狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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──お前は良い妻になる。今までの中でも指折りだ……その歳で不運な運命だがな。
(開いた扇子で顔を扇ぎながら、耳へと届く宴の無駄騒ぎが今こうして相手と2人で話しているのを妨げられているようで些か不快な気分にさせられる。まだ困惑しているのか、どこか落ち着きのない様子の相手だが、無造作の濡れ羽色の髪はどうにかしてやらんとなんて細めた双眼にそれを捉えつつ不意に陶器肌のような艶玉の頬に紅がさしたような気がしたがそれは化粧のせいなのか否か、口元を扇子で覆うと意地の悪い笑みを浮かべ。まだまだ恭しくほんとに齢十の幼子かと疑ってしまう程で苦笑が出てきそうになるも、そうならねばならぬ程の境遇だったのだろうかと頭の隅で考え。孤児院の出だと娘がやってくる前に噂をしている使用人が話しているのを聞いた事があるが、どうやらそれは本当の事だったようで背伸びをして無理に大人の様に取り繕い周りとは少し掛け離れた態度で過ごしてきたのだろうか。所詮は人間の幼子、どれだけ取り繕うともその心は脆く弱い。軽く捻ってやれば直ぐに壊れてしまうだろうに、今までもそんな娘は沢山居たなと少しだけ目元を細めると遠くを見るように庭へと視線を向けるもゆっくりと立ち上がり、相手の元へと半歩寄れば頭を撫でて)
まだお前は幼い。態々堅苦しい言葉も、私を“様”とも呼ぶ必要はない──慣れぬうちは無理ではあろうが……まぁ何かあれば躊躇いなく“喚び”なさい。何処に居てもすぐに迎えに行くよ──さ、宴に出ておいで。花嫁は出るしきたりだ、疲れた時は使用人に声でも掛けて早めに休むと良い。
(その瞳と、見た目の可憐さからは少しだけかけ離れた伸び放題の黒髪を軽く指で梳いてやれば、どこか哀しい色を含ませた瞳を向けるも妖しく黄金色に煌めくと、相手の前に片膝をついて屈むと長い髪を畳に垂らしては相手の右手を掴むとその甲に唇を落とし。僅かに口を開けば鋭さのある犬歯を柔肌に少し突き立てては相手にとっては鈍い痛みだろうかと考えつつ、暫くして顔を離すと相手の甲には菖蒲の華にも似た紅い痣のようなものが出来ており)
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