく分かった。世間体もある、ボコボコになったケンジを町の外に連れ出すわけがないのだ。それを子供ながら何と無く理解すると、現在いる店の側面の丁度反対側へと、誰かに見つからないようにしつつ出来るだけ急いで向かう。
着いた先はゴミ捨て場だ、そこに変わり果てたケンジの姿があった。
「よう…キョウ…か?」
「ケンジ!」
全身滅多打ちにされて顔や身体は膨れ上がり骨もいくらか折れているだろう、腕や足が変な方向に曲がっている。
「今病院に…」
「悪いな…痛みも何にも感じねえわ」
ケンジを背中へと背負い歩き出すキョウへと、へへっと自嘲気味に笑い出す。
「サユリは?」
「無事だよ、今隠れてる」
「そっか…」
彼が一番聞きたかった事、少女の無事を確かめる。安全な場所にいるのを伝えるとケンジは満足そうに頷き。
「俺、サユリに告白するぜ。キョウ、恨みっこ無しだからな?」
「え…?それは、ケンジの自由だと思うし…」
「そっか…キョウ、サユリはお前の事が好きだぜ、悔しいがな…でもいつかは振り向いて貰う。強くなってサユリを守ってやるんだ。俺がいない時はお前が守るんだ、キョウ。」
「一々僕に言わなくても…え…サユリが…、今はそんな事よりも着いたよ!すみません!助けて下さい!」
決意を込めた声で言うケンジに戸惑いながらも大丈夫だと言うキョウの視線は病院へと向けられ扉を開く。
「重症だね、酷い怪我だ…親はいるのか二人とも?いないかそうか、お金もないだろうね。うちじゃ治せないよ。」
一軒目の病院は明らかに金がなさそうな二人の様子に首を横に振り拒否する。
「もうダメだな。薬代だってタダじゃねえんだ、見てやれないよ。」
二軒目は直接金の事に触れて来る。扉を開けてボロボロな格好の二人を見ると直ぐに追い返し。
「金ないだろお前ら?悪いけど見てやれない。金なしに治療したとして、もし失敗したら評判が下がるからね。」
三軒目は世間体を気にする医者だった。
「くそ!どいつもこいつも金金金って…、薬草だ。薬草を取れば怪我治るって本に書いてあったっけ?」
「ちょっと待っててねケンジ、林の中に薬草あったと思うから…。」
「流石に疲れたか。サユリの所着いたら起こすからね?それまでは寝てていいよ。」
背中にケンジの身体を背負い歩きながら一方的に話す、道行く人は奇異の視線を向けて来るのだ。無理もない、ケンジの両手足は変な方向に曲がりぶらりと垂れ下がるようになっているのだから。
「只今サユリ…ケンジ疲れて寝ちゃってるんだ。薬草一緒に探そう。」
俯き加減でそう言う、声は暗さを感じる。サユリが先程座っていた葉っぱのクッションにケンジの身体横たわせ開いたままの彼の目を手を使って閉じる。
「そんな…っ…ひぐっ…うぅっ…」
口を両手で押さえて目から溢れる涙を流すサユリ嗚咽をもらす。彼女は理解したようだ、彼の死を。
「確か薬草は…。」
どこかへと行こうとするキョウの腕を掴み顔を泣き腫らしながら黙り込むサユリ。
「あいつら!医者は…人の怪我を治す仕事だろ?どいつもこいつも金金金金金金金金金金金金金金って言いやがった!何だよ金って!そんなの持ってるわけねえだろうが!」
サユリに掴まれる腕を振り解き彼女に背中を向けて口調を荒げて咆哮する。両膝を地面について両手で地面を叩く、何度も何度も。
「ちくしょーがぁぁああ!」
彼の叫び声は突然降り出した雨に掻き消されて行く。

翌日、ケンジの身体は林の奥へと埋めた。木の枝をクロスさせて紐で結んだ簡易な墓の前でサユリとキョウは並んで墓を見下ろす。
「サユリ、行くよ。僕が…いや、お前は俺が守るから。」
墓へと背を向けて背中越しにサユリを見た後に更に後ろの墓にも目を向ける。お前が命をかけて助けたサユリを、俺なんかじゃ不安だろ?でも安心してくれ、サユリを守ってくれる人が見つかるその日まで、俺が代わりにサユリを守るから。だから…安心して眠ってろ。瞼を閉じて口元に僅かに薄笑みを浮かべる。
「キョウ…っ…こんな時に言うのもなんだけど、私ね…」
墓を見つめるキョウの服の袖を掴み、意を決して目を見開いて言おうとするサユリの言葉を遮る。
「好きな女の子を助けるのに後先考えずに飛び出す男に対して、グズグズしてるようなノロマじゃ勝てないからな。」
「でも、私はっ!」
背中を向けて彼女の言葉を遮って言う相手の言葉を無視して先を進む。これ以上何も言うまいとして。友との約束、これは狂四郎が母に続く大事な友との最初で最後に立てた誓い。

