用心棒の小娘 2024-10-05 18:32:43 |
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──おやすみなさいませ
(眼前で翻る黒、冷たい靴音、声、大きな影、鼻の奥で思考を奪うような飼い主様の香──脳が意志を放棄するように、そう仕組まれた呪いのようにただ一言で膝から力を抜きその場に折って頭を垂れる。耳の奥で血液が巡る音だけが大きく響いている、水の中にいるように己の吐く息の音さえ遠く思えた。視界の端には己とは違う靴先、有り得ないとは思っても靴先がいつ身体を蹴り上げるか分からないと無意識に筋肉が強張っていき…そうして、そっと頭に触れた手に安堵からか力が抜けて両手すらも床についた。期待はされていないけれど、まだ地獄からは救ってもらえるただそれだけの事実に幸福を感じる己はきっと壊れかけているに違いない。離れた手に導かれるようにふらりと立ち上がり、木製のテーブルに小袋を乗せた…軽い軽いそれは随分と小さかった。頭を再度下げてから棚の奥、隠すように置かれた扉へと足を向け、その途中で一度だけ肩越しに振り向いたなら、今度こそ扉の奥へと姿を消し)
素敵な夜を、朱墨様。せめて夢だけは、幸福なものを、見られますように
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