東 2024-07-20 01:24:27 |
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(一歩一歩進む度に、残りの距離が短くなっていく。あんなに楽しみにしていた景色もろくに楽しまないまま、今はただ俯いて歩いてるだけ。私、何やってんだろ……歩道橋、終わっちゃうな。
いや、平も平だ。向こうから歩道橋に誘ってきたくせに、期待させるだけさせといてさっさと前を歩いてっちゃうとか何考えてるんだ。結局こんなことで浮かれてたのは私だけで、一緒に景色見たり感想言い合ったりしたかったのも私だけで──なんか悔しい。気持ち自覚する前の方が、無駄な期待することも変に意識しすぎることもなくて、平との時間をもっと純粋に楽しめてた気がする──。)
はあ……。
(下りの階段が目前に差し掛かり、最後にもう一度街の景色を見下ろす。……ちっともワクワクしなかった。少し先を行く平はどんどん下っていってるし、誰にも聞かれてないって思ったら気が緩んで思いっきり溜息をついてしまう。恋ってもっとこう、なんかキラキラして楽しいものなんじゃないのか。少なくとも私から見たら鈴木も谷も山田もみんな何だかんだで幸せそうだし、絶対もっと若々しくて青春!って感じの“ちゃんとした恋愛”してるよな……。そーいうのいいなあって思うし憧れるけど……マジでやり方がわからん。今までは向こうからガンガンくるパターンばっかだったから、片思いとかした事ないし……。)
──こら、置いてくなっ!
(……いやだ。こんなんじゃダメだ。私ばっかり勝手に盛り上がって落ち込んで、こんなんで気まずくなりたくない。せっかく一緒にいられるんだから、せめていつも通りに楽しみたい。そうだ、いつも通り。ただ普通にしてればいいんだ。平の態度になんでちょっと違和感あったのかはわかんないし、怒らせちゃうような心当たりはあるにはあるけど──私が普段通り接してれば、平だって普段通りに文句言ってくるだろう。良くも悪くも、平の方はこっちを何も意識してないんだから。
私は一度深呼吸して走り出す。そのまま駆け足で階段を下り、横から平を追い抜き下りきった地点に先回りして振り返り、抗議するように平を見上げて睨みつけようとした。)
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