金も住む場所も食べ物も、生きていく術を何も知らない二人、この先は茨の道だ。だけど彼らは歩き出す。それしか方法がないのだから…。

  • No.11 by キョウシロウ  2014-08-16 14:56:30 

《起源・あとがき》

お目通し頂いた方へ、長々とした文を見て頂きありがとうございます。
遊郭編、少し長くなってしまいましたが、一応巻きで書きました、幼少期の5歳から8歳編終了になります。ケンジくんが主人公過ぎて←、キョウシロウいいとこ無しになってしまいましたが、ここまでは単なる序章に過ぎません。ここからが始まり、キョウがキョウシロウへと呼ばれるまでに至る話。キョウシロウ…いや、キョウが活躍するのはこれからです。次回は現代へと時間を戻してみます。彼の意外な秘密が明らかに…。

  • No.12 by ブレイヴ  2014-08-16 15:06:40 

|゚Д゚))コソーリ

やべぇ、ケンジ君の方が勇者っぽくてブレイヴ君の株が下がりまs←

面白かったです!!

|∀・)ジーッ
|彡 サッ

  • No.13 by タリア  2014-08-16 17:17:25 

面白かったです!(≧∇≦)サイコー!

  • No.14 by キョウシロウ  2014-08-16 17:29:33 

>ブレイヴ
ケンジくんは勇者というより、好きな女に身を捧げる漢気溢れる少年です←
ブレイヴくんはブレイヴくんで好きな女を守ってやれば←←
ありがとうございます!

>タリア
ありがとうございます!最高とまで言って貰えるとは…タリアさんの胸のが最高でs←ちょ

  • No.15 by キョウシロウ  2014-08-16 17:30:32 

《約束》

遊郭からの帰り道、キョウシロウは林の奥へと歩を進めていた。林の奥には土の上に木の枝をクロスさせて紐で結んだ物を突き刺していただけだったのは、昔のお話。
「ケンジ、お前はこれが好きだったよな。」
今はちゃんと石で作られた立派な墓がそこにあった。彼が金をある程度貯めて、数年前に建てたものである。墓前にチョコレートを置き胡座をかいて座る。隣へと置かれた真新しい花を一瞥する。
「そっか…あいつも…。にしてもあれだな、お前はデカくなってたら、酒や煙草が好きになってたと思うぜ。一口吸ってみろよ。」
口に煙管を咥えて着火し煙を吹かす。それを墓前へと置き笑いかける。墓前へと置いた煙管の煙が、一瞬だけ強い風に吹かれて勢い良く空へと消えて行く。
最後に彼が好きだった飲み物、酒の代わりにオレンジジュースを墓へと注ぐようにかけて立ち上がる。
「さて、俺はそろそろ行くぜ。嫉妬して化けて出てくんなよ?」
大きな袋を担ぎ直して背を向けて片手を振りながらその場を去る。

