東 2024-07-20 01:24:27 |
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(とらない。とらない。とらない。いくつものクラスメートの顔が頭の中に浮かんでは転んだ俺に手を差し伸べてくる。でも、俺はその手を取らなかった。或いは谷や山田なら違うかもしれない。でも、女子からの手はどうあってもとらない。いや――とれない。
鼓動がうるさい。心臓の音が早鐘のように――いや、これは警鐘だ。なにかが変わってしまうような確信に対しての警告だ。これ以上考えるな。こんな、こんな受験を控えたタイミングで考えるようなことじゃない。でも。
東はあの時どんな顔をしていたんだろう。いつものようにあっけらかんとしていたんだろうか。そりゃ俺と東は違う人間だ。考えも違えば行動もまるで違う。俺の常識が東の常識だなんて思わない。俺は、手を取らないだけで。東の常識は手をとる。それだけの話。なのに。
じゃあ、なんで俺はこんなにショックなんだよ……くそっ、うるせぇな心臓の音……もう考えるな。深い意味なんかない。東におかしなところなんてない。東は誰かに差し出された手をとる。それが今日はたまたま俺だっただけだ。
だからもうやめろ。考えるな。
自分の気持ちなんて――他の誰かの手をとるんじゃねぇよ、なんて、考えるな。
なあ、東。安心させてくれよ。いつもみてぇに「こわっ」て呆れてくれ。俺のバカみたいな感情のバグをぶん殴ってくれ。)
…………東?
(気づけば俺は駅を抜けたロータリーに出ていて。振り返った視線の先に東の姿はなかった。)
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