東 2024-07-20 01:24:27 |
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ッ……すんませっ――!
(――視界に差しはいる影。唐突なそれに早足だった俺は為す術もなく衝突する。ちょうど胸の高さの衝撃に俺は慌てて数歩下がって――その見知った女子の顔に鼓動が大きく跳ねた。
元中の同級生。ほとんど条件反射的に謝ったが相手の条件反射は俺のそれとは些か違ったらしい。「ちょ、あぶねーな……」みたいなのが舌打ちと同時に聞こえた。二の句を告げない俺に元中の女子――友人③は俺の頭から足元までサッと見てから「……気をつけてよね」と言った。
――もしかして気付いてない、のか?
相手は目立つグループで、俺は目立たない陰キャ。特別目を引く存在でない限り案外と気づかれないのかもしれない。それでも、目を合わせるのはなんとなく躊躇われてそっと後ろを仰ぎみる。そこには走ってくる東がいて。さらにその後ろ――男子浴場へ繋がる通路から元中の男が出てくるのが見えた。男はしばし首を彷徨わせてからこちらへ視線を向けて、手を掲げた。俺にでも、もちろん東にでもない。
友人③がそれに手を振って応じる。「遅い」などと声のトーンを高くして。
前に友人③。後ろに東とその元カレ(?だっけ?)に挟まれた形だ。
俺はどうしていいかわからず、ただこの場からすぐに逃げ出したくて、視線を泳がせていた。知らず口を引き結んで。拳をぎゅっと握って。
鼓動がうるさい。拳の中は変な汗でヌメっていた。
東。
ああ、東。
置き去りにしてゴメン。
俺は結局自分のことしか考えていない。
ああ、嫌だ。俺は今どんな顔をしているのだろう。せめて、気づかないで欲しい。そう祈って東に情けない視線を向けた。東の後ろからやってきた男はどうやら東に気づいたようだ――……)
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