東 2024-07-20 01:24:27 |
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……優しくなんてねーよ。まして救うなんて……多分そんな大げさなもんじゃない。
(救われてばっか――そうなんだろうか。東の言葉から違和感を感じつつぽつりと零す。同時に〝泣きそうな顔〟なんて言われて自嘲気味に口の端を持ちあげた。
違和感の正体は俺の動機だ。そこになにか明確な意思があればきっと戸惑わずに済んだのだろう。
救う、助ける。そういった意志の元であれば素直に喜べたのかもしれない。
だが実際には独善――独りよがりな正義ぶった行動でしかない。
俺なら嫌だから。
俺が、ガマンならない。
俺が。
俺が。
勝手に状況に自分を重ねて偉そうにアレコレ口を出しているだけだ。
東の言うことを鵜呑みにするなら――結果的に、東が救われただけ。たまたまそうなっただけ。救ってもらったなんて言葉をもらえるような動機じゃない。
それでも、誤解でもなんでも、そう言って貰えることが嬉しくて。またそう感じてしまっている自分が卑しい。
俺は無言のままピザをもう一度切り分けた。歪にフォークをつきさされた断面からチーズが溢れでて器を汚す。)
……俺の方がよっぽど救われている気がする。
(口にしたピザの欠片が舌の上に熱を灯す。咀嚼して嚥下。それからゆっくりと言葉を紡ぐ。)
……ありがとな、東。
(いつからだろうか――距離をとりたいとあんなに感じていた〝元中の同級生〟から、友達になったのは。
自分と近しい存在に感じていた谷が正反対な鈴木と付き合った。必然、谷の近くにいれば鈴木とその仲間たちも集まってきて。山田や東とつるむようになって。
〝――平から言われるなら〟
少しずつ。
〝勿体ないじゃん。努力してて自信ないとか〟
少しずつ。
〝応援してんだよ〟
存在が大きくなっていって。)
……ありがとう。友達でいてくれて。
(友達――そう、友達だ。
自分で口にした言葉が空言のように虚しく響く。
勿体ないというなら、それこそ俺なんかには勿体ない。どうにも悪い奴にひっかかりがちなコイツをせめて幸せになるまで口出しでもしてやるか……。
幾度か口に運んだピザの味が良かったのか、少しずつ食欲が戻ってきたのを感じた。空腹だったのだ。)
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