東 2024-07-20 01:24:27 |
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いやお前が言うなし。
(傘を指差してた腕で、目の前に立つ平の胸元に軽くグーパンを繰り出しながらすかさず反論する。って言っても、人待たせといて何言ってんだって意味じゃない。それを言うなら平こそなんで戻ってきてくれたんだっていう、むしろ嬉しい方の──あ、やばい。またニヤけそう。引っ込めた腕で、誤魔化すように顔を覆い隠した。
それにしても、平の行動は謎だらけだ。傘買いに行ってたんだろうなってことは、まあ見ればわかるけど……買うにしたっていきなりすぎる気がする。私の傘を置いてったなら行きは濡れながら向かったはずだし、傘買うために更に濡れるって本末転倒じゃないのか。しかも、そこまでして頑丈な傘が欲しかったのに、買った後でわざわざここに寄って遠回りするか……?私は無意識に顎に手を添えながら考え込み、平というか平がさしていた傘というか、その辺りをじーっと見つめていた。)
……それ、高そー。絶対良いやつじゃん。
(再び平の傘を指差して、どうでもいい感想を呟く。すぐにポッキリいってしまいそうなビニール傘じゃなくて、ちゃんとしてそうなやつ。本当は、平が急に傘買いに行った理由とか待たされたこととか、傘の値段とかどうでもよくて──私のために戻ってきてくれたのかな、とか。そんな淡い期待をしちゃって、そこだけが気になってしょうがないんだけど……私の思い上がりだってこともわかってるから、聞かない。さっきまじまじと平を見て、ちょっと汗かいてる気がしたのも……雨で濡れてるだけかな。帰りは傘があるんだし、急いで戻ってきたとかさすがにないか。傘も持たずに飛び出してった平のことだから、ここに戻ってくる時も深い意味とかなくてただ寄ってみただけなんだろう。
ふとした時に私のこと考えてて欲しいとか、私のためであって欲しいとか。全部贅沢すぎる。平が戻ってきてくれて、これから一緒に寄り道できるって事実だけで十分幸せじゃん。気を抜くとすぐ期待して浮かれちゃって、高望みしてしまいそうになる。考えるな考えるな。自己暗示をかけるように、平然を装って大して興味もない傘の話題に集中しようとした。)
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