東 2024-07-20 01:24:27 |
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?……クマ?
(――クマって……朝のあのキーホルダーか?
財布とか定期入れとかじゃなく??
思わず傘の羽根を伸ばしていた手を止めて俺は東の方を振り返ってそのカバンを見やった。
視線の先、チャックにつけていたはずのキーホルダーが確かにない。なるほど、落としたっつーのはそれか。いやそれにしたって……探すか? この雨の中……。
俺は玄関口の向こうで猛威の手を緩めようともしない曇天に顔を顰めた。かすかに遠雷の音がきこえたような気がする。
再び東に視線を戻す。どこか所在なさげに手櫛で髪を梳る姿はやはり俺と同じずぶ濡れにみえた。そりゃそうだよな……俺が傘壊したちまったなら東だってそうなるか……いや俺が壊したわけじゃねぇけど……。
それでも普段より心なしか落ち着きのない東の様子を目の当たりにすると否が応でも罪悪感を感じた。
そういえばハンカチあったな。まぁハンカチ程度でどうにかなるとも思えねーけど……。)
おい。髪やべぇならこれを――。
(ポケットに突っ込んだ手で布の先をつまみあげる。すると、なにかが同時に勢いよく飛び出て落下。そのまま弾んで玄関口の外側へ転がり落ちていく。軒下先の階段を一段、二段、三段とリズム良く。そういえばさっき奇しくも東から受け取ったキーホルダーをハンカチと一緒にポケットへ突っ込んだ気がする。
俺は思わず「えぇ……」と呟いて呆然とした。)
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