伏見静 2024-05-20 07:55:48 |
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(目を瞑ってしまえば怖じ気付いてきっと動いてしまうからと目を開けたまま、貴方の行動を見守ったが──すぐ傍で聞こえたおぞましい断末魔と刃が産毛の先を掠めたような感触には心胆を寒からしめた。切っ先が額から逸れ、刀身が鞘に納められてもなお微動だに出来ず。「…は、」貴方ののんびりとした言葉にようやっと息を吐き出し、そうして自ら息を止めていた事に気付く。震える指先で懐からハンカチを取り出し、首筋に浮かんだ冷や汗を軽く拭って。深呼吸を意識しながら硬くなった表情のまま、貴方の言葉にやっと今の出来事が怪異犯罪対策課の──これからは自分も携わることになる仕事の一環だったのだと知る。それならそうすると事前に言ってくれれば──恨めしげな言葉が口を突いて出そうになるのを、唇を真一文字に引き結んで飲み込む。そもそも事前に伝えられたところで肝は冷えただろうし、厄介な存在に対処してもらった身で恨み言を言えるわけもない。額に浮かんだ汗も拭い終えると懐にハンカチをしまい直し、もう一度深呼吸をする。「ありがとうございます。…ここに来る前は頻繁に主張してきていたので、助かりました」幾らか落ち着いた声音で感謝の意を伝えるとゆっくりと目を閉じ、再び開けた時にはいつも通り──とはいかないが、少なくとも平静さを取り繕うことはできた。耳に残る怪異の声を振り切るように気を取り直すと、貴方が立て掛けた刀に視線をやり。「それは自前の装備ですか?」怪異の殲滅に必要なことは察せられたが、武器を支給されるとは知らずに「…俺も装備を用意した方が良いでしょうか」と今後を案じるように眉を下げて)
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