東 2024-07-20 01:24:27 |
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え、何――……?
(聞き間違いか……? ほんの数瞬前には綺麗とか思った東の横顔が一際険しく見えた。いや、みえだだけならまだ良いんだが。なんつった? いい匂いになりたい? どういう呟きだ? 俺は思わずハッとして自分のシャツの襟をつまんで鼻を当ててみた。俺か。俺がくせぇってことか? ダメだ、匂い自分じゃ全然わかんね。
いやそもそもいい匂いに『なりたい』ってなんだ。……やっぱ聞き間違いじゃね? いい○○○になりたい……○○○……3文字くらいの響きで○○○……? 『いい女になりたい』……これか? いやそんなこと言うか? 東が? なりたいってのは願望だろ。ならやっぱりありえないだろ。だってこいつは既に――誰がみたっていい女だろうよ。いや知らんけど。
俺は改めて東を仰ぎ見た。人目をひく身なり。地味派手でいえば間違いなく派手。なのに今だって手櫛で髪を梳っていたり身だしなみにしっかり気を使ってる。一緒に歩いてるとたまにすれ違いざまに振り返ってみてる男がいるのも知ってる。それでいて実は気遣い屋。いつだかのグループ決めの時だって仲間内でトラブルならないように自分から他いこうとしてたのだって実は知ってる。結局鈴木の四人組案があっさり通ってたからそうなる事はなかったけど。俺みたいなのと一緒にいて自分の評判が落ちるとか思ってる節もねーし。いつだって堂々としていて。――ああ、そうか。だから俺は。こいつの横顔が綺麗にみえたんだ。見た目じゃなくて、その人となりが人を惹き付けるんだ。俺とはまさに正反対。谷も鈴木のそういうとこに惹かれたんだろうか。ま、いずれにせよ――)
……既になってんじゃねーか。
(いい女。まー俺にいい女の定義なんてもんはわかるわけねーが。少なくとも『いいやつ』だってのは自信もっていえる。そう、はっきり思った。)
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