東 2024-07-20 01:24:27 |
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……………かー。
(悪くねえな――というのが概ねの感想だろう。ガキの頃、家風呂の不調で何度か行ったことのある銭湯とはまるで違う。樽、電気やジェットといった見たこともないような風呂が盛りだくさんで飽きない。まさに名に違うことのないスーパーな銭湯だ。普段風呂に格別のこだわりもない俺でさえこんなに楽しい。堪能しすぎて約束の時間を過ぎてしまわないか心配で何度も浴場に備えついてる時計をみてしまう。実はこの時計がズレていたという罠が怖くて一度更衣室の時計まで見に行ってしまったほどだ。幸いにしてそこそこ楽しんでまだ二〇分ほどはある。ただしシャツを乾かす時間を考えるならそろそろ出ないとだろう。)
ん~~ッ……………。
(湯船の中でおおきく伸びをする。ぱしゃんと波打つ表面に肩まで浸かると出ていくのが名残惜しくなる。受験が終わったら今度は時間を気にせず来てみるのもいいかもしれない。あ、やべー。もう五分経ってる……。東はもうでて待っているだろうか。こんなに楽しいのだからもしかすると時間ギリギリまで入っているかもしれない。
…………いや、どうだろうな。アイツ自分に関しては雑なくせに他人には妙に律儀だしな。今日だってきっちり待ってたワケだし……。さっさたと出るか。んでどの風呂が一番気に入ったか答え合わせでもしてやろう。案外気が合う気がする。俺は口の端を思わず持ち上げて――ふと気づく。最近、なにかあると『東ならどう反応するだろうな』と考えることが多い。例えば世界が終わりそうに焦げついた夕焼けを見たとき。道路の端でしわになったビニール袋が猫に見えた時。この感情は――……。
パシャン、と。両手で掬った湯を顔いっぱいで受け止めて最後に洗い流す。恐らく気が緩んで訪れた気の迷いと共に。)
げっ、もう一〇分しかねえ……。
(アホか俺は。慌てて湯船から飛び出して掛け湯を急ぐ。ふと視界の端、サウナ室へ入る客の姿に見覚えがあった気がしたが――そんなことを考えている余裕もない。俺は更衣室へと早足で上がり、身支度もほどほどにドライヤーをシャツへと当て始めた。)
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