東 2024-07-20 01:24:27 |
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(――よく人という字の支え合いについては諸説あるけれど。アレは寄り添いなんじゃないかと思っている。自分以上に怒っている人間が隣にいるとかえって冷静になってしまうように。苦手な人間でも悲しむ姿をみたら心が締めつけられるように。ヒトは、寄り添ってしまうイキモノなんじゃないかって。なぜか今そんな事を思い出した。
少し距離のある東の後ろ姿。元カレとのやり取りはこちらには聞こえない。俺はなんとなくそのやり取りを見ていたくなくて視線を友人③の方へ向けた。今カノであるはずの友人③はなぜか俺と同じように近づくでもなくただ見守っていた。いや、なぜかではない。その表情はひどく不安げで――先程までバレやしないかとヒヤヒヤしていたはずの俺は、情けないことに少しだけ冷静さを取り戻していた。
恐らく彼女は東と自分の彼氏の関係性を知っているのだ。
やがて東が元カレに手を振って、こちらを見て。俺との距離が少しずつ縮まる。
その後ろに、憤慨したように顔色を豹変させた元カレが追って手を伸ばしているのに気づいているのか――……。)
東――……!
(アイツ――……何を話した?
わからない。わからないが――その顔つきはやべぇだろ。男が女に、いや少なくとも元カノに向ける顔には到底思えない。
怯懦に竦んでいた俺の足。
動かなかったはずの足は、動く。
俺は考えるより先に駆けていた。
距離が近づいた事で『おい』と俺の耳に届く元カレの声。
『なンだよそれ。なんか勘違いしてんじゃね? 俺カノジョいるし? お前なんかもう相手にするワケねーじゃん』
…………――あ?
耳朶を打ったその乱暴な言い回しが何度も俺の中に反芻し、胸の内が熱くなるのを感じた。
お前、なんか?
お前なんか相手にするわけない?
東が。
アイツがどんな顔でお前のことを話してたか知ってるか。
〝一度好きになった人なかなか嫌いになれないんだよね〟
あんな顔をさせて。諦めたようなため息をつかせて。寂しそうに笑わせて。)
――……ふざけんなよ。
(東を追って掴みかかろうとしたその手首を掴んでいた。正直声は裏返っていたし、なんなら震えてもいたかもしれない。それでも、恐怖だけはもう消えていた。身体から逆流してくるような熱がそれを遥かに上回っていた。
正面からみた元カレ――元中のイケてるグループだった同級生は虚をつかれたのか少しだけ怯んだような面持ちで。巨像ほど大きく思えたその姿がひどく小さく見えた。
だが次の瞬間、その口元がふっと嫌らしい形に曲がる。
『お前……よくみたら平じゃね?』
そんな言葉を伴って。
俺の鼓動は一瞬、大きく波打った。それでも、掴んだ手首を離すことはなかった。)
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