「さて…行くか。」
夜遅く、家と呼ぶには広過ぎる屋敷という形容が似合う建物の門を見上げる。建物の電気は消えて、住民は寝てるようである。門を見上げると背中の荷物を担ぎ直しては、地面を蹴って駆け出す。壁を走って跳躍すると敷地内へと侵入を果たす。
相変わらず、こんなに簡単に侵入出来るようじゃ考え物だな、と内心苦笑いをもらす。そこから敷地内を回る警備の目を掻い潜り、屋敷の側面へと到着する。彼のいつもの潜入経路、そこから木へと登り三階の窓にガムテープを貼り、鞘で叩いて音を押さえて割り中へと侵入。
テーブルの上に背負っていた金貨の袋を置く。そのまま帰ろうとした所で。
「キョウ…?」
扉がガラリと開く。キョウシロウが侵入した所はキッチンで、扉の奥は階段の筈だった。階段の踊り場に布団を敷きそこに寝ていたようで、腰まである長い髪の毛をサイドテールにした女性がそこにはいた。眠たそうな目を擦り立ち上がり声をかけてくる。キョウシロウは直ぐに逃げようとするも女性はバランスを崩して背中から階段に落下してしまうだろう。
「行かないで…あ…」
「ちっ…バカ!」
彼は咄嗟に床を蹴り片手を腰へと伸ばして引き寄せる。そして胸元で笑顔で笑う女性を見下ろす。
「怖かった…ふふ、ありがとう、キョウ。今はキョウシロウなんだっけ?」
「キョウでいい。何でこんな所に寝てんだよ、サユリ。」
腰から手を離して一歩引きサユリから離れる。
「何でって一つしかないじゃない。半年に一度くらいに、この孤児院に寄付してくれる、名前も顔も知らない足長おじさんを捕まえて、物申す為だよ。久し振り、キョウ。」
サユリは現在この孤児院に勤めていた。勤めて5年になるが、一昨年この孤児院の院長が亡くなり、代わりに院長に就任したのである。もっともこの孤児院は働く職員も少なく、設備の割には次々と孤児が入って来て、経営不振に陥っていたのだ。
「久し振り。ククッ…さて知らねえな、俺は偶々この家に泥棒に入っただけだ。髭面の足長おじさんとやらはさっきすれ違ったぜ。」
「またまたぁー…。危ない事やってるんだって…?心配よ。それに何で、今まで顔見せてくれなかったの?」
吉岡狂四郎の名前は悪名高い。剣客の賞金稼ぎとして、狙った獲物は逃さない孤高の人斬り。また、金稼ぎの為に幾つもの裏の仕事に流通しているらしいと。
「…はんっ、俺は利用出来る人間としか会わねえ。無駄な事は避けてるだけだ。」
鼻で笑って、吐き捨てるように言いながらテーブルに腰掛けて煙管の煙を吹かす。本当は合わせる顔がない。子供の頃、彼女と一緒にいたいい子なキョウはもういないのだ。今は金の為に何でもやる、普通の人とは生きる世界が違う、血に塗れた人斬り。こんな自分が、立派に胸を張って生きる彼女を邪魔してはならない。他人でいなければいないのだ。
「クククッ…お前が知ってるキョウはもういねえよ。ここにいるのは、悪名高い吉岡狂四郎さんだ。もうお前に会う事もねえから…」
「嘘!知ってる、人斬りだって事も悪い事をしてるって事も!でも、キョウはあの頃のまま、優しいままだよ。弱い人や普通の人、女の人や子供には手を出さないし、いくら悪ぶっても変わらないよ。」
相手へと煙を吹きかけたあとに煙管をとんとん叩くが、それを遮ってサユリがキョウの腕を掴み見上げて来て真っ直ぐの瞳で見つめてくる。
「言ってろ。ケンジとの約束だ、お前を守る奴が見つかるまで、俺は自由にはなれねえんだよ、早く身を固めろよ…」
「頼んでない。別に守ってくれなんて言ってないよ。」
キョウははぁ、とため息をついて頭をかく。むすっとしたサユリの表情は真剣だ。
「私が待ってるのはただ一人だけ。ずっと、待ってるから…」
胸に両手を重ねて置き目を瞑り心が籠った言葉を紡ぐ。
「そうか…、俺は好きな女がいるんだよ。」
ふーんと頷くと不意に好意を寄せている女性がいると言うキョウにサユリは明らかに動揺して身体を震わせて問う。
「嘘…!?誰…?」
「この国のお姫様。」
ぶっきらぼうに答えるキョウシロウ、ホッとした表情を浮かべるサユリ。
「何ホッとしてんだよ。マジだからな、俺は行く…ガキどもの相手してねえで、さっさと結婚しろよ。行き遅れてもしらねえからな。」
眉を寄せるキョウ、最後に軽口を叩くと侵入してきた窓から飛び降りる。こちらへと駆けて来ようとする彼女の気配を感じながら屋敷を後にするのであった。
「行き遅れても…私はずっと待ってるからね、キョウ…。」
屋敷から去って行く彼の後ろ姿を見送り表情を緩めて、彼の姿が見えなくなっても見送り続けた。

  • No.16 by キョウシロウ  2014-08-16 18:04:39 

《約束・あとがき》
何で孤児院でサユリが働いてるかなんでキョウが寄付してるかは、8歳〜12歳編で明らかに。ちょっと、キョウシロウがいい人だなんて聞いてないよー!とがっかりした人はご安心を。これからは外道な事でいっぱいです←
次回は一息ついて、勇者一行の皆さんの中で、ある人物に焦点を当てたキョウシロウ視点のお話になります。皆さんのキャラが似非になってしまったら申し訳ありません。

  • No.17 by ダグ  2014-08-16 18:38:10 

いつもお疲れ様です!私の中ではあの人だろうなと予想しておりますですよ!!←

  • No.18 by キョウシロウ  2014-08-16 19:29:24 

>ダグ
それは次までのお楽しみでs←

  • No.19 by シロ  2014-08-17 01:41:12 

>キョウシロウ
私好みの面白い話ですね
次回はあの方の話かな?
がんばってください、楽しみにしてます( ` ・ω・ ´ )

  • No.20 by キョウシロウ  2014-08-17 12:14:10 

>シロ
人物予想が流行って←
ありがとうございます!頑張ります(^-^)/

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