狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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おお…今宵は満月か。──どうリで血が騒ぐわけだ。
(時折隠れてしまう月だったがちょうど雲の隙間が出来たようでいっそつ白く照らされた庭に思わず顔を上げて見ると、そこにぽっくりと夜の海に浮かぶまん丸い月がひとつ。白く輝いていてとても神秘的、しかしながら獣には些か不都合というものが出てきてしまうもので。どれだけ神化に近かろうが所詮は獣の類、こうも綺麗な満月の夜はどうしてか上手い言葉で言い表せないがぽつりと呟いた通り血が騒ぐ。身体の底から煮え立つようなそれは今までに嫌という程味わってきたもので、今となっては見境もなく喰い散らかしたりなんでことはしないし自分の欲求を抑え込めるほどに精神力も成長している。些細な事で動揺も理性を失う事もないが、得体の知れないそれが常に張り付いているようで少しばかり薄気味悪いもの。やれやれと言いたげに首を降ると僅かに頭の上の耳が揺れ、気の所為かと眉間へ皺を寄せては少し歩こうかと立ち上がり。素足のままであるが、足の裏に感じる土や草の感触がとても心地良くて時々こうして素足のまま庭や竹林などを散歩をして使用人に怒られることもしばしば。だが今は誰も邪魔する者などなく自由に動き回れるとなればやっとの自由時間のように感じて楽しくて仕方がない。尾を揺らしながら散歩をしていると広い屋敷の向かい側まで歩いてきたようで、ふと視界の隅で動いた影に其方へ視線を向けると和服姿の相手の姿。色々なことが一度にたくさん起こった日だ、とても疲れている顔をしているなと考えれば思わず苦笑が零れてしまうが少しだけ相手の方へ寄ると声を掛けて)
おや、眠れないのか?──もう夜も遅いぞ。
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