東 2024-07-20 01:24:27 |
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いッ……!
(痛くはなかった。ただ、電車の振動と共にこちらへ突っ込んできた東を受け止めたら口からなんとなく漏れ出てしまった。痛くなくてもなんか体に当たったら「いたっ!」とか言っちまうアレ。つくづく反射で生きてんだな俺……。そういや他にもヒトって物が落ちてきたとき咄嗟に受け止める姿勢をとるとかなんかでみたっけか。それが到底受け止められるわけのない質量の岩とかであっても避けるより先に手を差し出してしまうとか。つまり――つまり、そう。東を抱きとめた形になったのはそういう理由なわけで。東にはわりーなとは思うけど俺がゴメンとかいうのもおかしいよな。つか、軽すぎんだろ……メシ食ってんのかよこいつ……)
……あっ……。
(東が慌てたように体を引いて。なんか怖ぇ顔してる。いや、そりゃー俺なんかと密着して嫌だったろうけどよ。なにもそんな慌てて引くことはねぇだろ……いや別にくっついていたかったわけじゃねえけど。あれ。やべぇ、もしかして臭いとかなのか俺……マジかよ……。
なんて声かけていいかわからないまま思考がグルグルとめぐる。と、そこで車両の慣性が穏やかになる。振動が掠れた残響と共に鼓膜へ届いて車内アナウンスが非常停止ボタンの押下による一時停止を告げる。
俺はバッと背後を仰ぎ見た。まさか俺が背中でボタンを押しちまったとか――ではない。だよな、そうはならないような造りになってるはずだ。
扉横にいたおっさんが東の様子をみてなにか声をかけている。おい、まさかこのおっさんが押したんじゃねえだろうな。確かに東が危なかったけど非常停止ボタン押すほどのことじゃない。イタズラとかだと場合によっちゃ責任とらされんだっけ? 電車の遅延ってすげぇやべーんじゃなかったか……。
次々に溢れ出るとめどない思考の中で、なんでか俺はおっさんと東の間に割って入るように腕を伸ばしていた。東の口がなんか動いてるけど頭に入ってこない。ただ、どうしたら東を――こいつのせいにならないんだろうとか、なんかそんな事だけを考えていた。)
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