東 2024-07-20 01:24:27 |
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(視線が東を正面から上に捉える。いつもとは違った目線。東の方が頭一つ分くらいは背が高く見えるくらいだろうか。駅の階段に照明はなく、構内からの陽光がかろうじて届いているだけだ。ちょうど筒から差しはいるような斜光が東の明るい髪色を虹彩に反射していた。表情がよくみえないせいか、俺には東が未知の生物のようにみえた。
音がしない。いや、本当は駅の喧騒も東の抗議の声もみんな耳に届いている。でも、今の俺には自問自答する心の声の方がよほどに大きかった。
俺から手を差し伸べられて、それを断る理由がない。それってどういう――……。)
ッ…………!
(俺は何も言わずに踵を返して階下へと足を進めた。意図せず早足で。下り階段への恐怖などどこへなりと消えていた。
――東は何を考えてる?
なにも考えてない? ありえる。ただ単に軽口で言ってるだけとして……。俺ならどうだ? 例えばなんかのはずみで――それこそ俺が転んだとして、そこに東が手を差し伸べてくれたとして。俺はその手をとるだろうか?
……多分、とらない。大丈夫っつってそのまま起き上がる。別に東がいうようにバイ菌だなんて思ってるわけじゃない。でも、俺なんかが触れていいとは思わない。……だから。朝のアレは本当に俺にとって自分でも意外な行動だったんだと、痛烈に認識した。)
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